第3話
「せぇい!」
両手で槍を持ったリオが楽しそうな表情を浮かべながら鶏を小突き回している光景が目に映る。それって動物虐待じゃないの?と思われるかもしれないが、いえいえリオの名誉のためそこは否定しておきますよ。鶏と言っても見た目が鶏に似ているというだけで、目の前にいるのはIDO内で【ワイルドチキン】という名の魔物に分類される生き物だそうです。あっ、いま安直な名前だなあとか思いましたね? まぁ私も思いましたけど、そんな事を私に言われても困りますよ、私が名付けたわけではないですからそういう事はIDOの開発者にでも言って下さい。
「良い汗かいたぁ。それで、どうだった?」
「何がどうだったのかは分からないけど、そうねぇ・・」
咄嗟に何かが思い浮かぶわけもなく、とりあえず一番最初に思った感想でも言っておけばいっか。
「空を飛ぶ鶏なんて初めて見たわ」
「そこなのっ!? そうじゃないでしょ! ほら、槍捌きが凄かったとか」
「別に私自身が武術とかやってるわけじゃないんだから、そんなこと分かるわけないでしょ」
「そりゃそうかもしれないけど。ワイルドチキンは街周辺に出る魔物の中でも唯一のアクティブモンスターだから厄介な奴なんだよ、それを簡単に倒したんだからもうちょっと何かあっても良いと思うんだけどなぁ・・」
「ん? なに、そのアクティブモンスターって?」
「えっと、魔物はノンアクティブモンスターとアクティブモンスターの2つの属性に分けることが出来るの。簡単に説明するならノンアクティブは近づいてもこちらから攻撃しなければ何もしてこない魔物で、アクティブの方はこちらが何もしなくても索敵つかれば問答無用で攻撃してくる魔物ね」
「ふ~ん、それじゃ今周りにはアクティブモンスターだらけってことかな?」
「まぁ、そうだね」
「それでアンタはそれを分かったうえでゲーム初心者の私をいきなりこんなとこに連れてきたってことでいいのよね?」
「う、うん・・・・」
若干頬を引き攣らせながら後退るリオに私はこれでもかという笑顔を浮かべながらにじり寄る。時間的には短いが体感では長く感じたであろう居心地の悪さに耐え切れず逃げ出そうとする一瞬を長年の付き合いから簡単に看破し、逃げられるその前に一気に両手で頬っぺを引っ張ってやった。
「いひゃい! いひゃいよ、ひゅな!」
「痛くしてるんだから当然よ!」
「ごふぇん! ゆるふぃて、ひゅな! いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
その後、地べたにへたりこみ泣きながら頬っぺを撫でている女の子とそれを見ながら凄く満足したような表情を浮かべている女の子を他のプレイヤーに目撃され少しだけ変な噂が広がるのはまた別のお話。
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「それで、これからどうするの?」
「えっ? このまま鶏狩りを続けるけど」
ジロっと少し強めにリオを睨みつける。
「ちょっと待って待って、話を聞いてよ! たしかに厄介な魔物って言ったけど、それはこの街周辺に出てくる他の魔物と比べてって話なの。単純な強さは運動がちょっとでも得意な人なら問題無く倒せる程なんだってば」
「・・・・ホントでしょうね?」
「本当だって。あ、ほらっ、あそこに一羽いるからユナ自身で試してみなよ」
言われて視線を向けるとたしかにワイルドチキンが一羽おり餌を啄んでいる。襲ってこないとこをみるとどうやら私達には気付いていないみたいだ。
「はぁ~、まぁいずれは戦わないといけないだろうし、それが早いか遅いかってだけの話か。それじゃ、ちょっと行ってくるわね」
「行ってら~、大丈夫だとは思うけど本当にダメそうだったら援護するから」
手に持った武器の感触を確かめながらできるだけ足音を立てないようにワイルドチキンの背後に回り込んでいく。
(もう少し・・・・あとちょっと・・・・)
パキッ
(パキッ?)
それは小さな音だったにも関わらずやけにハッキリと周囲に響き渡った。
「コケーーー!」
ついつい音の発生源を確認しようとするやいなや、ワイルドチキンが見た目と同じく鶏と同じような鳴き声を上げこちらに向かって駆けてくる。
(あともうちょっとだったのになぁ。まっ、こうなっちゃったら仕方無いし、さっきのリオの戦闘でも参考にしながらやってみよっと)
こちらも同じように駆け出すとワイルドチキンは2~3メートル上空へと勢い良く飛び上がった。
(距離が離れていたら上空に上がってからの突撃攻撃、リオの時と同じような行動ね。ということは魔物は個別ではなく種類別にある程度同じ行動をとるということかしら、・・・・それなら!)
考えが浮かび足を止めたところに上空にいたワイルドチキンが私目がけて突撃してきたので、リオと同じように横にステップすることで難なくこれを避ける。
(見ていた限りワイルドチキンは突撃中急な方向転換はできないようだし、突撃→ホバー→着地が一連の流れになっていたわ。そして・・)
「ここっ!」
着地した時の僅かな硬直時間の隙に私が剣を思いっきり横一閃すると、ワイルドチキンは首を斬り飛ばされ一撃のもとに光の粒子となって消滅していった。
「・・・・・・あれ?」
「お見事ってどしたの、そんな呆けた顔なんかして?」
いつの間に近くに来ていたリオに顔を向け、至極当然な疑問を投げかける。
「リオは何度も攻撃していたよね? なんで私の時は一撃なの?」
「あっ、それは特定の条件を満たしたことによる即死攻撃だったからだよ。普通は攻撃を当てて生命力(通称HP)を削っていき0にして倒すんだけど、さっきのユナみたいに『首を斬り落とす』『心臓を破壊』『頭を叩き潰す』といった感じに生き物にとって確実に死んだと考えられる攻撃だった場合は一発でHPが0になるってわけ。まぁ、即死攻撃を狙っていくプレイヤーなんてほとんどいないからそうなったら儲けモンとして考えるといいよ」
「ふ~ん」
「そんな事よりワイルドチキンが消えたとこを見てみなよ、何か落ちてるでしょ?」
たしかに足元に肉(?)が落ちていた。
「鶏肉?」
呟きながら落ちてたものを拾うと、リオは少し驚いた表情を見せる。
「おぉ、普通は羽とかだったりするんだけど初戦闘のドロップがレアアイテムなんて幸先良いねユナ♪」
「この鶏肉がそんなに良い物なの?」
「食材として料理すると普通の鶏肉より美味しいし、売ればそこそこ高値で売れるからね。それ目当てで最初に鶏狩りする人も居たりしたもんだよ」
「へぇ~、それはちょっと食べてみたいかも」
食べたことのあるリオの料理話を聞き想像を膨らませながら、少し前までの思いとは反対に私も積極的に鶏狩りを決行することした。とはいえレアアイテムというだけあって20~30体程倒したところで1つも鶏肉を手に入れることは出来ません・・・・がっくし。
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「そろそろ街に戻ろっか?」
羽を分配し終えて一息ついている時にリオが提案してくる、正直鶏狩りにも飽きてきていたところだしその提案は私にとっても渡りに船といったところね。そういえば昼からβ版の知り合いと遊ぶって言ってたっけ。
「他の用事があるんだったわね、区切りも良いし戻りましょ」
「なんなら一緒に来る? みんなに紹介するけど」
「う~ん、辞めとく。たしか一度に組めるPTには人数制限があるんでしょ? 私が行ってそんなとこで揉めたくないしね」
「そっか、大丈夫だと思うけどユナがそう言うんなら」
「機会があった時にでも紹介してよ、私の知らないリオの友達ってのには興味あるし」
「うん、分かった。それじゃ、またね」
「えぇ、またね」
とりとめのない話をしながら戻ってきた街の入口でリオと別れた。それじゃ手に入れた羽でも売りに行くとしますか、最初に装備品やら消耗品やらを買い揃えて所持金が既に半分以上減ってしまってるし。
街の人に聞きながら素材を買い取ってくれる場所へ少しワクワクしながら向かったが、店を出た時の私の表情は暗いものである。
「よくよく考えれば簡単に手に入るんだからそりゃ買取は安いわよね・・はぁ~」
大量にあった羽の売値は微々たるものでむしろそれより鶏肉1つの方に高値が付いた、まぁお肉は売りませんけどね。
昼食でもとって気分転換でもしようかなと最後にステータスを見るとアビリティが【剣:Lv1】から【剣:Lv2】に上がっている。最後に良い事があったかなと思いながらログアウトしていった。
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