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騙り神の忘却  作者: 不透明白
終わりを結ぶ

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32/32

 〈 を 〉


 目の前で立ち登る煙が指すものは何なのか。

 凄惨な悲鳴が響き渡り、その中に混ざる微かな笑い声が、日常の崩壊をまじまじと突き付けてくる。

 ナイフを片手に歩く人間を何度見たことか。肉が焼かれただれる残酷な音を何度聞いたことか。

 放浪する野放しの飢えた獣がすぐそこまで歩いてくる気配がする。

 ここにもう平穏な日常はないのだろうか。

 果たして、明日は来るのだろうか……。


「……お姉さま? その不敵な笑み……どうされたんですか?」


「――いや、何でもないよ。気にしないで」

「? そうですか……あ、お肉焼けましたのでここに置いときますよ?」

「うん、ありがとね」

 嵯峨野花は紙皿を骸井に渡すと、新井リタのいるバーベキューコンロの辺りへと戻っていった。

 物騒なことにナイフ片手に走って行った。

 彼女の中で最近流行っている、『目の前の映像を大仰な表現にするゲーム』の最中に話しかけられたので、どうやら油断していて顔が緩んでいたらしい。

 ――ということを、さっきのハナの発言を受けてやっと気付いたのだ。表に出さずともしっかりと羞恥心が精神的ダメージを食らわせている。

 うーん、ううーん、あぁ、駄目だ! どう紛らわそうとしても恥ずかしい! という叫びにならない心の声が骸井の胸中をこだまする。

 山中の奥の奥、山道なんか一つもない荒れた土地にポツンと建った一軒のコテージ。

 その軒先に腰を下ろしながら、庭で開催されているバーベキューの風景を見る九又行灯猫の女王。


 ちょっと前の状況からは想像もできないこんな現状に、全く現実味を感じない。


 目の前を見れば、神下と新井リコが一緒になって虫や花を見ているけど、神下は虫にびくびく怯えながら頑張って花を見ている。

 多分さっき聞こえた悲鳴は神下なのだろう。

 視線を動かして、料理を担当しているのはハナと新井リタだけど……遠目から見たら料理じゃなくて研究会でもしているのかという趣きすらあった。

 後ろを振り返り、大きな窓からコテージの中を覗けば、招待した猫又が談笑していたり、満腹感からなのかソファにみんなで固まって眠っているようだった。

 猫又達で言うと、どうやら世間では『高校生が集団で行方不明になった』という怪事件として世間を大きく賑わせているらしい。

 現場に来た国の警察達は本当のことを秘匿しているけれど、それよりも何よりも。

 こんな山奥にも噂が回ることの方が恐ろしい。現代の情報網は末恐ろしい。

 彼女は昔を思い返しながら、そんな感想を抱いた。

 この山一帯は結界が施してあるので、一筋縄では入れないようになっている。

 なので、骸井達と同じ様にこの近辺に居を構えている猫又達の安全もしっかり確保されている。

 彼が彼女になった時、記憶も一緒に引き継がれるかどうかは、ハナとしても予想できなかったと言っていたけれど、現在こうやって彼ら彼女らを認識出来ているのが間違いない証拠であり、結末であった。

 ……これまで、私に名前など無かったけれど、あの子が付けてくれたのならばこれからも『骸井九』と名乗っていいかな、と考えてしまう彼女の顔は柔らかい微笑みで溢れている。

 つくづく私はあの子に甘い。


「みんなー! 焼きそば焼けたよー!」


 その呼び声にみんなが集まっていくのを見て、私も立ち上がり歩いて行く。

 「匂い」が記憶に一番結び付くというのならば、いつの日か、この風景を思い出す時が来るのかもしれない。

 もしかすると次に思い出すのは、またこのみんなで集まって同じ様にテーブルを囲んだ時かもしれないと思うと、私は待ち遠しくてたまらない。

 心から私はそう思うのだった。


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