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天国に一番近い職業


戦闘機の戦闘は空力学もほんのすこし基本も基本をかじった程度の自分には理解しがたいもので、しょうがないのでこの程度に収まってしまいました。

矛盾した点、浅はかな知識で書いたためあると思います。

ご指摘をお待ちしております。


 空が、近い。

 もう手を伸ばせば届きそうだ。

 ごうごうと大きな音を立てて僕は飛ぶ。

 目障りな境界線が消えた。

 もう少し。もう少しなんだ。

 手を伸ばす。届きそうで、届かない。

 なんで―――こんなに遠い、空。ソラ。そら。

 そして僕は何度目かの落下を経験する。

 何度も何度も何度も何度も何度も墜ちてきたけど。この感覚だけは、慣れない。


「Good Lack.また、別の空で会おう」


 僕はいつからかの決まり文句を口にすると、少しだけ自由になるために地上を目指した。


◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇


―――ワタシは平和な世界の片隅の片隅に、今まさに死に絶えようとしていた。

 降りしきる雨、おびただしいほど大量にあるガラクタの山の中。

 清潔とはいえない概観の少女が明るくならない空をみていた。

 その腹には、穴が開いておりどくどくと体液を垂れ流す。

 背もたれ代わりのガラクタはすぐにでも倒れてきそう。

 助けなんて来ない。助けてくれる人なんて居ない。


 あぁ、死ぬなぁ。

 

 少女はぼんやりと思って、そして目を瞑る。


◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇



 僕の職業は多分、世界で一番天国に近い職業だ。


 破裂音のような音が規則的に周囲でこだまする。

 風を切って空を滑る僕の機体は音を避けるようにして大きく体を回転させた。


「しつこい…」


 残った敵機はいまだ僕のバックかサイドに取り付く形だ、かれこれ2分間もこの形を続けている。

 最初は綺麗だと思った敵機の塗装も、空で3分も見れば鬱陶しくなる。

 あぁ、また嫌いな色が増えそうだ。

 上昇して振り切ろうとするが喰らいついてくる、意味が無い。

 スポイラを開いて更にはストール。

 一気に高度を落とした。計器と機体一瞬にして悲鳴を上げる。高度数百メートルからの垂直落下。敵機は追ってこない。おそらくはこちらが墜ちて自滅する事を目論んでいるのだろう。他にも僕の味方はいる。弾薬を無駄にするよりは変に深追いするよりも効率的だ。


 あいにくだが、僕はそんなヘマはしないし、できない。


 つんざく金きり音のような悲鳴が周囲で騒ぐ。煩い、と思っていたのが当初。いまでは心地よいBGMだ。

 木の葉のようにきりもみしながら落下していく。その都度僕の空は表情を変えていった。

 半ロールして上昇。大地が頭上に来てすぐにまた青空が見えた。

 やはり土色の空は精神衛生上よろしくない、空は青でなければ。

 その空に、動く点が二つ。鳥、にしては動きが早い、それに少々トリッキーだった。飛行機だとはすぐに分かる。ライトを消して明らかに見つからないようにしているところから、戦闘用だ。旅客機ならあんな動きはしないだろう。そして、僕の部隊は僕を除いて全滅した。

 ともすれば、この空で遭遇するのは敵に他ならない。


「あーぁ……嫌になるなぁ…」


 僕はぼやくとエレベーターを引いた。

 機体が加速し高度を上げる。すぐに黒い雲を突き抜けて僕は敵の背後に出た。

 もちろん気付いた敵は左右に散開しようとする。でも、もう遅い。じゃあね。

 僕の腕は僕の意思から切り離された場所で引き金を引いた。


 ッバシュゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥ―――――!


 積んでいた4基のミサイルが2基ずつに分かれて敵機に迫る。

 右は鈍臭い。発射されたミサイルに反応する暇も無く尾に一撃貰って、もう一発を脇腹に受けた。

 対して左のヤツは勘が良い。一気に高度を落として黒雲に姿を消した、でもミサイルは熱探知だ。逃げ切れるかは分からないが……念には念を、追撃をしよう。

 僕は彼の背後を取れるような形を意識して追撃を試みる。

 急速降下。

 雲に突入。

 視界不良。

 彼は何処だ?

 黒雲の中にさらにどす黒い黒煙。

 あぁ、逃げ切れなかったのか。

 僕は軌道を水平に戻す。戻そうとして、衝撃に襲われた。


「ッ!?」


 機体のコンディションを見る。

 尾翼に異常。

 思わず背後を見た。黒雲と黒煙を従えて彼が撃ってきている。

 やるぅ。

 思わず口笛を吹いた。

 機体をできるだけ小刻みに動かしながら水平のまま雲を突き抜ける。

 後は主翼に搭載している2門のガトリング砲が約50発。上手く当てなければそこで僕の負けだ。

 無論、後ろの彼だって弾は無限じゃない。無駄弾を撃てばすぐに尽きる事だろう。だから、勝負の分かれ目はそこだ。

 機体を右に僅かに傾かせる。その僅かなスペースを狙い済ましたように赤く発光した塊が通過していく。今度は左、やはり同じように。

 パターンが掴みやすいな。本当は素人かな。

 さっきのはもしかしたらマグレだったのかも知れない。

 弾丸の雨をバレルロールを繰り返しながら避け続ける。何発かかする事はあれ直撃は無い。

 彼が少し減速する。おそらく残弾を撃ち尽くしたのだろう。このまま上昇して逃げるつもりだ。僕は落下しつつ加速すると、そのまま最高速でループして彼の背後を取った。尾翼の黒煙が後を追って綺麗なアーチを描く。しかし、ループした先に彼の姿は無い。


「!!」


 そこで致命的な勘違いに気付く。

 次いで衝撃。今度は脇腹、エンジンタンクの近くだ。彼はいつの間にか僕のサイドに回りこんでいた。

 やっぱりやるなあの狸め。

 被害は軽微。弾丸の雨はほとんどが機体に吸い込まれたが、それほどのダメージは無いのか、問題なくフライトしている。でもエンジンタンクの近くというのが気になる。

 ストールを入れて急減速急降下、そのまま半ロール。

 敵がこちらを一瞬見失った。

 僕は、目の前で勢い余った彼が通過するのを捉える。


「また、別の空で会おう」


 スロットルレバーを絞って、エレベータを引く。そして照準も彼も見ずに僕はトリガーを引いた。

 機体ごと彼に突っ込んで、けたたましい発射音。

 彼の胴体は50発の弾丸にバラバラにされて、地上に落ちた。


「あぁ……今日も生きてる」


 そして今日も、僕は空に残った。

 雲の上はいつも青い。キャノピィをあけようかと思ったけど、やめた。もうそんな気分は失せた。

 でも、代わりに充足感が気分を高揚させた。笑いたくなったけど、笑えなかった。僕にそんな機能は無いから。


 これが、僕の職業。こんなのが、僕の職業。天国に、一番近い職業。


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