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ホーンテッド・プリンセス!  作者: 夜斗
第3章 それは急転直下に、颯爽と。
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《第3章/第5話》 それは急転直下に、颯爽と。

「っだ!」


 西棟の二階からトレスに引きずられ、御幸は中央ホールの真ん中に叩き付けられる。ホールには御幸が最初に鞄で殴って気絶させていた小太りの男ことウノとドスがいて、二人はトレスの姿を見て少々驚いたような表情を浮かべた。


「姐さん、今撃ったの姐さんっすよね? 上で何かあったんですか?」

「他に人がいるわ。少しプランを変更して、先に始末しようと思うのだけど」

「え……他に人っすか? 誰か見掛けたんですかい?」

「……少しばかり、引っ掛かりがあるんだけどねぇ」


 彼女の歯切れの悪い物言いにウノとドスはそれぞれで顔を見合わせる。彼らも彼らで屋敷を探索していたが、人の住んでいた気配こそ残っているが人そのものの気配は一切感じなかった。その旨を伝えると、彼女は腕を組み小さく唸る。


「まさか、とは思うのだけど」

「……あっちの噂のことですかい?」

「少し前のアタシらなら笑って捨てるような話なんだけど……さ、ほら」

「あり得ない話じゃないってワケっすね。んじゃ、俺らでもう一回隈なく探しますかい?」

「……」


 ちら、と流れたトレスの視線が御幸に刺さる。彼女は手を伸ばしたかと思うと、御幸の髪を強引に掴み上げ手にした拳銃を頬に、ぺた、と押しつける。


「ねぇ御幸君? 一緒に住んでた人ってもう出て行っちゃったのよね? 何処に行ったのかしら?」

「し、知らない……」

「仏の顔も三度まで。お姉さんそろそろ限界かなぁ。次に君が嘘を吐いたら……サヨナラねぇ」

「本当に、知らない! あんな変な連中、なんか……」


 虚勢を張って気丈に振る舞おうとするも、死と隣り合わせという状況は御幸の胸を恐怖が縛り上げ、喉から出る声は全て震え上がって出て来てしまう。

 トレスの瞳が、薄く細まる。

 彼女は不意に手を離すと御幸の耳元で小さく囁く。


「…………少し、質問。その一緒に住んでた連中って、どんな人だったの?」

「ど、どんなって……メイドと執事と……変な、女の子」

「……歳は、どれくらい?」

「何で、そんなこ……ッ」


 ぐ、と銃口が頬に押し当てられ御幸の胃の腑は冷えていくばかり。引き金に掛かった指先を見れば尚のこと。だが、トレスの表情は少々神妙なモノだった。


「メイドさんは? 執事は?」

「め……メイドは、子供……小学生、くらいの。執事は……二十歳、過ぎ……くらい?」

「変な女の子っていうのは?」

「僕より年下……中学生、くらいの」

「……そう」


 彼女の声のトーンは今まで御幸を脅していたものとは明らかに違う、何かを確かめているような感があった。ゆっくりと頬から銃から離れていって御幸は一瞬だけ安堵の息を零す。状況は、何ら変わっていないのだが。


「……ドス、このコを見張っておいて。アタシはまた上を探すから、その間にウノは旦那を起こして来て頂戴」

「え、俺がっすか」


 些細な頼みごとにも拘らず、何故かウノの顔は少々引き攣る。


「別に起こすくらいいいじゃないの。ドスより付き合いあるってのに酷いわね」

「や、だって……今の旦那って、ほら、前より恐いし不気味……」

「……ウノ?」

「ひっ……! わ、わっかりやしたよ……」


 トレスの瞳に怒気を感じたらしいウノは突風のような速さで東棟へと走って行ってしまった。彼らが空けた穴のある場所。

 ……?

 旦那を起こしに行く……?

 そういえば少し前にも同じような事を耳にしたが、彼女たち以外にもう一人いるのか?

 トレスの、旦那……?


「ドス、弾寄越しな」

「へいへい」


 ドスはジャケットの内ポケットから拳銃の弾倉を取り出すと、まるで友人に菓子パンでも渡すかのようにトレスに投げて渡す。それを受け取った彼女は先ほど交換して空になっていた太もものホルスターにしまう。


「じゃ、二階見てくるから。しばらく二人でここにいな」

「へーい」

「……」


 ドスがひらひらと軽く手を振っている間に彼女は階段を駆け上がってもう一度西棟へ向かっていく。静かになると、ドスは床に倒れていた御幸を優しく起こしてはさり気なく階段の方へ座らせられた。


「やー、姐さんは仕事モードになっちゃうと容赦なくってすんませんっすわ。怪我とか、無いっすか?」

「……えっ? と……」


 予想だにもしなかった気遣いの言葉に御幸は面喰い、そして言った本人は何とも緩い笑みを浮かべる。

 空き巣の顔、なんてのは知らないが少なくとも根っからの悪人という風には見えない。何と言うか、ガソリンスタンドで働いている愛想の良いお兄さん、のような雰囲気がある。


「少し前はあんなんじゃなかったんすけど……こっちにもこっちなりにちょいと込み入った事情があるんすよ。先立つ物はお金ってよく言うでしょ?」

「は、はぁ……」


 先の世間話といい、彼の気遣いといいどうにも調子が狂う。

 御幸はとりあえず彼の話に耳を傾けることを決めた。


「ぶっちゃけるとっすね、俺はこのお屋敷の噂に関しては半信半疑なんすよ。だけど、今の姐さんはそんな夢みたいな話でも信じたいぐらい必死なんすわ。だから、あんまし手荒いのは控えたいんすよねぇ……」

「……事情、って?」

「んー……まぁ、そこはプライベートってコトで」


 自分からペラペラと喋り出したくせに肝心なトコは守るらしい。

 何ともいい加減なキャラだが不思議と嫌な感は無い。状況が状況、なのだが。

 それきり、彼は特に何を言うでもなく御幸の近くで周囲をぼんやりと見回し始める。隙を見つけたら逃げようかと思うが、満足に手が使えない今となっては下手に動いても効果が薄い。そんな折、御幸は何となく天窓を見上げ、先の人影のことを思い出していた。


「……あれは、やっぱり」


 翼をもつ人影なんて普通に考えたら在り得ないのだが、御幸には一つ心当たりがある。

 今しがた追い出したばかりの、この屋敷の先住人たち。

 そのうちの一人で、一番鼻持ちならなかったあの少女。

 彼女は、彼女たちはまだこの白桜邸の何処かに潜んでいる……の、かもしれない。

 御幸の胸の内を複雑な感情が泳ぎ回る。


「…………?」


 ふと、天窓の向こうに黒い塊のようなモノを見つけ御幸は首を傾ぐ。それはまるでこちらをジッと見つめているかのように佇んでいる。いや、明らかに視線を感じる。

 黒い塊が、御幸を見つめている。


「……ん? どうしたよ天井なんか見上げ……て……?」


 ドスが御幸の視線を追って首を上げた瞬間、稲光が天窓の上のシルエットを映し出し、雷鳴が轟くと同時に窓ガラスが砕け散る。降り注ぐガラス片の中、黒い人影が二つ、遅れてもう一つ転がりこむようにして現れる。二つの人影は颯爽とホールの中央に着地、残ったもう一つは着地に失敗して御幸の方へごろんごろんと転がって階段にぶつかる。

 あまりにも突拍子のない彼女たち(、、、、)の登場に、御幸もドスもしばらく唖然とするばかり。


「ふ、ふっふっふ……待たせたのぅ、御幸!」

「御無事のようでなによりです、御幸様」

「……な、ぁ……」


 天窓をぶち破って現れたのは、今しがた追い出したばかりのフランヴェルとクラリッサだった。フランヴェルは真紅色のドレスを一度はためかせ胸を張り、クラリッサは燕尾服に着いた雨粒を手で払いながら乱れた髪を直している。と、すると御幸の方へ転がってきたのは、


「……ぅ、きゅう」


 言わずもがな、マリエルか。

 メイド服のままひっくり返って、どうやら気絶してしまったらしい。


「な……な、何だアンタら……? もしかして」

「クラリッサ!」

「はっ」


 フランヴェルの素早い指示にクラリッサは即時で応え、床を蹴飛ばすと一瞬のうちにドスへと肉薄。驚き戸惑っていたドスは反応が遅れ銃を構えるも、彼女の蹴りによって弾かれ、続けざまに腹に鋭い一撃を叩き込まれ悶絶する。


「がッ……つ! お、おいおい……女の蹴りの、威力じゃないな……」

「日頃鍛えておりますので」

「クラリッサ、貴様はそやつを相手しておれ! わらわはそのスキに一番美味しいトコをば……!」

「はい、ストーップ!」

「む……ッ!?」


 カチリ、と御幸のこめかみで響く嫌な音。

 駈け出そうとしたフランヴェルの足は止まり、彼女たち二人の表情に緊張が奔る。


「派手な音が聞こえたから戻ってきたら……案の定だったわね? やっぱり他に人がいるじゃないの、えぇ? 御幸君?」

「……御幸を、放してもらえんかの? わらわも無用な殺生はしたくないんでの」

「はいどうぞ……なんて、素直に返す悪党って見たことあるかしら? 答えはノーよ」

「長生きの秘訣は素直さじゃ、と言っておこうかの……?」

「それに、まさかまだ生きてるなんてね……白桜御鷹に憑いた(、、、)、赤い悪魔さん?」

「失敬な、わらわは悪魔じゃないぞ。一応言っておくがわらわは」

「そうだ、アナタなら知ってるんでしょう? この屋敷の、白桜御鷹が隠した財産の在り処。それをアタシに教えなさい。それをこのコたち(、、)の解放との交換条件にしてあげるわ」


 しれっとマリエルも人質に加えられている。

 色々と話の腰を折られたフランヴェルは溜息を吐きつつ、トレスに怪訝な眼差しで返す。


「人の話を聞かないヤツじゃの……それに、御鷹が残した財産? そりゃ」

「情報を知ってるのなら洗いざらい教えてくれると助かるわ。いっそ、アナタが案内してくれてもいいのよ? さっきから色々と焦らされてアタシもちょっと我慢の限界でね」

「…………まぁ、心当たりは、無くもないがの」

「フランヴェル……?」

「それは何処かしら?」

「んー……それを教えたら、御幸とマリエルを解放するんじゃな?」

「えぇ、約束するわよ」

「……しょうがないの」


 そう言ってフランヴェルは自分の胸元に手を伸ばした。何か大事なモノを隠している、男では不用意に手を伸ばせない、女性のみに許された秘密の隠し場所。……それは、トレスのようなプロポーションの持ち主しかやらないかと思っていたのだが。どう見てもフランヴェルにそんなスペース(谷間)は無い。


「……あら」

「何よ、焦れったい。時間稼ぎのつもり?」

「やー……すまん。さっき出ていく時に置いてきてしまったようじゃの。おー、おー!? マジじゃぞ!? ホントはの、わらわの胸にいつも忍ばせ……な、何じゃその目は!? 鍵の一本ぐらい隠せるんじゃぞ!? ほ、ホントじゃぞ……? ホントなん……うわぁー!? 待て待て待て!? じゃから、本当に部屋に置いてきてしまって」

「……なら、アンタの部屋に案内なさい。今すぐに」

「わ、わかった……じゃから、御幸を傷つけるんじゃないぞ。ついでにマリエルも」

「はいはいわかったわかった。……ドス、アンタも来な」

「へいへい……っと」


 蹴り飛ばされて転がっていた拳銃を拾い、ドスはトレスとフランヴェル達を挟むような形で殿に位置を取る。

 御幸たちはそのまま大所帯でフランヴェルの部屋へと向かった。

というわけで、今日から一日一話更新に切り替えます。

あとがき、それからエピローグも出来上がってるんで、最後までもーちょっとお付き合い頂けたら嬉しいです。


次回更新は8月15日のこの時間に。

では、待て次回。

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