たった唯一の存在
屋上はいつになく、強い風が吹いていた。
スカートを抑えなきゃ、めくれてしまいそうだ。
あたしのお下げ髪が左右に揺れる。
「俺を避けているだろう」
数日前と同じ質問をぶつけられた。
もう言い逃れはできない。
あたしは、肯定も否定もできずに、固まった。
「何でだよ?」
アルマジロくんの瞳が、かすかに揺れる。
あたしは彼の言葉に対する返事を持ち合わせていない。
何も答える言葉なんてない。
だって、あたしのほうが聞きたいほどだ。
あたしの中で唯一、特別なアルマジロくんをどうして、あたしは受け入れられないの?
どうして、あたしはアルマジロくんの傍に居られないの?
「心」
不意に、あたしの名前を愛おしそうに彼が呼んだ。
自惚れかもしれないような勘が頭をよぎる。
あまりにも甘い響きに、期待もこもった勘がよぎる。
「俺、心の事が」
「だめっ!!」
あたしは無意識に叫んでいた。
アルマジロくんの言葉の続きを、聞いちゃいけない。
聞いたら、あたしたちは本当に終わりになってしまう。
だって、今のあたしには彼の言葉を受け止めることなんてできない。
「心、俺は、ちゃんと心に気持ちを」
「嫌なの。聞きたくないの」
あたしはとっさに耳をふさいで、頭を抱えてその場に蹲った。
「お願い、止めて。止めて欲しいの」
なんでだよ、っとアルマジロくんが毒づくのが遠くで聞こえた。
アルマジロくんはしゃがみこんで、あたしと視線の高さを合わせる。
服の上から腕を掴むと、あたしのふさいでいた手を払う。
「なんで、今まで好きだって付きまとって来たくせに、告白もさせねぇんだよ」
非難する言葉なのに、声は今にも泣き出しそうな嘆きに聞こえた。
瞳にたっぷりと涙を浮かべて、あたしはアルマジロくんを見上げる。
「大丈夫だと思ったの。アルマジロくんだけが特別だって」
「心?」
「いまだって、アルマジロくんだけなの。貴方だけが、あたしの特別なの」
それは間違いがなくて、真実。
だけど、真実がいつでも、優しい現実を招いてくれるとは限らない。
「ごめんね。アルマジロくんだけが特別なのに、どうして傍に居られないんだろう。あたしなんか、消えちゃえばいいのに」
大好きな気持ちは一ミリも変わっていない。
特別なことには変わりがないのに。
たった唯一の存在を、苦しめるだけのあたしに、何の意味があるの?
あたしはアルマジロくんの腕を振り払うと、立ち上がった。
「ごめんね」
涙ながらに言った言葉は、風にさらわれて消えていった。




