街
「オータム・レイド、代償魔法使いね……」
「あぁ、最近じゃ珍しいだろ」
「珍しいどころか絶滅危惧種だろ。
ほれ、通っていいぞ。
問題は起こすなよ」
男ことレイドはとある街にいた。
魔道大国、サクラ皇国。
その首都であるウィンターという街である。
相も変わらず目的もなく、気の向くままに進んだ結果偶然たどり着いた街だ。
「さすが首都、にぎわっているな」
魔法使いというのは自身の証明として風変わりな格好をする者が多い。
その中でもレイドは比較的まともな格好をしていた。
しかしあくまでも比較的であり、街を歩く格好としては目立つ格好だ。
マントを身に着けて常にフードをかぶっている為、奇異な目で見られることも少なくない。
それもある意味魔法使いの宿命と考えているレイドは気にする事無く宿を探していた。
決して余裕があるわけではないが木の実や狩った獲物の肉を口にして生活しているレイドはある程度の旅費を保持している。
それが足りなくなれば魔法使いとして仕事を受けるといった生活を続けていた。
今のところどこかに永住する予定もない。
「サクラ皇国か…… 久しぶりに師匠のところにでも行くかな」
魔法使いというのは独学で学ぶ者はいない。
過去の知識の積み重ねが結果を左右するからだ。
「……やめておこう、寿命がまた」
そう言ったところでレイドはポケットから屑鉄を取出し、指ではじいた。
直線で飛んだそれは数メートル先にいた子供の頭部に当たり、がしゃりと音を立てて地面に倒れこませた。
「スリは相手を選べ」
子供は地面に倒れこむと同時に小さな袋を落としていた。
それはレイドの財布だった。
「ん……? 」
何時まで経っても起き上がらない子供を見ると気絶しているようだ。
指弾の威力が強すぎたのだろうか、そう思い手を伸ばすと急に子供が立ち上がった。
そしてレイドの脛に蹴りを見舞って、財布を奪い取って路地裏へ逃げ込んでしまった。
「……強かだな」
スリの被害にあったにもかかわらずレイドは落ち着いていた。
「……これでさらに師匠のところへ帰れなくなったな。
子供に財布すられたとか……修行が足りんって怒られそうだ」
レイドの心配は宿に泊まれないことではなく、師匠に叱られることだった。
金がなくとも生きていく方法はいくらでもある、大切なのは命が有る事、それだけのレイドにとっては大した痛手ではなかった。
「しかたがない、スラムに行って適当に寝るか」
そう言って歩くレイドはこれもまたいい経験と考え、そしてある意味忘れられない経験となるのだった。