第36話 みんな仲良しがいい
林に着くとアランは、ちらりと私を見てから中とへ進んでいく。
私は林の手前で少し悩みながらも、アランを追いかけた。
「アランは林に何しに来たの?」
アランの横を歩き、見上げながら問いかける。
「この林はとっても美味しい木の実が採れるんだよなー。それで作るお菓子を孤児院の皆も楽しみにしてるんだよなー。」
アランは棒読みで独り言のように答えてくれた。
ほうほう。美味しい木の実かー、楽しみですねえ。
しばらく歩き、林の奥まで来ると、アランは辺りを見回して、人気がないのを確認してから、私に話しかけた。
「オヴィ、今日はどうしたの?」
「妖精さん達に会うついでに、アランとリリーの様子を見に来たんだよ!」
「そうだったんだ。昼間に来るからビックリしたよ。」
「へへ、ごめんね。元気かどうか、ちらっと見て帰るつもりだったんだけど。あっ。」
低い木の茂みに赤い実が沢山なっているのを見つける。
「アランが言ってた木の実ってこれ?」
「うん。甘くて美味しいんだ。」
アランがラズベリーのような実をいくつか摘んで一つ食べると、残りを籠に入れる。
「私も手伝うね!」
「ありがとう。」
赤い実を潰さないように、両前足で優しく引っ張る。すると、ぷちっと簡単に摘むことができた。
「うわっととと。いて。」
後ろ足で立つことになり、バランスがとれず尻餅をつく。その拍子に赤い実を潰してしまう。
「もったいない、もったいない。」
うんうん、と頷きながらペロペロと前足を舐める。
「あまーい。」
次に口を使って果柄の部分を掴むと、それごと実を採取した。
「とりぇた。」
アランが持つ籠に入れようと、顔を上げる。しかし、見える所にアランはいない。
もっと奥まで入っちゃったのかな?と思いアランを探そうとする。
「おいっ!ちび、てめーまた来やがったのかっ!」
「ぴゃっ」
いきなり目の前に狸が現れたので、思わず悲鳴がもれ、地面に赤い実を落としてしまう。
「しかも、猫のくせに林の食いもんにまで手を出しやがったなっ!」
「ち、ちがうよ!これはお手伝いしてるんだよ!」
「嘘つくなっ!口の周りが汁で汚れてるぞっ!」
ハッとして、前足で口元を拭う。赤い実の果汁でベトベトしていた。
くぅ~こりゃ勘違いされちゃうよー。
「これは、しょうがないっていうか、味見っていうか。本当に人間のお手伝いしてるだけだよっ!」
「この嘘つき猫めっ!」
狸さんが飛びかかってくる。それを一生懸命避けていると、アランが奥から戻ってきた。
「何してるの?」
そうして、アランが私をひょいっと抱き上げた。
「そうやって、いつもお前らばっかり守られてんだっ!」
狸さんは、私を睨み付けてからサッと茂みに消えていった。
「大丈夫、オヴィ?何があったの?」
一方的に責められたけれど、私は狸さんを悪者にしたくなくて言い淀む。
「とりあえず、籠がいっぱいになったから戻ろうか。」
「うん。」
アランは私を地面に降ろし、前を歩いていく。
「全然手伝えなくてごめんね。」
「いいよ。オヴィは何か言いたいことある?」
私が黙っていると、アランがまた話し掛ける。
「夜においでよ。久しぶりだから、オヴィともっと話したいしさ。」
「うん。」
そういって別れた後、祭壇に向かったけれど妖精さん達をサーカスに誘う気分にはなれなくて、早々に祭壇で寝ることにした。
目覚めると体が楽になった分、気分も少しは晴れていた。
「まだ少し早いけど、孤児院に行ってアランを待ってようかな。」
夜の帳が下りはじめた空を見上げながら、私は孤児院へと歩き出した。
孤児院までくると、まだ窓から明かりが漏れていた。窓に近付き中を覗くと、子供達が仲良く夕食をとっているところだった。
アランもリリーちゃんも楽しそうだなぁ。やっぱり皆、仲良しが一番だよね。
もうしばらくすれば、アランもやって来るだろうと、私は窓から離れて、いつもの木の下へ行き、そこでくるりと丸くなった。
誰かに背を優しく撫でられている。温かいなぁ。
「…かあさま。」
会いたいよ。
「オヴィ。」
優しい声に目を開けると、アランと目が合う。アランが膝の上で撫でてくれていたみたい。
林でのことや、孤児院の夕食風景を見たからか、少しだけ感傷的になっちゃってたや。いかん、いかん。人生は元気に楽しまないとねー!
「アラン!いつの間に来たの?」
「さっき来たところだよ。オヴィ、少しは元気になった?」
「うん!心配かけてごめんね!」
アランはにこりと微笑んで、よしよしと私の頭を撫でた。
「実はね、街の猫と林の動物達って仲が悪いんだ。」
それから私はアランに、ブランシュさんから聞いたことを話した。
「そうだったんだ。僕、林の動物達と話したことがなかったから、知らなかったよ。」
「私も林にいるみんなとは、ちゃんと話したことないの。でも彼らのナワバリに勝手に入っちゃったこととか、食料も勝手に食べちゃったこととか謝りたいの。それに、彼らの本当の気持ちを知りたいんだ。その上でこのまま、お互いに不可侵を貫くのか、もしくは歩み寄れるのかを話し合いたい。誰かが寂しいのは嫌だもん。」
「そっか、なら僕も手伝うよ。第三者がいた方が冷静になれるでしょ?」
自分勝手な私の考えに、アランは手助けを申し出てくれた。
「だめだよ!アランはスキルのこと秘密にしたいって言ってたじゃない。だから、この問題は私だけで解決する!」
「オヴィ、僕ら友達だろう。友達が困ってたら助けるものなんだよ。」
アランは私の両前足をぎゅっと握った。
「…ありがとう、アラン。」
「ふふ、どういたしまして。それで、どうする?」
「うーん、いきなり林に行くのは無謀かな?」
「でも林の動物達は、滅多に林の外へは出てこないんじゃない?だってこの辺りで見かけたことないし。」
「だよね。うーん。とりあえず、林の外から話し掛けてみようかな!」
「それがいいかもね。じゃあ、明日の自由時間に一緒に林に行こう!」
「え、昼間だよ?それにリリーちゃんもいるし、流石に危なくないかな?」
今日みたいに私に飛びかかってこられたら、リリーちゃんが吃驚してしまうかもしれない。しかも昼間に長く一緒に居れば、話しているところを誰かに見られて、スキルがバレてしまうかもしれない。
「リリーにはお昼寝させて留守番してもらうよ。スキルは、なるべく話さないように気を付ければ大丈夫。」
「…わかった。だけど、絶対話しちゃダメだよ!見守ってくれるだけでいいからね。やくそく!」
ピッと前足をアランに差し出すと、アランはそれに小指を絡めた。
「うん。約束。」
「よーし!じゃあ、明日決行だー!鋭気を養うために私はもう寝るよっ!アランも早く寝てっ!」
「はいはい。おやすみオヴィ。」
「おやすみアラン。」
いよーし、明日は気合いを入れて頑張るぞー!そのためにも、祭壇で気力を充電しておかなくっちゃ!
お読み頂きありがとうございました。




