七話
私は空を自由に飛び回りながらとりあえず真っ直ぐに南へと向かった。
陽神となった私はあらゆる障害をものともしない。木であろうが岩であろうがすり抜ける。初めの頃はおっかなびっくりだっただが、慣れてくるとなかなか快適だ。障害物を気にすること無くなるだけでなく、暑さや寒さも気にならない。
私は肉体から解放された、気で練り上げた分身体だからである。
しかし、感じたいと思うなら暑さも寒さも感じ取れる。においを嗅ぐこともできるし、食べ物も味わうことができる。実に便利な能力を手に入れたものである。
考えてみると変幻自在の法を得てから、特に妖術に磨きをかけることもなく人間を破滅させることばかりしてきた。もしかしたらその気になれば私にはもっといろいろな能力を持っているのかもしれない。
そう思っていると、やがて海にたどり着いた。そして迷わず海の上空に躍り出た。順調に相当な速度で飛んでいる。
「さて、本当に言い伝え通り大海の彼方に仏国土とやらはあるのかしら?」
つぶやきながら海の彼方さきへと飛翔していく。
ーーー
大海をどんどん南下して行くと、やがて氷に覆われた冬の大地にたどり着き、そこを越えると徐々に暑くなり出し熱帯地帯へと入った。さらにそこを越えると極寒地帯にはいる。
海を越え山を越え、氷の世界を越えて突き進んで行くと、ふと妙なことに気がついた。
「あら? 気のせいかしら、見たことがあるような場所ね」
それも当然、そこは自分の本体が安置されているはずの屋敷の近くだった。案の定、屋敷にたどり着く。部屋の中を確認すると、自分の本体がそこにあった。出発地点に戻ってきたのだ。
「ひたすら南に向かったはずなのに、なぜもとの場所に戻ってきたのだ?」
本来ならばこの場所は南下した分、北になければおかしいのだ。途中で方角を間違えてしまったのだろうか?
ーーー
その後、私は再び南へと向かう。陽神の術を手に入れ移動は素早く簡単だ。
そして、二度目も結果は同じ。もとの場所に戻ってくる。そこで北へ東へ西へとあらゆる方角に向かってみるが、結果は同じでもとの場所に戻ってくる。別に迷宮に迷い込んだわけではない。
ここまで来るとさすがに私も理解が追いついた。大地、いや海も陸地も含めて私たちの住んでいるこの世界は球体なのだということが、
「さしづめ『地球』といったところかしら?」
おかしなものだ。
手に持っている石は手を離せば必ず下に落ちると決まっている。今いる場所が地球の頂点であればそれでよい。しかし、頂点の裏側、地球の反対側で手を離せば石は空に向かうはずではないか! だが、そうならない。
そうならないということは、物は手を離すと必ず下に落ちるのではなく、手を離すと大地の方向に向かって進むというのが正しい理解なのではないだろうか?
そもそも、こんな世界では上下を決定することもできないのではないだろうか?
私の世界に対する認識は、地球という概念を得たことによって大きく変わった。