第101話 嫌いなんだよ
シルク神聖国遠征出発前夜――
「今回の遠征、俺がキレても気にしないでくれ」
黒の死神遠征部隊ミーティングで、冒頭に俺が発言した。
「いやいやいやいや、理由言っておいて下さいよ!」
オルトが、すかさず突っ込んでくれる。
(さすが、オルトだぜ……)
俺の信頼に応えてくれるオルトに満足しつつ、幹部のみんなを見ると、同意見なのか頷いていた。
「言わないと、ダメかな? そっとしておいてくれれば良いんだけど……」
「ケイ君!マジ勘弁して〜! あーしたちは一緒に行くんだからね!?」
今回遠征に参加するのは、俺の他には三者三様のみで考えていた。ナミエから言われたんじゃ、仕方がないか……。
「……ダメ?」
「ケイ君! 進まないわ! 何か言いたくない理由があるわけ!?」
アゼルにも怒られてしまった……、しょうがないな、恥ずかしいが――
「嫌い、なんだよ。あそこの騎士団長」
「「「「ん?……」」」」
「嫌い過ぎて、奴の顔を見たら、殴り飛ばすかもしれない……」
「「「「ええっ!?」」」」
「ちょっと待ってくれオーナー! シルク神聖国の騎士団長って、最近オーナーのお姉さんが入ったから抜けちまった、元七大聖王の!?」
「ああ、アホのギュエルだ」
「アホって!! だって、え?オーナーは面識あるのか?」
「無いよ」
「無いのに!? どういうこと!?」
(まあ、そうなるよなぁ〜……)
俺は手で顔を隠し、どう言ったものかと、天を仰いだ。
(だって、あのアホとクソ騎士団は――)
“俺のリリス“を何度も何度も何度も何度も、殺しやがったんだ!!
彼女を救う道筋を見つけるまでに、本当に何度も奴らに殺されたんだ。
聖魔法の集中砲火で死霊を打ち消され、まるでゲリラ豪雨のような矢の雨で瀕死になった彼女を、全方位から槍で串刺しにした。
(性格がクソなあの野郎は、死体を掲げて笑ってやがったっけなぁ……)
「…………」
「「ケイ君っ!!」」
アゼルとナミエに呼ばれ、意識が戻ってくる。
「あ…………」
(また、やってしまった……)
無意識に、死のオーラを開放してしまったようで……。
会議室内は、酷いありさまだった。
「ごめん……」
「ケイ君、これはダメだよ……」
「ケイ君さ~、二回目だよ?」
「……何故か、私も無事でした……」
しかし、無意識でもアゼルとナミエ、そしてエンジュへは放っていなかったようだった。
エンジュはそんな事実に顔を真っ赤にしつつ俯き、耳や尻尾を忙しなく動かしていた。
逆にアゼルとナミエに、ジト目をされる俺だった。
(なんか、本当ごめん……)
俺は意識を切り替え考える。
(今回みたいな時に、今までみたいな曖昧な説明じゃ納得できない場面が出てくるよなぁ……)
俺はまず、二人の恋人とエンジュに真実を話そうと思った。
今までは未来視として片付けてきた、俺の本当の過去を――
(他のみんなが、目覚める前に――)
俺は転生者で、ここは俺が知っているゲームの世界だったことを、彼女たちへ話した。そんな突拍子もない話を、彼女たちは最後までしっかりと聞いてくれたのだった。
「あたしは……、聞いて納得できた点の方が多すぎて、腑に落ちたわ。……何で初めから、あたしを好きだったかも、分かった……」
アゼルは表情が優れないが、納得した様子だった。
「あーしは、ゲーム?は分からないけど、何でも知ってる秘密に合点がいったさね…。それに――」
ナミエは満面の笑みになって――
「ゲームには居なかったあーしを、ケイ君は好きになってくれたってことっしょ? それって、あーしはめっちゃ嬉しいかも!」
「っ!? まあな……」
ナミエのストレートな言葉に恥ずかしくなった俺は、頬を掻きつつ横を向いた。
(クッソ可愛いなっ!! こいつ!!)
「あたしも、そこが気になったの……」
(ん?)
アゼルを見ると、悲しい表情になって俯いていた。
「ケイ君が好きなのは……、本当にここに居る、あたしなのかな?」
「っ!!!?」
「ケイ君が好きなアゼル・レヴァイアは、あたしじゃないのかも……、あたしは、ただ似ているだけのアゼルかも――」
「そんなわけあるかよ!!」
アゼルは俺の叫びに驚いて顔を上げた。
「確かに前世の俺を救ってくれたアゼルは、ゲームのキャラだ……。だけどさっ! ここで出会って、どんどん好きになっているアゼルは、俺の目の前に居るアゼルなんだよ!」
アゼルは目を見開き、その紫の瞳から涙が溢れる――
「ケイ君っ! あたしもっ! 今、あたしの目の前にいる君が好きだよっ!」
そう言って俺の胸に飛び込んできた。
「っ!? あーしも、めっちゃ好きなのっ!!」
ナミエも飛び込んできた。
(フッ……、俺はもう死ぬのかもしれないな……)
チラッと見ると、エンジュは俺たちを見ながら手をワタワタしていた。
(可愛いやつめ……。あれ? 愛してるとか、好きとかの話をしていたわけでは無かったような……)
まあ良いかと、俺は二人を抱きしめつつ、エンジュのワタワタしている様子を眺めながら、みんなが目覚めるのを待った。
黒の死神の仲間を信頼していない訳ではないが、四人で話し合った結果、これ以上の混乱は不味いだろうとの結論で、今回も未来視関連だということで説明を乗り切った。
(アゼルたちの援護射撃も効いたな。……三人には申し訳ないけど、真実を共有できて一番楽になったのは俺だよな……)
俺は三人に感謝し、これからも大事にしていこうと改めて心に誓った――
◇ ◇ ◇
シルク神聖国遠征が始まったが、基本的に神聖騎士団は教皇庁周辺に居るのもあってか会わずに済んでいた。
(ナミエたちとの修行も順調だし、このまま帰るまで会わないと良いなぁ~)
そんな時――
「ケイ~~! 今日はもう帰りか~~い!?」
アインが声を掛けてくれたので雑談していたら、ナミエとの関係もバレて何か恥ずかしい気持ちになったりして。
(親友にいじられるのは慣れねーなっ!!)
でも本心から祝ってくれて、本当にアインは良いやつだなって思っていたら……。
最悪な奴がやってきた――
「おい、貴様ら、迷宮の入口近くで騒いでいるんじゃない」
――神聖騎士団団長、ギュエル・マクミリオン。
見た瞬間に、前世での憎しみがフラッシュバックしそうになったが――
ナミエが俺の手を、ギュッと握ってくれた。
彼女を見ると――その瞳は俺を気遣ってくれていて……。
(ありがとう、ナミエ。君が居てくれて良かった……)
俺は一旦冷静になることができた。
なのに――
俺のナミエを、鼻で笑い飛ばした。
俺の親友を、コケにした。
「…………」
俺は一歩、前へ出る。
すると、ナミエは手を離して――
「しょうがないね? 行っておいでよ、ケイ君」
小声で俺を送り出してくれた。
(俺の嫁っ!! 最高過ぎだろっ!!!!)
もう迷いはない、俺はあのバカを――
ぶっ飛ばす!!
俺は怒りの中でも冷静になれていて、自分と仲間の保身のため相手を煽って、正当防衛になるようにアホに切り掛かって来させた。
「はい、正当防衛ね」
俺はアホの斬撃を避け、顔面にカウンターの拳を叩き込んだ。
ドゴオオオンッ!!!!
殴り飛ばしたアホは、迷宮の壁にぶつかり白目を剥いて倒れた。
(ざまぁ……でも――)
「これで許されると思うなよ?」




