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別れは、いつも突然に

なんか描写が長くて読むのに疲れる小説になってる感じがします。



ある日の昼前、村の入口のほうが妙に騒がしくなり始めた。


地面の奥から、重いものが近づいてくるような振動が伝わってくる。

その揺れに、作業していた村人たちも次々と手を止め、入口へ視線を向けた。


ユウも薪を運ぶ手を止め、肩に担いだ薪束を支えながら目を細める。


(……あれは、馬車か?)


しかも一台ではない。

車輪の数も多く、馬の足音も重い。商人の荷車程度では出ない振動だった。


そのとき、広場の端で縄を編んでいた中年の男が、苦いものを噛み潰したような顔で舌打ちする。


「……くそ、もう来やがったか」


その声に、近くにいた別の男が顔をしかめた。


「まだ少し早ぇだろ。今年」

「向こうが待つわけねぇだろ。こっちの事情なんざ知ったこっちゃねぇんだからよ」


その会話だけで、空気が変わった。


さっきまで聞こえていた話し声が途切れ、作業していた手が止まり、走り回っていた子どもたちでさえ親の顔色を見て静かになる。村全体に、冷たい水を流し込まれたような重い沈黙がゆっくり広がっていった。


「父さん、あれは……」


ユウが低く呼ぶと、近くにいたガルドは入口を見たまま小さく息を吐く。


「……代官だ」


短い返事だった。

だが、その声には隠しきれない嫌悪が混じっていた。


「代官?」

「ああ。税だの献上分だの、名前はいくらでもあるが、結局は“持っていかれる日”ってことだ」


ガルドは肩を回しながら、吐き捨てるように続ける。


「最近は戦の話も増えてるからな。あいつらも焦ってんだろ。どうせ俺らが冬を越せるかなんざ、頭の端にもねぇ」 

「それに、ここ数日で避難してきた連中も増えてる。隣の村が徴兵されたとか、街道で荷を捨てて逃げたとか、そんな話ばかりだ」


その間にも振動は近づき、やがて土煙の向こうから馬車の列が姿を現した。


先頭の頑丈な馬車の両脇には騎士が並び、その後ろには穀物や干し肉、家畜などを積んだ大型の荷馬車が何台も連なっている。


それを見た村人たちは無意識に視線を落とした。


見慣れた光景だ。

だが、慣れたことは一度もない。


やがて馬車が広場の前で止まり、荷車の扉が開く。

中から現れたのは代官だった。


贅沢を知らぬ者にはない緩んだ身体に、磨き上げられた靴。

土埃を嫌そうに払いながら村を見回すその目には、どこまで搾り取れるかを値踏みするような冷たさだけが宿っていた。


やがて、代官は口元をわずかに歪める。


「……三ヶ月ぶりだったな」


ゆったりとした声だった。


「もっと人が減っているかと思ったが……案外しぶとく生き残るものだな」


その言葉が褒めではなく、“まだ潰れていなかったのか”という値踏みであることを、村人たちは嫌というほど理解していた。


誰も口を開けない。


重い沈黙の中、代官は意にも介さぬように周囲を見回し、ふと干し肉の棚へ視線を向けると、わずかに眉を上げた。


「ほう……肉まで回るようになったか。前回来た時は、鍋の底を舐めるような顔をしていたのにな」


近くにいた男が思わず拳を握る。

だが隣の女が慌てて袖を掴み、小さく首を振った。


「やめな……」


かすれた声だった。

怒りを向けることがどれほど危険か、誰もが理解している。


代官はそんな反応を見て、わずかに笑った。


「そう身構えるな。今日は根こそぎ持っていくつもりはない」


ゆったりとした口調のまま、さらに続ける。


「君たちには、来年も働いてもらわなければ困るからな」


騎士の一人が小さく笑う。その乾いた笑いが、場の空気をさらに冷やした。

ユウは何も言わず代官を見ていた。感情は表に出ていないが、その視線だけが静かに冷えきっている。


隣でガルドが小さく舌打ちした。


「……相変わらず、人を家畜みてぇに見やがるな」


ガルドが吐き捨てるように呟いた声には、長年積み重なった嫌悪が隠しきれず滲んでおり、その言葉を聞いた周囲の村人たちも誰一人として否定しなかった。


代官の一行が村へ来るたび、畑は荒らされ、食料は削られ、人は怯え、誰かが消えていく――それがこの村では“いつものこと”になってしまっていたからだ。


その直後、代官の後ろに控えていた騎士の一人が鎧を鳴らしながら一歩前へ出ると、村人たちを見下ろすように視線を巡らせながら低く言った。


「村長を呼べ。すぐにだ」


その一言で、広場の空気が重く沈む。

村人たちは“今度は何を持っていかれるのか”と、無意識に視線を伏せた。


やがて広場の奥から、白髪混じりの老人――村長がゆっくり姿を現す。

疲れの滲む足取りだったが、それでも村を代表して前に出るしかなかった。


代官はそんな老人を見ると、どこか楽しむように薄く笑った。


「さて……今日は用件が二つある。まあ、お前たちにとっては、どちらも重い話だろうがな」


わざと間を置き、周囲の反応を眺めながら続ける。


「まずは税だ。滞納分も含め、きっちり納めてもらう。最近は多少持ち直しているようだからな。そろそろ払える頃合いだろう?」


その言葉に村人たちの顔がわずかに強張る。確かに以前より食料は増えた。だが、それは“ようやく死なずに済む程度”に戻っただけで、余裕などどこにもない。


村長がかすれた声で絞り出す。


「……申し訳ありません。まだ、とても満額など……」


代官はため息混じりに肩を竦めた。


「だろうな。見れば分かる。だが、こちらも仕事でね。“払えませんでした”で済ませれば、今度はこちらが首を飛ばされる」


そこで彼は少しだけ笑みを深くした。


「だからもう一つの話になる。徴兵だ」


空気が止まった。


騎士たちの鎧が軋む音だけが妙に大きく響く中、代官の視線が広場の男たちへゆっくり向けられていく。若い者、身体の大きい者、まだ働けそうな者を値踏みするように眺めながら、まるで市場で家畜でも選ぶような目をしていた。


「二名だ。他の村も同じ条件で出している」


誰も声を出せない。

代官は沈黙を楽しむように続ける。


「もちろん、税を満額払えるなら話は別だ。さて……お前たちは、どちらを差し出す?」


広場に冷たい沈黙が落ちた。風だけが静かに吹き抜け、誰もが“誰が連れていかれるのか”を考えながら、それでも口を開けずにいた。


だが次の瞬間、代官は退屈そうに顎を動かした。


「……まあ、どうせ足りんだろう。ならば村の中を改めさせてもらおう」


その合図と同時に騎士たちが動き出す。


家の扉は乱暴に開け放たれ、籠はひっくり返され、床下や壁の隙間まで容赦なく探られていく。干していた薬草は乾ききっていないものまで袋へ押し込まれ、ようやく蓄え始めていた保存肉も次々と引きずり出されて広場へ積み上げられていった。


「……見つけました」


騎士の一人が掲げた布の中には、乾燥肉と薬草、小分けされた果実が入っている。ほんのわずかずつ、村人たちが冬を越えるために必死で残していたものだった。


代官はそれを見て、小さく笑う。


「ほう。無い無いと言いながら、ちゃんと隠してはいたわけだ」


その瞬間だった。


「……待ってくれ」


静まり返った広場に、ユウの声が落ちる。

騎士の手が止まり、代官がゆっくり視線を向けた。


「……ほう。まだ何か言うか」


ユウは喉の奥の渇きを押し込みながら、一歩だけ前へ出た。


「それ、全部持っていかれたら……冬を越せなくなる。だから……全部はやめてくれ」


子どもの声だった。だが、その場の誰よりも切実だった。


「少しでいい。薬草も、肉も、全部なくなったらまた前に戻る。いや……前より酷くなる。だから……少しだけでも残してくれ」


代官はしばらくユウを見下ろしていたが、やがて喉の奥で小さく笑った。


「なるほど。必死だな」


そう言いながら一歩前へ出る。磨き上げられた靴が乾いた土を踏む音だけが、異様なほど大きく響いた。


「だが勘違いするな。徴収の規定は既に定められている。個々の事情で変えることはできない」


その言葉で空気がさらに冷える。

だが代官はふと、思いついたように口元を歪めた。


「……まあ、せっかく口を挟んだんだ。条件を変えてやろう」


その言葉に広場の空気が凍りつき、誰かが小さく息を呑む中、代官はゆっくりとユウへ視線を向けて口元を歪めた。


「お前の家族から一人出せ。それで、この食料には手をつけない。税の不足分も一旦は保留にしてやる」


まるで慈悲を与えるような口調だった。


「悪い話ではないだろう?」


代官が薄く笑いながらそう言ったあと、広場には重たい沈黙が落ちた。風だけが乾いた土の上を抜けていき、誰も口を開けないまま視線を伏せている。


誰か一人を差し出せば、この場は収まる――だが、それが何を意味するのかを、この村で知らない者はいなかった。


徴兵で連れていかれた人間の多くは戻らず、仮に生きて帰ってきても、以前と同じように暮らせる者はほとんどいない。だからこそ、その場にいた誰もが、“誰が消えるのか”を考えながらも、簡単には言葉を出せずにいた。


その沈黙の中で、ガルドだけがほんのわずかに視線を落とした。


(……俺か。それとも、ユウか)


考えるまでもなかった。


ユウはまだ八歳だ。森で動けても、罠を扱えても、戦場に放り込まれれば子どもなんて真っ先に死ぬ。最近増えている戦の話を思い出すたび、連れていかれる先がまともな場所ではないことくらい、嫌でも分かっていた。


だから迷う余地なんてない。


ガルドはゆっくり一歩前へ出る。乾いた土を踏む音が静まり返った広場に小さく響き、その背中を見た瞬間、エナの肩がびくりと震えた。


「……俺が行く、連れていくなら俺にしろ」


それは家族を守るための言葉だった。誰よりも危険を理解しているからこそ、自分を切り離そうとしていた。


だが次の瞬間――


「ダメだ。父さんが行ったら、この村が終わる」


ガルドが振り返る。


「何言ってる、ユウ……」


ユウは代官を真っ直ぐ見たまま言った。


「今、森が回ってるのは父さんがいるからだ」


その一言に、村人たちの顔が強張った。誰も否定できない。狩り場も、罠の位置も、危険な場所も――今の森はガルドを中心に回っているのが事実だった。


「父さんが消えたら、冬まで持たない」


ユウは一度だけ息を飲み込み、それでも続ける。


「だったら……俺の方が、まだ代わりが効く」


エナが崩れるように前へ出る。


「そんなの納得できるわけないでしょ……! あなたまだ子どもなのよ!? 戦場なんか行ったら……!」


震えた声が途中で掠れる。

ユウは一瞬だけ目を伏せ、それでも静かに返した。


「分かってる。でも……ここで全部崩れる方が嫌なんだ」


広場が静まり返る。ガルドは拳を握ったまま動けなかった。止めたい。だが、ユウの言葉が正しいことも理解してしまっている。


その沈黙の中、代官だけが満足そうに頷いた。


「決まりだな。話が早くて助かる」


騎士が前へ出る。鎧が重く鳴った。


「準備しろ。連れていく」


次の瞬間、ユウの腕が掴まれた。強引ではない。だが、絶対に逃がさない力だった。


「離せ……!」


反射的に叫ぶが、意味はない。

エナが飛び出しかけ、ガルドが止める。


「やめろ……。今は動くな……」


押し殺したような低い声だったが、その奥に必死に耐えているのがはっきり滲んでいた。


「でも……でもっ……!」


ユウはゆっくり振り返った。

ルクが不安そうな目でこちらを見ている。泣きそうなのを必死で堪えていた。

その顔を見た瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。


それでもユウは無理やり口を動かす。


「……大丈夫だ」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


騎士に押されるまま歩き出す。見慣れた村の土が遠ざかり、家も畑も家族の声も、少しずつ背後へ沈んでいく。代官はもう振り返りもしない。当然のように馬車へ向かい、ユウもその後を歩かされる。


荷台には木箱や袋が積まれており、その隅に“人を乗せるための空間”が当然のように空けられていた。


抵抗する間もなく身体を押し上げられ、足が地面を離れる。視界がわずかに揺れた。


そしてユウは――荷物と同じように、馬車の荷台へ放り込まれた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《詳細設定》


■騎士


騎士とは、幼少期から戦闘訓練を受けて育てられる戦闘専門階級である。


剣術・馬術・体術などを体系的に習得しており、個としての戦闘能力は極めて高い。装備も専用の高品質なものを支給され、鎧・剣・馬を用いた重装戦闘を標準とする。


戦闘性能は非常に高く、通常の兵士と比較した場合、騎士一人はおおよそ兵士3〜5人分の戦力に相当する。


そのため本来は前線部隊や重要拠点の防衛などに配置される存在であり、地方行政官の護衛として常時随行することは稀である。


また、騎士には明確な階級が存在し、主に以下の区分に分かれる。


* 上級騎士:戦術指揮・精鋭部隊指揮を担う上位戦力

* 中級騎士:実戦主力として最も多く配備される標準戦力

* 下級騎士:実戦経験が浅いが、兵士を大きく上回る基礎戦力


ただし今回のように、特定の権力者の意向によって本来の配置を外れ、地方へ随行する例外も存在する。

その場合、任務の優先順位は「戦闘任務」よりも「護衛対象の安全確保」が上位に置かれることが多い。


※ステータスについては今後記載予定


■兵士


兵士とは、領主の命によって徴集された農民や職人などで構成される基礎戦力である。

主な役割は戦闘の最前線ではなく、戦線の維持や集団行動による圧力の形成にある。


基本的な槍の扱いと簡易な隊列行動のみを訓練されており、戦術理解や個人戦闘技術は最低限に留まる。そのため実戦経験に乏しい者も多く、個々の戦闘力は高くない。


騎士のような精鋭戦力とは比較にならないが、数を揃えることで戦力として成立するのが特徴である。


主な任務は以下の通り:


* 徴税・警備・巡回などの治安維持業務

* 小規模な盗賊・魔物の対応

* 戦時における前線維持および消耗戦の担い手


※ステータスについては今後記載予定



■代官


代官とは、領主グレイロード家に仕える行政官であり、村や集落を巡回して実務を担う役職である。


税の徴収、徴兵、人員管理、治安確認などを行い、戦闘ではなく「領地管理の現場実務」を担当する。


村にとっては最も身近な領主側の人間であり、生活に直接介入する存在でもある。飢饉や不作でも容赦なく徴収を行うため、恐れと反感の対象になりやすい。


通常、護衛は兵士数名程度で騎士が同行することはほとんどない。騎士は前線や重要拠点向けの戦力であり、地方巡回には過剰だからである。


しかしこの代官は例外である。


長年の横領によって私財を蓄え、その結果として強い恨みを買っているため、異常なまでに安全を重視する性格となった。


そのため通常では考えられない規模の護衛を常に同行させ、今回は兵士に加えて騎士まで帯同している。


それは単なる警戒ではなく、武力による明確な威圧である。




一番出したかったEPでした。

Xに設定画を投稿していますので、よければ見てください!

https://x.com/xyvks6ol1hnqvwv/status/2058179728612405486?s=46

騎士&兵士&代官の設定画と下級魔物についての設定画など

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