普通の女の子
マンボーも、ヒラメも、ペンギンも。
イルカだって、あたしの隣にいるアルマジロくんほどドキドキさせてくれるものはない。
「ウサコ、ニモだよ」
水槽を覗き込んだアルマジロくんが、色鮮やかなクマノミを指差す。
一気に顔が近寄ってきて、あたしの心臓はバクバクと音を立てる。
「き、綺麗だね」
緊張して角張ったあたしの声に、アルマジロくんはあたしをちらっと見る。
そして軽く口端を持ち上げると、意地悪そうに笑った。
「アルマジロくん、からかってる?」
あたしの言葉に、まさか、と肩をすくめてを見せた彼は、明らかにあたしをからかっている。
「もう~~!!」とちょっと怒って見せると、アルマジロくんは声を上げて笑った。
アルマジロくんと久々に一緒にいられることが、楽しかった。
嘘みたいに、あたしの不安が消えていた。
好きって気持ちだけが、身体中に溢れかえっていく気がする。
「アルマジロくん、ペンギンを見に行こう」
あたしがペンギンの水槽を指差すと、アルマジロくんは大きく頷いてくれた。
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日が落ちるまで、あたしは今までのことをすべて忘れていた。
どうして、アルマジロくんといると苦しいのか。
考えている暇もないほど、楽しかった。
でも、どんなに楽しい時間も必ず、終わりが来る。
そんな当たり前のことすら忘れるほど、あたしは浮かれすぎていた。
夕暮れ時、家の前まで送ってくれたアルマジロくんが、あたしを「心」と呼んだ。
足を止めたあたしの影は、夕日に照らされてアスファルトに長く伸びている。
アルマジロくんがあたしの目の前まで歩いてきた。
少し手を伸ばせば届く距離にアルマジロくんが立っている。
「心」
あたしの名前を繰り返し呼ぶアルマジロくんに、あたしの脳が警報を鳴らす。
逃げて、逃げないと。
だけど、不思議なことに身体中の力が抜けて、あたしの体はぴたっと動きを止めている。
「アルマジロくん」
制止のつもりで、彼の名前を呼んだつもりだった。
だけど、あたしの声は口から飛び出すことはなく、ヒューッと空気だけが漏れた。
アルマジロくんの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
大好きな、大好きな人の顔。
あたしの全身に震えが走る。
好きなのに、好きなはずなのに
どうして。
気が付いたときには、あたしの目の前でアルマジロくんが尻餅をついていた。
あたしの腕は前に突き出されていて、彼の胸を押し返したのはあたしだってすぐに気が付いた。
「いや」
彼の瞳に、傷が映る。
傷ついた表情を浮かべるアルマジロくん。
あたしは彼にこんな表情をさせたかったわけじゃない。
「いや、いやぁ―――!!!」
あたしは、思い切りその場で叫んだ。
どうして、あたしは普通の子になれないの?
大好きな人の傍ですら。




