月の見守る夜
あたしと彼の家の最寄り駅は同じ。
だけど、駅を拠点にすると位置は真逆になる。
「送っていく」って言ってくれたアルマジロくんにあたしは首を横に振った。
「一人でも大丈夫だよ」
「こんな遅い時間に、一人になんてさせられないよ」
アルマジロくんと離れがたかったあたしは、その言葉に素直に頷いた。
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「月が綺麗だね」
あたしは空を見上げると、ほのかに周囲を照らす黄色い光に目を奪われた。
冷たい暗闇をそっと照らしてくれる月夜は、太陽のようにギラギラした輝きはないけれど、そっと心を癒してくれる。
「ウサコのメリットだもんな」
アルマジロくんが隣で、吹き出した。
「綺麗な月夜を見逃さない、だろ?」
「うん」
あたしとアルマジロくんは、今同じ空を見上げて、同じ月の光を浴びている。
「ねぇ、心」
ん?
「心」
「なんで突然、名前で呼ぶの?」
「呼んじゃだめ?」
アルマジロくんがきょとんとして、首をかしげた。
ダメじゃない。ダメじゃないけれど、なんだかとても恥ずかしい。
「どうして、突然」
「心って呼びたいんだ。ダメなの?」
改めて聞かれて、あたしは首を横に振った。
「じゃぁ、それを明日のウサコのメリットにして」
「ええっ?」
「あとで電話するから」
あとで、電話!?
なんで今じゃ、ダメなの!?
というか、なぜ、明日のメリットが名前で呼ぶことなの?
それってアルマジロくんにとって、嬉しいこと?
「じゃぁ、あとでね」
気が付けば、いつのまにかあたしの家の前だった。
どういう意味かちゃんと聞きたかったけれど、あまりにも自然な動作で別れていくアルマジロくんをあたしは見送ることしかできなかった。
そして、その日の0時ジャスト。
ケータイが音を立てて、着信を知らせる。
「もしもし?」
電話の向こうから聞こえてくる声。
「今日から、心って呼んでいいよね?」
時計の一番てっぺんで交差している長針と短針。
まさか、わざわざ、このために架けてきてくれたの?
「いいよ」
あたしの言葉に、アルマジロくんがどんな表情をしたのかは見えない。
電話ってもどかしいな
あたしは、優しくケータイを抱きしめた。




