第12話 静かな夜
仕事を終えて、家に帰った。
私の部屋の前に行くと、男性らしき人物が手摺壁に寄りかかって、下に広がる街並みを見つめていた。
平野さんではない。
「こんにちは」
「っ! こ、こんにちは」
近くで見るときれいな顔をしている。
中性的な顔立ちで、男かどうかわからない。
挨拶をした後、そのまま部屋に入る。
男装をしている女性なのだろうか。
そういえば、今日読んだラノベに男装女子が登場したが、
主人公はいつ女性だと気づくのだろうか。
これからの展開が楽しみだ。
部屋着に着替えて、野々花さんに連絡を入れる。
「野々花さんよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
すぐに既読がついて、メッセージが送られてくる。
かわいい猫のイラストがこちらに手を振っている。
「今度の土曜日か日曜日空いてますか?」
「どちらも空いています!」
「では土曜日のお昼に猫カフェに行きませんか?」
「はい!」
「時間は13時くらいで」
「了解です!」
特に滞りなく予定が決まった。
「霧崎さんの好きな食べ物は何ですか?」
「私の好きなものはカレーです」
「カレーですか! いいですね! 私は焼肉とオムライスが好きです」
「なるほど。それは素敵です」
「趣味は何ですか?」
「読書です」
「知的でいいですね! どんな本を読むんですか?」
「ラノベやビジネス書です」
「いいですね。私もラノベ好きです」
「どんなジャンルが好きなんですか?」
「恋愛ものです!」
「私も恋愛ものが好きです」
「特に学園ラブコメが好きで、すれ違いからの大団円が最高です!」
「いいですね。今度、おすすめの小説を教えてください」
「はい!」
こんな会話が続き、途中で晩御飯を食べる。
今日はレトルトのキーマカレーだ。
忙しさで心の余裕がなくなり、ずっとインスタント食品を食ってきた。
もっと健康を考えたほうがいいのかもしれない。
「今日の晩御飯はレトルトのキーマカレーです」
「え? 男性はもっといいものを食べていると思っていました」
「おいしいですよ?」
「そういう問題ですか?」
橋本さんからも連絡が来ていた。
「橋本透香です」
かわいいウサギのキャラクターのスタンプがこちらを笑顔で見つめている。
「こんばんわ」
「こんばんわ!」
数秒で既読がつく。
「今は何をされているんですか?」
「今はレトルトのキーマカレーを食べています」
「おいしそうですね!」
「はい。橋本さんは今何を?」
「映画見たり、音楽を聴いたりしていました」
「なるほど。どんな曲を聴くんですか?」
「最近流行っているアニメの主題歌とかアイドルの曲とか好きなアーティストの曲ですね」
「それはいいですね。私は洋楽を主に聞いています。あと、同じようにアニメの主題歌も」
「素敵です!! 霧崎さんは今度の休みでは何をされる予定ですか?」
「土曜日に出かける予定があります。日曜日は特に何も」
「そうなんですね!! どちらにお出かけになるんですか?」
「会社近くの猫カフェです」
「男性が猫カフェに行くのは珍しいですね! 猫がお好きなんですか?」
男性が一人で店に行くのは珍しいと思っているのだろうか。
「大好きです。犬も好きです」
「猫も犬もかわいいですよね! お一人で行かれるんですか?」
「いえ、一人ではないです」
既読がついた後、少し、橋本さんの返事が遅れる。
「もしかして、女の子と行くんですか?」
「はい」
橋本さんの返事が遅れる。
「なるほど。それは楽しそうですね!」
「はい。楽しみです」
「えーと、日曜日にどこか遊びに行きませんか?」
「暇なのでいいですよ」
前の世界ではパソコンでいつでも仕事ができるのをいいことに、
仕事とプライベートとの境界は崩壊していた。
「よかったです! では駅前に焼き肉店があるので、二人で行きませんか?」
「いいですね! 行きましょう」
「日曜日の11時に集合で大丈夫ですか?」
「はい」
「ではよろしくお願いします!」
ウサギのキャラクターがこちらに親指の腹を見せつける。
私も同じキャラクターのを送った。
美夏課長からの連絡はなかった。




