男の嘘、女の嘘
二人を見てるとじれったい。
柏木くんはどう見ても梓ちゃんのことが気になってる。あたしのことは猫ぐらいにしか見てないのがわかるけど、梓ちゃんの側に立つと急に挙動不審になる。
梓ちゃんも、口では「クソイケメン嫌い」と言ってるけど、あたしの目から見ると、たぶん、柏木くんへの好感度は爆上がりしてる。
一緒に忍者の格好をして他校に潜入した時あたりからだ。気づくといつも柏木くんの側にいる。
あまりにじれったいので、いつものように殺伐としたやりとりをしてる二人の間に割り込んで、煽ってみた。
「梓ちゃん、最近いつも柏木くんの隣に座るよね? 正直お似合いだと思うんだけどなー、柏木くんと梓ちゃん……」
「ハァ!?」
梓ちゃんがゴリラみたいになって暴れだした。
「な、何言ってんのよ、笑! たまたま座ったところにコイツがいるだけなんだからねっ!」
「ほら、柏木くんも」
柏木くんに期待して、彼のことも煽ってみる。
「お似合いだよ? 付き合っちゃいなよ、梓ちゃんとっ!」
「ば……」
なんか笑いだした。
「ばかだな! ばっかじゃねーの、朝日奈ちゃん! こんなツンツン狐と付き合える男は不死身のデッドプールぐらいだよ! 冗談はやめてくれよな、ハハハ!」
「好きなくせに」
梓ちゃんが横目でバカにするように柏木くんを見て、ニヤリと笑った。
「気づいてるわよ。あんた、しょっちゅう私のことコソコソ見てるでしょ」
「ばっ……!」
柏木くんがいつものように挙動不審になる。
「ばか言っちゃいけない! 何を言ってるんだ? このオレが……? 君なんかを……? うぬぼれちゃいけない!」
「あぁ、よかった」
梓ちゃんが深呼吸をした。
「あんたみたいな糞イケメンにつき纏われたら拳がいくつあっても足りないところだわ」
おかしい……、この二人……。
ネットで見たことがある。
「男は『好きだ』と嘘をつき、女は『嫌いよ』と嘘をつく」──そういうものらしい。
男のひとはべつに好きじゃなくても単にカラダ目当てとかで「好きだ」と言える。女の子はほんとうは好きなのに素直になれなくてつい「嫌いよ」と言ってしまう。そんな感じなのかな、あたしごときにはよくわからんけど──
でもこの二人、梓ちゃんは確かに女の子らしく「嫌いよ」と嘘をついてるけど、柏木くんも「嫌いだ」って嘘をついてる。
どういうこと??
難しい……
この問題、難しい……。あたしの大の苦手の三角関数みたい。サイン、コサイン、タンジェント──
「わぁっ、わたし、頑張ります!」
離れたところで新入部員の高嶺白百合ちゃんが声をあげた。
「一緒に頑張ろうね、なっしーくん」
「うん、高嶺さん!」
陰キャの今生梨くんがすっかり陽キャに変わってる。
「なんかぼく、根性アリなやつになれそうな気がしてきたよ!」
「ははは……は……」
コンジョーくんがいつもの人見知りを発揮してる。
「よかったねぇ……。よかったです。根性さえあれば何でもできるんですねぇ」
あたしは素速く彼らの輪の中へ移動して、なっしーくんをけしかけた。
「じゃ! 早速なっしーくん、根性見せてもらおっか」
「ええっ……!?」
びっくりしてなっしーくんがあたしを見る。
「な、何をすればいいんですか?」
「高嶺ちゃんのこと、『高嶺さん』なんて呼ばずに、恋人呼びしてみよう」
嬉しそうに高嶺さんが自分の頬を両手でおさえた。
あたしは好奇心ノリノリでさらにけしかける。
「下の名前で呼ぼう。ほらっ!」
「し……」
なっしーくんの顔がみるみる赤くなるのが面白い。
「しらゆり……さん」
「さんはいらない!」
おおきく息を吸い込むと、なっしーくんがお腹に力を込めて、言った。
「しらゆり!」
「はい!」
高嶺さんが輝く笑顔で答えた。
「なに? なっしーくん」
「呼んでみただけっ!」
ベタだ……。
ベタはわかりやすい。そして気持ちいい。
そしてこの二人、嘘をまったく感じない。
あの二人とはまさに正反対だ。
オモチャのお猿が電池切れかけで鳴らすシンバルみたいな拍手を二人に向けてしているコンジョーくんの耳もとに口を近づけ、あたしは聞いてみた。
「……ね、コンジョーくん。柏木くんと梓ちゃんのことだけど──」
「えっ」
あたしに話しかけられて、ようやくコンジョーくんが人見知りモードを解いた。
「なんだ、朝日奈笑? ハルトとカワイコちゃんがどうかしたのか?」
「柏木くんて、もしかして、女の子なの?」
「へ!?」
「だって男の子のくせに『嫌いだ』って嘘ついてる」
コンジョーくんが笑顔のまま、目だけがハテナマークになった。




