カナシミは二人で半分
アルマジロくんと約束をした日から3週間と2日が過ぎた。
最近、お昼休みに屋上に上がると、アルマジロくんは一人で居ることが多い。
ここ3日間は、100%の確立で一人だ。
「どうして、女の子がいないの?」
青空の下の給水塔の上。
あたしの疑問に、アルマジロくんは「何で?」って訊きかえした。
「だって、いつも、女の子と一緒に居るアルマジロくんが、最近一人なんだもん」
「俺が誰か、女の子と一緒でいいわけ?」
アルマジロくんは、口端をくいっと持ち上げる。
意地悪い瞳は、あたしに何かを言わせようとしている。
屈服するのは悔しいけれど、惚れた弱みはどうにもならない。
「あたしはアルマジロくんが一人のほうが嬉しいよ」
「なんで?」
うぅ~~、とあたしは声をあげてうなる。
「今日のアルマジロくんは、意地悪だ」
睨んだあたしに、アルマジロくんはくくっと喉を鳴らす。
「俺はこういう性格だよ。嫌ならやめれば?」
簡単な一言で止められるなら、最初から始めていない。
「あたしは、アルマジロくんが好き。だから、ほかの女の子と一緒のところを見るのは嫌」
「そっか」
アルマジロくんが、ちょっと嬉しそうな顔を見せた気がした。
だけど、すぐに顔をそらしてしまったアルマジロくんの表情を、あたしは最後まで見届けることができなかった。
アルマジロくんはコンビニのビニール袋から、おにぎりを取り出して頬張る。
「ウサコ、飯は?」
「もう食べたよ」
「もう?」
昼休みはまだ、始まってから10分と経っていない。
「食うの早すぎじゃねぇの?」
「あたし、小食だから」
「ふーん」
アルマジロくんは納得しているかしていないかわからない声で、頷いた。
「あっ、アルマジロくんのケータイが鳴っているよ」
彼の横に置かれたケータイが、ブルブルと震えている。
「んー、メールだな」
アルマジロくんは、パカッとケータイを開いて中を確認する。
あたしの目は、彼のケータイからぶら下がっているストラップを捉える。
揺れるストラップ。
半分に割れたハート型のストラップには見覚えがあった。
「それ、彼女とおそろいの」
つい、声に出してしまい、「あっ」と口元を手で隠した。
アルマジロくんの目が見開かれる。
あたしと目が合ったアルマジロくんは、蒼白な顔をしていた。
こんなアルマジロくんをあたしは見たことがない。
瞳には冷たい氷の刃が映り、それが今にもあたしを突き刺しそうだ。
「ご、ごめんなさい」
「謝って欲しいわけじゃないよ」
間髪いれずに返ってきた答えは、身震いがするほど寒々しい。
「なんで、知ってるの?」
アルマジロくんに迫られて、あたしはぐっと唇をかんだ。
「前に、写真を見たことがある」
あたしの告白に、アルマジロくんは冷たい声と視線であたしを捕らえたまま、動かない。
「まだ、好きなの?」
訊いちゃいけないと思った。
訊いたら、自分自身も後悔するって思った。
だけど、不思議なことにあたしの身体はまるで、何か別のものに乗っ取られたみたいだった。
アルマジロくんは、表情を変えないまま、あたしをじっと見つめていた。
しばらく、両名とも身動きひとつ取れない、息をするのも痛みを感じるような空気が続く。
不意に彼が、ふっと息を吐いた。
「もう好きじゃないよ」
その声に感情は乗っていなくて、アルマジロくんの真意が見えなかった。
「これも、取るのが面倒だっただけ」
ストラップを指して、彼は言った。
だから、もういらないんだ。
そんな言葉の次の瞬間、アルマジロくんはストラップをケータイ本体から引きちぎった。
ぶちっと音を立てて、壊れたストラップをアルマジロくんは躊躇いもなく、フェンスの向こうに投げた。
弧を描いて、校庭に落ちていくハート。
「だめっ――――!!」
あたしが叫んだときには、もうストラップは見えなくなっていた。
「なんで、なんで捨てちゃうの?」
「捨てちゃいけない理由がない」
きっぱり答えるアルマジロくんは、妙に落ち着いているように見えた。
対照的にあたしのほうが取り乱してる。
「だって、だって、大事なものでしょう!」
「大事じゃない」
「別れてからもずっと、つけていたストラップなのに」
「あのさ、俺があいつに未練があるような言い方しないでくれる」
えっ?
あたしは、アルマジロくんの顔を覗き込む。
「あいつは俺を裏切ったんだ」
アルマジロくんが、ははっと空笑いした。
聞いているあたしのほうが、泣き出しそうな悲痛な笑い声。
「俺の親友と二股をかけてたんだ」
「えっ?」
「結局、あいつは俺の親友を選んだ。俺は、親友も彼女も同時に失った」
大事な親友も、大事な彼女もいっぺんになくなる
あたしは美紀とアルマジロくんを両方を失うなんて、耐えられるだろうか。
きっと、心が壊れちゃう。
アルマジロくんを思うと、涙がこみ上げてきてとまらない。
嗚咽をあげて、泣き出した。
「なんで、あんたが泣くの?」
ちょっと呆れたような声のアルマジロくん。
「だって、アルマジロくんが泣いてないから」
「はっ?」
あたしは、止めることができない涙を必死でこらえながら、なんとか言葉を口にする。
「苦しいときはちゃんと、泣いたほうがいいんだよ」
あたしの言葉に、アルマジロくんがじっと、黙っている。
「でも、アルマジロくんが泣けないなら、あたしが代わりに泣いてあげる」
不意にアルマジロくんは、声をあげて笑い出した。
ははっと声を上げて笑うと、空を仰いだ。
「ウサコは俺のために泣いてくれんの?」
「うん、今日のメリットだよ」
泣きながら、必死で伝えたメリット。
そっか、と頷いたアルマジロくんの声が、すごく優しく響いた。




