私は忍者 (神崎梓視点)
私と柏木は忍者部にかけもち入部した。
入部することになったきっかけは、柏木に誘われたからだった。
「英愛学園に潜入した時、楽しかったよね」
話の成り行きで、アイツがそんなことを言い出したのだった。
「また忍者になりたいなぁ」
「そうね。私もあれはスリリングで、ドキドキしたわ」
私は答えたのだった。
「柏木……。あんた、かけもちで忍者部に入ったらいいんじゃない?」
「一人じゃ入りにくいなぁ……。神崎も一緒に、どう?」
「そうね。なんか楽しそう」
心の内ではおやつを欲しがる犬みたいにはしゃぎながら、冷静を装って返事した。
「入ってあげてもいいわよ?」
その初日が今日だった。
部長の服部さんにはもう了承をとってあった。
入部届けを手に、私と柏木は天井を見上げた。その天井裏に、忍者部の部室はあるのだ。
「どうやって入ろう?」
柏木が私に聞く。
「根性よ」
私は答えた。
「根性おぉぉぉー!」
ジャンプして、私が天井を四回ノックすると、天井の蓋が開いた。
「ようこそ忍者部へ!」
顔を現した忍者装束のひとが、縄梯子を下ろしてくれた。
広い隠し部屋に入ると、部員のみんなが忍者装束でティラミスを食べていた。
「よくぞ参られた」
服部部長があぐらを組んで座りながら、ティラミスをハシュシュとスプーンで口に運びながら、私たちを歓迎した。
「とりあえずお主たちもティラミスを食うがよいでござる」
「なんだ……。かぶってしまいましたね」
柏木が残念そうな顔をしながら、それを差し出す。
「ボクもお近づきのしるしにこれ、持ってきたんですよ」
「そ、それは何でござるか?」
「ホテル・プラチナの高級ティラミスです。よろしかったら、どうぞ」
スーパーで買ってきたらしきティラミスを、みんなが床に置いた。目が貪欲にギラギラ輝いている。
私は先にひとついただいていた。はっきり言って、一口食べて飽きていた。庶民の口にはやはり、庶民のもののほうが合う。
ひとつ920円らしいけど、私にはいつもスーパーで買っているひとつ218円のやつのほうが美味しかった。
「ところで」
ティラミスに夢中になっている部長に、私は聞いた。
「忍者部って、どんな活動をしているんですか? とりあえず、どこかに潜入する予定とかは──?」
「日常的な活動は、忍術と体術の修行でござるよ。それと並行して諜報活動も行なっているでござる。ハシュシュ……」
「じゃ、忍術を教えて?」
「それはまずティータイムが終わってからでござる。ハシュシュ……」
「まずはユニフォームにお着替えください」
女子部員がそれを持ってきてくれた。
前に着たことのある、あの赤い忍者装束だった。
これを着るためというのが、忍者部に入りたい理由のひとつだった。
衝立の陰で着替えると、私は「じゃーん!」と言いながら姿を現した。
「おお!」
部員のみんなが拍手してくれた。
「さすがは学校一のアイドルでござるな!」
「こんな美しいくのいちは見たことないでござる」
向こうの衝立の陰から、柏木が姿を現した。
白い忍者装束だ。
すらりと背の高いスタイルによく似合う。
これがもう一度見たかったのも、私がここに入部した理由のひとつだった。
「どうかな?」
柏木がちょっと照れくさそうに言う。
「似合う?」
女子部員から嬌声があがった。
「キャー!」
「韓流アイドルみたい!」
「一緒に大阪城の抜け穴の絵図面探しのお仕事、しません?」
うん……
目に心地よい。
茶羅尾先輩をぶっ飛ばすきっかけをくれた彼に、私は惹かれはじめていた。
「楽しかったね」
柏木と並んで、廊下を歩く。
なんだか見慣れた学校の景色が違って見えた。
「キミを誘ってみて、よかったよ」
柏木が甘い声で言う。
「そのうちまた、他校に潜入する仕事、やりたいな」
「あれは楽しかったもんね。また機会があったら、一緒に潜入しようよ」
なんだか自分が自分じゃないみたいだ。
大嫌いなイケメンと並んで歩いてるのに、素直になれてる。
今……、もし、何か嬉しい言葉でも言われたら、もっと素直になってしまいそうだった。
「ん?」
廊下を歩きながら、柏木が先に、それを見つけた。
「あれは……?」
そう言われて、生物室の扉を見ると──
「なんだ、あれ」
私も声を漏らした。
部室の扉から、糖分のようなものが漏れ出ていたのだ。




