天秤の傾き
昨日のことがあって、あたしはアルマジロくんにちょっと会いづらかった。
声をかけていいかどうか、ちょっと迷う。
だけど、やっぱり校内にいるのに、顔も見ずに一日が終わるのは嫌だった。
だから、授業と授業の合間の10分休憩。
あたしはアルマジロくんの教室に行こうと、席を立った。
「ウサコ」
「えっ?」
顔をあげると、廊下の窓からアルマジロくんが顔を出していた。
「えっ、嘘」
アルマジロくんに声をかけるのはいつも、あたしだった。
なのに、わざわざ足を止めて、声をかけてくれたアルマジロくん。
「ど、どうしたの?」
訊く声がかすれてしまう。
「今週の日曜日、暇?」
あたしの心臓はびくんっと飛び跳ねて、とまってしまうかと思った。
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あたしはピンクの軽い薄地に、刺繍の入った乙女チックなワンピースを着ている。
ネックレスはトップに小さなアメジストが飾られた控えめなものを選んだ。
「パーティなんて言われたって~~~~」と内心、すっごく荒れている。
あの日、アルマジロくんは日曜日のあたしの予定を訊いた。
デートのお誘いって舞い上がったあたしだけど、予定の内容を訊いて目を白黒させた。
「今週の日曜日にモデル業界のパーティがあるから。付き添い役を頼みたいんだ」
アルマジロくんにはきっと、パーティの付き添い役の女の子がいるはずだ。
なぜ、あたしを指名してきたのかさっぱりわからない。
明らかに、不釣合いだとわかるのに
断ろうかと思ったけれど「だめ?」と首をかしげたアルマジロくんに見つめられて、あたしは「いいよ」と言ってしまった。
彼のフェロモンにやられてしまった。
結局、あたしの横には、今、アルマジロくんが立っている。
濃い色のスーツ、淡い色のシャツ、ネクタイをびしっと締めたアルマジロくん。
普段の制服とは違う正装は、アルマジロくんの魅力をさらに高めている。
さっきから、アルマジロくんの顔を見て、女の子たちが甘いため息をもらしているのはあたしの気のせいじゃないと思う。
「やっぱり、来なきゃ良かった」
「えっ?つまらない?」
あたしの呟きをとらえたアルマジロくんは、あたしの顔を覗き込んだ。
「だって、あたしとアルマジロくん。つりあってない」
「そうなの?」
驚いた顔をするアルマジロくんに、あたしは顔をしかめた。
「だって、アルマジロくんはカッコいいもん。あたしなんかじゃ」
「なんかってなに?俺は、ウサコに傍に居てもらいたいと思った。だから、ウサコを誘ったんだよ。俺は、俺の横にウサコがいることは自然だと思うし、誰かが何かを言ったとしても気にはならないよ」
「アルマジロくんはそうかもしれないけど」
「ウサコは、こういう華やかなパーティに興味があるかなって思ったんだ。嫌なら一緒に帰ろう」
「アルマジロくんまで帰る必要ないよ!」
あたしは慌てて、アルマジロくんを止めた。
「あたしは帰ってもいいけど、アルマジロくんはダメだよ。女の子たちが寂しがっちゃう」
「ウサコは?」
「えっ?」
「ウサコは俺と離れて寂しくないの?」
アルマジロくんに見つめられて、あたしはドキドキする。
「また、言わせようとする」
悔しくて、上目遣いに睨んだあたしに、アルマジロくんはハハッと笑った。
「俺、意地悪だもん」
アルマジロくんは、やんちゃな男の子みたいに無邪気に笑う。
その顔がカッコいいやら可愛いやら、あたしは二の句が告げない。
「それで?ウサコは俺と離れてもいいの?」
「あたしはアルマジロくんの傍にいたいよ」
あたしの答えを、アルマジロくんはふにゃーっと破顔する。
嬉しそうなアルマジロくんにあたしは、驚きを隠せなかった。
なんでだろう。
あたしの言葉で、どうして、アルマジロくんはこんなに喜んでくれるんだろうか。
「ウサコ、せっかく来たんだし、ご飯ぐらい食べよう。俺の傍に居れば、絶対に誰にも文句は言わせない」
簡単に説得されたあたしは、こくんっと小さく頷いた。




