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アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
20/44

カナシミは二人で半分

アルマジロくんと約束をした日から3週間と2日が過ぎた。


最近、お昼休みに屋上に上がると、アルマジロくんは一人で居ることが多い。

ここ3日間は、100%の確立で一人だ。


「どうして、女の子がいないの?」


青空の下の給水塔の上。

あたしの疑問に、アルマジロくんは「何で?」って訊きかえした。


「だって、いつも、女の子と一緒に居るアルマジロくんが、最近一人なんだもん」

「俺が誰か、女の子と一緒でいいわけ?」


アルマジロくんは、口端をくいっと持ち上げる。

意地悪い瞳は、あたしに何かを言わせようとしている。

屈服するのは悔しいけれど、惚れた弱みはどうにもならない。


「あたしはアルマジロくんが一人のほうが嬉しいよ」

「なんで?」


うぅ~~、とあたしは声をあげてうなる。


「今日のアルマジロくんは、意地悪だ」


睨んだあたしに、アルマジロくんはくくっと喉を鳴らす。


「俺はこういう性格だよ。嫌ならやめれば?」


簡単な一言で止められるなら、最初から始めていない。


「あたしは、アルマジロくんが好き。だから、ほかの女の子と一緒のところを見るのは嫌」

「そっか」


アルマジロくんが、ちょっと嬉しそうな顔を見せた気がした。

だけど、すぐに顔をそらしてしまったアルマジロくんの表情を、あたしは最後まで見届けることができなかった。


アルマジロくんはコンビニのビニール袋から、おにぎりを取り出して頬張る。


「ウサコ、飯は?」

「もう食べたよ」

「もう?」


昼休みはまだ、始まってから10分と経っていない。


「食うの早すぎじゃねぇの?」

「あたし、小食だから」

「ふーん」


アルマジロくんは納得しているかしていないかわからない声で、頷いた。


「あっ、アルマジロくんのケータイが鳴っているよ」


彼の横に置かれたケータイが、ブルブルと震えている。


「んー、メールだな」


アルマジロくんは、パカッとケータイを開いて中を確認する。


あたしの目は、彼のケータイからぶら下がっているストラップを捉える。


揺れるストラップ。

半分に割れたハート型のストラップには見覚えがあった。


「それ、彼女とおそろいの」


つい、声に出してしまい、「あっ」と口元を手で隠した。

アルマジロくんの目が見開かれる。


あたしと目が合ったアルマジロくんは、蒼白な顔をしていた。

こんなアルマジロくんをあたしは見たことがない。


瞳には冷たい氷の刃が映り、それが今にもあたしを突き刺しそうだ。


「ご、ごめんなさい」

「謝って欲しいわけじゃないよ」


間髪いれずに返ってきた答えは、身震いがするほど寒々しい。


「なんで、知ってるの?」


アルマジロくんに迫られて、あたしはぐっと唇をかんだ。


「前に、写真を見たことがある」

あたしの告白に、アルマジロくんは冷たい声と視線であたしを捕らえたまま、動かない。


「まだ、好きなの?」


訊いちゃいけないと思った。

訊いたら、自分自身も後悔するって思った。

だけど、不思議なことにあたしの身体はまるで、何か別のものに乗っ取られたみたいだった。


アルマジロくんは、表情を変えないまま、あたしをじっと見つめていた。


しばらく、両名とも身動きひとつ取れない、息をするのも痛みを感じるような空気が続く。


不意に彼が、ふっと息を吐いた。



「もう好きじゃないよ」

その声に感情は乗っていなくて、アルマジロくんの真意が見えなかった。


「これも、取るのが面倒だっただけ」

ストラップを指して、彼は言った。



だから、もういらないんだ。


そんな言葉の次の瞬間、アルマジロくんはストラップをケータイ本体から引きちぎった。

ぶちっと音を立てて、壊れたストラップをアルマジロくんは躊躇いもなく、フェンスの向こうに投げた。


弧を描いて、校庭に落ちていくハート。


「だめっ――――!!」

あたしが叫んだときには、もうストラップは見えなくなっていた。


「なんで、なんで捨てちゃうの?」

「捨てちゃいけない理由がない」


きっぱり答えるアルマジロくんは、妙に落ち着いているように見えた。

対照的にあたしのほうが取り乱してる。


「だって、だって、大事なものでしょう!」

「大事じゃない」

「別れてからもずっと、つけていたストラップなのに」

「あのさ、俺があいつに未練があるような言い方しないでくれる」


えっ?

あたしは、アルマジロくんの顔を覗き込む。


「あいつは俺を裏切ったんだ」


アルマジロくんが、ははっと空笑いした。

聞いているあたしのほうが、泣き出しそうな悲痛な笑い声。


「俺の親友と二股をかけてたんだ」

「えっ?」

「結局、あいつは俺の親友を選んだ。俺は、親友も彼女も同時に失った」


大事な親友も、大事な彼女もいっぺんになくなる


あたしは美紀とアルマジロくんを両方を失うなんて、耐えられるだろうか。

きっと、心が壊れちゃう。


アルマジロくんを思うと、涙がこみ上げてきてとまらない。

嗚咽をあげて、泣き出した。


「なんで、あんたが泣くの?」


ちょっと呆れたような声のアルマジロくん。


「だって、アルマジロくんが泣いてないから」

「はっ?」


あたしは、止めることができない涙を必死でこらえながら、なんとか言葉を口にする。


「苦しいときはちゃんと、泣いたほうがいいんだよ」


あたしの言葉に、アルマジロくんがじっと、黙っている。

「でも、アルマジロくんが泣けないなら、あたしが代わりに泣いてあげる」


不意にアルマジロくんは、声をあげて笑い出した。

ははっと声を上げて笑うと、空を仰いだ。


「ウサコは俺のために泣いてくれんの?」

「うん、今日のメリットだよ」


泣きながら、必死で伝えたメリット。

そっか、と頷いたアルマジロくんの声が、すごく優しく響いた。

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