餌付け
「ウサコ。はい、あーんして」
突き出されるフォーク。
ちょっと待って。アルマジロくん!
あたしの殺す気なの!?
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もし、アルマジロくんに殺意があるなら、あたしは簡単に殺せると思う。
今ですら倒れそうなほど爆発している心臓は、あと一押しでとまってしまいそうだ。
なんで、こんな展開になったのか。
うっかりパーティに行くアルマジロくんにくっ付いてきたあたしに、彼は親鳥気分のようだ。
「あれが美味しいよ」「これ食べてみな」って勧めてくるアルマジロくんは、まるであたしを餌付けしようとしているみたい。
「あの苺、美味しそう」
そう言ったのが運のツキ。
アルマジロくんは皿に取り分けてくれて、さらに自分のフォークを苺に刺すと、あたしの口元に突き出してきた。
「ウサコ。はい、あーんして」
「ええぇっ?」
「ほら、口をあけて」
アルマジロくん、それはとても恥ずかしい。
しかも、間接キスだから~~~!!なんて、乙女チックにもがいてみるけれど、彼はそんなこと何も気にしていないみたい。
あたしは明らかに周囲の視線を感じていて、肩身が狭いというのに。
「ウサコ」
彼の声に不満の色が映った。
仕方なく、あたしは口を開ける。
ころっと機嫌の直ったアルマジロくんは、苺を食べているあたしを覗き込んで「美味しい?」と首をかしげた。
「なんか、アルマジロくん、変」
「変?」
きょとんとするアルマジロくんを、あたしはにらみ付けた。
「アルマジロくん、いつもと違うんだもん」
「どう違うと思うの?」
「なんだか、いつも以上に甘くてエロい」
「あはは、俺、エロいんだ」
アルマジロくんは声を上げて、ケラケラ笑う。
あたしの熱はボッと燃えて、顔はきっと真っ赤に染まっている。
「俺が違うって感じるのは、ウサコが変わったかもしれないね」
「あたしが変わった?」
あたしは最初から今まで何も変っていない。
アルマジロくんに会う前から、あたしはずっと
「ウサコが俺の中で変ったんだよ」
「へっ?」
あたしは、アルマジロくんの言葉に首を傾けた。
「じゃぁ、アルマジロくんにとってのあたしの今のイメージってなに?」
「さあね」
くくっと笑うアルマジロくんは、やっぱり意地悪だ。
あたしの本気なんて、軽く流してしまう。
「逢沢!」
遠くからアルマジロくんを呼ぶ声がした。
声のほうを見ると、アルマジロくんはチッと舌を鳴らす。
「モデル仲間だ」
「あっ、行って来ていいよ。あたし、トイレ行って来るから」
「そう?じゃぁ、ちょっと挨拶だけしてくるから、トイレから戻ったら、必ずここにいてね」
「うん」
「絶対だからね」
「大丈夫だよ」
アルマジロくんは意外にも結構、心配性のようだ。
あたしが笑うと、ウサコはチョロチョロ歩いていきそう……と大きくため息をついていた。
実際のところ、アルマジロくんが正しかったと知るのはそれから数分後。
会場に戻ってきたあたしは、彼の言うとおり、同じ場所に戻った。
つもりだった。
だけど、会場は広くて、景色なんてみんな似たり寄ったり。
同じ場所に戻ってきたつもりだけど、アルマジロくんは一向に戻ってくる様子はない。
挨拶だけとは言っていたけれど、仲間に会えば、弾む話もあるだろう。
あたしはちょびちょびオレンジジュースを飲みながら、壁の花になっていた。
でも、彼はいつまでも戻ってくる気配がない。
もとより、あの時は同じ場所からアルマジロくんの仲間たちが見えていたのに、彼の姿は周囲のどこにもない。
もしかして、戻ってきた場所は前の場所と違うのかも……と初めて疑問を抱いた。
きょろきょろと見回すけれど、あたしの場所から彼の姿は見つけられない。
不意に手持ちのバック中でケータイが震えた。
あたしは逸る気持ちを抑えて、受話器ボタンを押した。
「どこに居るの?!」
不機嫌そのものの声のアルマジロくん。
「さっきと同じ場所?」
「違うから!!」
怒鳴られて、あたしの身体は小さくなる。
「会場の中?」
「うん」
話しながらも、あたしの目は会場の中を揺れている。
アルマジロくんの姿を見つけようと必死で、目を動かす。
「ったく。とにかく、そこにいろよ?俺が、探してやるから」
「大丈夫!」
「はっ?」
アルマジロくんの言葉を遮るようにあたしは、ケータイの通話を切った。
あたしは会場の真ん中を高いヒール靴で走り出す。
「アルマジロくん!!」
名前を呼ぶと、愛しい彼が振り返る。
「ねっ?言ったでしょう。あたしはどこにいても、どんだけ人がいてもアルマジロくんを見つけられるの」
彼は、あたしの言葉に呆れたように苦笑した。




