素直すぎる二人!
「おう、紺青!」
学校へ出かけようとする俺を、後ろから父ちゃんが呼び止めた。
「柏木の坊ちゃんから聞いたぞ! おまえ、カノジョができたんだってな!」
くっ……!
恥ずかしいから言いふらすなって言ったのに、ハルトのやつめ……
「どんな娘だ? 美人か?」
仕方なく正直に答えた。
「あぁ、世界一の美人だ」
「しかし引っ込み思案のおまえがなぁ……。今まで柏木の坊ちゃんと犬だけが友達だったおまえがなぁ……」
父ちゃんが感動の涙を流しはじめる。
「やはり根性で告白したのか?」
「うん。根性があれば何でもできるんだな。父ちゃんの言うとおりだ」
「今度うちに連れて来い」
感動の涙で頬を濡らしながら、父ちゃんが笑う。
「いいな? 俺の娘になる子だ。早いうちに父ちゃんも仲良くなっておかねばだからな」
「おう」
父ちゃんとゲンコツを合わせ、俺も笑った。
「じゃ、学校行ってきます」
「重いコンダラは引いて行かないのか?」
「いいんだ、あれは、もう」
幸せに頭の上を輝かせ、俺は答えた。
「朝日奈笑は低身長の俺が好きなんだ」
「いい子だ!」
俺に低身長を遺伝させた父ちゃんが、俺よりちょっとだけ高いところでウンウンとうなずいた。
「そうだ! 男は身長じゃねェんだ! ちっちゃいカラダにこそでっかい根性が宿るってもんよ!」
「行ってきます!」
「明日から弁当作らねェからな! カノジョさんに作ってもらいな!」
父ちゃんの後ろからパグ犬のポチ太郎もわんわん見送ってくれた。
いい朝だ。
今日もいい朝だ。
朝日奈笑と付き合いはじめてから、ずっといい朝だ。
この角を曲がると楽器店がある。
その前で、いつもの三人と合流する。
今朝もヤツらは俺を待っていてくれた。
「おはよー、コンジョーくん」
カワイコちゃんが手を振ってくれる。
「オッス、コンジョー」
ハルトがいつものいい笑顔で手を挙げる。
「おはよう、コンジョーくん」
まぶしっ……!
今朝もいつも通りのまぶしさだぜ、朝日奈笑!
こんな太陽みたいな天使猫と、俺みたいな薄汚れた野良犬が付き合ってるなんて、この世の奇跡だぜ!
俺は三人それぞれに挨拶を返した。
「おはようございます、カワイコちゃん」
「オッス、ハルト」
「朝日奈笑……」
俺は声に力を込めた。
「好きだ!」
「うん! あたしも好きだよ、コンジョーくん」
にっこり笑って朝日奈笑が応えてくれる。
「もう、二人ともいつも素直すぎー」
カワイコちゃんとハルトが恥ずかしそうに後ろを向きながら言った。
「羨ましいよ、その素直さが」
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放課後、根性部の部室へ行くと、新入部員の二人はもう来ていた。
「段田先輩! 今日もぼくたちに根性をご教授願います!」
なっしーくんが丁寧にお辞儀をする。
「ど……、どうしたいのかな、根性で?」
だめだ……。この二人の前ではまだ緊張してしまう。根性で人見知りを治さねば。
「根性を使って、キミたちは何がしたいんですかねぇ? ハハハ……」
「わたしはもっとテニスが強くなりたいです」
高嶺さんがキラキラした目で答える。
「あっ。そろそろあっちの練習に行かなきゃ! すみませんけどテニス部のほうへ行ってきますね」
寂しさを隠せない様子でなっしーくんが手を振る。
「じゃ、なっしーくん、またあとでね」
そう言うと高嶺さんも手を振り返し、部室を出ていった。
その後ろ姿を見送りながら、なっしーくんが背中で言う。
「段田先輩……。ぼくは……」
「うん」
そこで言葉を切ってしまった彼に、俺が聞く。
「キミは? 根性で何をしたいんですか?」
「ぼくは……っ!」
すごい勢いでなっしーくんが振り向いた。
「高嶺さんとの仲を! もっともっと深めたいんです! 具体的に言うと、き、き、キスしたい! 手を繋ぎたい! 抱きしめたい! 彼女がテニスのことなんてどうでもよくなることなんて望んでないけど、今みたいにあっさりとテニス部のほうへ戻ったりしないぐらい、ぼくに夢中になってほしいんです! 根性でどうにかなりますか!?」
「残念だが……根性で他人を変えることはできない」
真摯に答えてあげた。
「しかし、キミがもっともっと魅力的になることで、彼女を夢中にさせることはできます」
「先輩は──!」
なっしーくんの声に力がこもる。
「どうやってその魅力を身につけたんですか!?」
「……えっ?」
「朝日奈副部長は段田先輩のことを好きすぎますよね?」
「えー……」
俺はさるのように頬をポリポリ搔いた。
「そ、そうかな……?」
「どうやってそこまで夢中にさせたんですか? 教えてください!」
「な……、何もしてない」
「そんなわけないじゃないですか! お二人の熱愛ぶりは異常なほどです!」
「聞こえてるよー? なっしーくん」
ひょこっと横から朝日奈笑が顔を出した。かわいい。
「好きだ!」
俺の口から思わず言葉が飛び出した。
「好きだ、大好きだ、朝日奈笑!」
「うん、あたしも大好き!」
朝日奈笑はそう言ってにっこり笑うと、なっしーくんのほうを向き、言った。
「好きにさせようなんて思っちゃダメ。なっしーくんが全力で好きな気持ちを伝えれば、白百合ちゃんもそれに応えてくれるよー」
「ぜ、全力で……」
さすがにいいことを言うぜ、朝日奈笑。さすがは俺の天使猫だ。
ただ、ちょっとだけ心配だったので、彼女の言葉に俺はつけ足した。
「朝日奈笑の言うとおりだ。──しかし、過ぎたるは及ばざるが如しだぞ? 全力を通り越してストーカーみたいになってはだめだ」
「あ、そうか!」
朝日奈笑が笑ってくれた。
「だよね! なっしーくん、いかにもそうなりそうなタイプだもんね!」
素直すぎる……
素直すぎるよ、朝日奈笑。頭に浮かんだ言葉がすべて口から出ちゃうんだな。
そんなところもかわいくて──
俺は大好きだぞ!
「わかりました! 度を超えないように、しかし全力で頑張ります! ……そういえばぼくもテニス部だった、球拾いだけど。……今から彼女を追いかけます!」
なっしーくんが張り切って部室を飛び出していった。
なんか不安だ、この子……。




