第9話 さらばだ大男さん
そんなことより、さっきから私の処遇で揉めてるよね。
よいしょっと。
起き上がり、両前足を揃えてジェイクさんの目の前に座る。
「ジェイクさん。ご飯とお水、ありがとうございました。とっても美味しかったです。このご恩は決して忘れません!あと、これ以上のご迷惑はかけられません。一応前世は大人だったんで、自分でなんとかします!」
「何だ?いきなりニャーニャー鳴き出したけど。」
「さあな。もしかしたら寂しいのかもしれない。」
くう~。やっぱり伝わらないか。
少ししょんぼりして、俯く。
「く、後頭部可愛い。」
沢山可愛いって言って貰えて嬉しかったな。
顔を上げると、口元を片手で塞いだジェイクさんと目が合う。
「それじゃあ、さようなら!」
部屋を見回し、窓の下にある机に飛び乗る。
すると、ジェイクさんが慌てる。
「危ないぞ。そんなところに上ったら。ほら、こっちにおいで。」
「危なくないだろ。猫だぞ?」
ライアンさんが呆れた様にジェイクさんに言う。
「うるさいっ!」
言い合いをする二人を横目に、換気の為か、少しだけ開いている窓から飛び降りる。
「とりゃーーーー!」
「「ああっっ!?」」
驚く二人の声を聞きながら、私も叫ぶ。
「ぎゃー!?そういえば、ここって何階なのーー?」
子猫が窓から外に飛び出し、部屋に残された二人は呆然とする。
「なあ、やばくないか?街の方に逃げたぞ。」
「…大丈夫だ。あの子は大人しいし、頭も良さそうだった。」
「でも、もしも《帰らずの森》から来た生き物を街に逃がしたなんて、上に知られたら、俺ら懲戒免職もんだぞ。」
「次の非番の日に探してみる。…まあそれまでは、取り敢えず黙ってよう。」
「だな。俺も手伝うわ。…仕事するか。」
「ああ。」
二人はそっと部屋の扉を閉めてから、街と森から続く街道とを隔てる門を警備する仕事に戻った。
「ぶふぁーー!良かったあぁぁ。」
何とか上手く地面に着地し、呼吸を整えてから窓を見上げる。
「ふう、1階じゃなかったらヤバかったよ。」
前方に視線を戻すと、少し先に街が見える。
「よーし。取り敢えず街まで行ってみるか!」
ゴーゴー!
意気揚々と街への道を歩きだす。
しばらくすると、建物に近付いて来た。
「うわあ!人がいっぱいだぁ。」
警備兵達の休憩所は、街をぐるりと囲む壁に一定の間隔で併設されており、街からは少し離れているので、今辿り着いたのは街の端。
実際には人通りは疎らだ。
だが、興奮した子猫にはそんなことは関係ない。
「くあぁ~!前世ぶりの沢山の人間だーー!なんか、テンション上がってきたぞー!」
上がりきったテンションの赴くままに歩みを進める。なんなら、小走りまでしている。
街の中に入り、近くを人が通る。
「こんにちは!」
テンションが上がりすぎて、すれ違う人達、皆に挨拶をしまくる。
相手には鳴き声にしか聞こえないのだが。
「はは。愛想のいい猫だな。いや、狸か?」
通り過ぎた人が、そんなことを言っていたが、元気いっぱいの子猫には聞こえなかった。
ありがとうございました。