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アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
17/44

無視

あたしにとって、アルマジロくんはたった唯一の存在。

大好きで、大好きで、言葉だけでは足りない存在。


愛してるって何度、伝えても足りない。


「おい、宇佐美」


クラスメートの大崎君に呼び止められて、あたしは廊下の真ん中で足を止めた。


「どうしたの?」


「この前、言ってたCD、手に入ったけど貸そうか?」


「マジで!?」


あたしと大崎は、音楽の趣味が合う。

ついこの間も、好きなバンドの話で盛り上がった。


この間、話していたCDは互いが好きなバンドの廃盤になったCD。

ファンの中ではプレミアものだ。


「どうやって、手に入れたの?」


「兄貴の友達が友達が持っていたものが、めぐりめぐって俺のところに流れ着いた」


「すっごーい!」


手放しで褒めたあたしは、その場でぴょんぴょん飛び跳ねた。

大崎はくくっと喉を鳴らして、笑う。


「おまえってウサコって呼ばれてるよな?」


「うん」


「本当のウサギみてぇだから?」


「違うよ。あたしの名前が?うさみここ?だから、略してウサコ!」


「似合ってるよな。っーか、マジでウサギそのもの」


「そんなことないもん!」


あたしが廊下の真ん中で、大崎に突っかかった。

そんなあたしのしぐさも大崎にはただ、可笑しいだけらしい。


軽く鼻で笑われてしまう。

きゃぁきゃぁ騒いでたあたしは、不意に廊下の奥からアルマジロくんが歩いてくるのを見つけた。


「あー!アルマジロくんだ」


あたしが大きく手を振ると、彼はちらっとあたしを見た。

彼はあたしを一瞥すると、ふいっと視線をそらした。


「えっ?」


あたしの全身から力が抜けて、身体が固まる。


「アルマジロくん」


呟くようなあたしの声は、すれ違っていったアルマジロくんにも届いた気がする。

だけど、彼は足を止めることなく、あたしの横を通り過ぎていった。


傍には女の子はいない。

だから、アルマジロくんがあたしを避ける理由なんてないはずなのに


彼はあたしの存在をまったく、無視した。


***********************************


「それってさ」


美紀はアルマジロくんの話なのに、なぜかちょっと嬉しそうに言った。


「もしかして、逢沢次郎ってウサコのことが好きなんじゃないの?」


「はあ?!」


あたしは突然、大声を出してしまい、教室の注目を浴びた。

口を両手でふさぎ、椅子の上で小さくなる。


「なんで、そうなるの?」


ちょっと声を潜めて、美紀を追及すると、「簡単よ」って笑った。


「普段無視をしない逢沢次郎が、ウサコを無視した。じゃあ、普段と違う何かがあったはず。違う何か……とはつまり」


美紀は楽しそうに笑って、人差し指をあたしの目前に突き出した。


「ウサコが別の男といたこと」


「へっ?」


「つまり、嫉妬したのよ。逢沢次郎は」


「嫉妬?アルマジロくんが?」


美紀の指摘があまりにも見当はずれで、あたしはケラケラと声をあげて笑った。


「絶対にないよ。アルマジロくんが、嫉妬するなんて。しかも、あたしと大崎との仲を疑うなんて絶対に、ない!」


「じゃぁ、なんで、あんたは無視されたのよ」


美紀はちょっと不満そうに口を尖らせる。


「嫌われてないといいなぁとは思うよ」


あたしの後ろ向きな答えに、美紀は深くため息をついた。


「ウサコって、大胆なぐらいに迫るくせに、本当は人一倍恋愛に臆病だよね」


「美紀?」


「あんた、まだ」


美紀が何を言いかけたかすぐに察した。

あたしはとっさに、がたんっと椅子を鳴らして立ち上がった。


「言わないで!」


美紀はすごく寂しそうな目をする。

あたしはもう一度、席に座りなおして「ごめん」と小さく謝った。


「あたし、ウサコが心配なの。あんたには恋愛で傷ついてほしくない。できれば、もっと幸せな恋愛をしてほしいの」


「わかってる」


あたしの返事にため息をつきながら、美紀が肩を落とす。


「美紀、ありがとう」


美紀があたしを心配してくれていることはわかってる。

だから、あたしもしっかり美紀を見つめて答える。


「大丈夫なの。きっと、大丈夫なの。アルマジロくんは特別な気がするの」


「ウサコ」


「大丈夫なの。きっと」


ぎゅっと両手を握り締める。

美紀はあたしの固く閉じた両手を見つめていた。


何か言いたいことはあったのか知れないけれど、それ以上、あたしを追及しなかった。

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