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第15話 猫だって気を遣う

ボスへの挨拶が終わり外へ出ると、もう殆ど日が沈んでいた。裏口から少し離れた所まで来ると、ガチャリと鍵の閉まる音がする。

思わず振り返ると、少しだけ開いていた扉が今はぴたりと閉じていた。


「ギリギリセーフだったね。」


「そうだな。取り敢えずは、これでひと安心だな。」


話ながら噴水広場まで戻ってくると、夕食の時間帯だからだろう、屋台やレストランなどから食べ物のいい匂いが広場や通りにまで漂っていた。


「いい匂いだねー。さっきご飯食べたのに、よだれが出ちゃうよ。」


「気持ちは分かるが、今の時間帯には通りを彷徨くんじゃねえ。」


「何で?誰かが落っことした美味しいやつ食べられるかもよ?」


ブランシュさんは溜め息を吐く。


「よく考えてみろ。ひとり食い始めたら、街中の野良猫が集まってくるぞ?飯屋の前に何匹も野良猫がいたら、客は入りにくいだろ。」


「確かに。」


「それに、飯を食わせてくれるのも大抵飯屋や肉屋の人間だからな。迷惑かけたら駄目だ。2度と飯を貰えなくなっちまう。」


「そうなのかー。猫もいろいろ気を使うんだね。」


うんうん。納得したように頷いていると、ブランシュさんが白けた目でこちらを見ている。


「やっぱりお前、猫じゃなくて狸だろ。」


「違うよ?猫だもーん。」


やばいやばい。確かにちょっと人間の自我が抜け切ってなかった。私は、猫。可愛い猫。


誤魔化すように、にっこりと笑う私に、ブランシュさんは、またまた溜め息を吐いた。

それから気を取り直したように話を続ける。


「だから、今日はもう寝床に帰るぞ。飯はまた明日な。」


「うん、わかった。でも、すごい人だよ。道の端を歩いてても踏まれちゃうかも。」


「だな。それなら、こっちだ!よっと。」


そう言ってブランシュさんは勢いよく、トントンと屋根まで登って行く。


すごい!

よしっ、私も。


「よいしょっ。おっとと。」


軽やかにとはいかないが、なんとか登りきる。



ふー。よかった、登れた。


「やっぱり、猫かどうか怪しいな。」


屋根まで登ってくる様子を見ていたブランシュさんが笑いながら、からかってくる。


「まだ子どもだからだもん!大人になったら、私だってスルスルとどこでも登れるもんね!」


むきになって言い返していると、ブランシュさんの背中に街の夜景が広がっていた。


「うわあ、夜でも結構明るいね。」


「まあまだ飯時だしな。」


それほど高くない屋根の上からでも、街を行き交う人達やお店の明かりがよく見えた。


「ところで、ブランシュさんの寝床ってどこなの?」


「何ヵ所かお気に入りはあるんだが、今日は骨董屋のじいさんのとこで寝ようと思う。お前も少しでも知ってる所の方が気が休まるだろ?」



「うん。でも、私も一緒に使っていいの?」


「まあ、自分の寝床が決まるまでは、ひとまず俺の寝床を使わせてやるよ。」


「ブランシュさん、ありがとう。」



ふたりで骨董屋のおじいさんの家を目指しながら屋根の上を歩く。



「お、ほらあそこ見てみろ!あのでっけー熊みたいなオッサンがいる肉屋!あそこのオッサンがくれる飯は、色んな肉の切れ端が入ってて美味いんだぜ?」


そう言われて探してみると、ここからでも分かるくらいに体格のいいおじさんが、解体されたお肉やベーコン、ソーセージなんかを売っている店を見つけた。



「わあ、じゃあ今度一緒に行ってみようよ!」


「いいぜ。でもなあ、あそこすんげえ競争率高いんだぞ。用意してある飯の数が少ないし、美味いのは他の奴らも知ってるからすぐに無くなっちまう。だから、あの店の近くを寝床にしてるやつだっているんだぞ。」


「早起きがんばるよ!」


「そうか。でも、まだまだ穴場は結構あるからな。そこもこれから、追々教えてやるよ。」


話しているうちに、街の端に近いおじいさんのお家にまで帰ってきた。屋根から裏庭へ降り立つと、勝手知ったる様子で庭を横切りベンチの下まで歩いていく。そこには、さっきご飯を貰った時には無かった、少し大きめの猫用ベッドが用意されていた。


「さっきはベッド無かったよね?」



「ああ、じいさんが夜に出して、俺が朝どっか行くと家の中に仕舞ってるみたいだな。」


「そうなんだ。」


ブランシュさんは、ベッドの上でくるりと丸くなる。


「ほら、お前も来い。さっさと寝るぞ。」


眠そうにそう告げられる。

とことことベッドに近づき、よじ登ろうとすると首をかぷりと噛まれ、引き上げられた。


収まりのいい位置を探して、ブランシュさんの顔の

あたりに落ち着く。


「今日は本当にありがとう。ブランシュさんが声を掛けてくれてよかった。」


「いいから、もう寝ろっ。」


ブランシュさんは片目を少し開けながら、私の顔を前足で軽く押さえた。


「はーい。おやすみなさい、ブランシュさん。」


「ん。おやすみ、オヴィ。」


そう言うとブランシュさんはすぐに寝息をたてはじめた。



ありがとうございました。


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