第45話 狩り
リュムが村に浸透したので狩りに出掛ける。
「エリーダ。アタシの力で落ちないようにしているから安心して」
「わかった!」
狩りをするだけならエリーダはいらないのだが、どこで見られるかわからない。しばらくはセットで行動してもらおう。
オレはテレキボードに乗ってリュムたちのあとを追った。
鹿は本当にたくさんいるので、山に入る前に十数匹の群れを発見出来た。
「エリーダ。リュムに好きなように狩らせて」
「わかった! リュム、ゴー!」
案外、度胸があるエリーダ。激しく揺れるリュムの背中につかまり、笑顔を見せていた。
リュムは鹿の群れにまっしぐら。虎ってあんなに俊足だったっけ? チーター並みに速いんですけど。体重、三百キロはあるよね?
まずは一匹に噛み付き、そのまま振り回して周りのを吹き飛ばした。
流れるように噛み付いている鹿の首を噛み切り、次の獲物に襲い掛かった。
一方的な虐殺。なんかこの世界の獣、魔物以上に強くね? オレでも負けそうな勢いなんですけど。
十数匹いた鹿は二、三分で皆殺し。鹿に憐れみを感じてしまったよ。
皆殺しにした鹿をバリボリと食べ始め、骨まで残らず五匹を完食させた。どんだけ食うんだか。無限の胃袋をお持ちか?
「お腹いっぱい?」
「モウスコシダケナラクエル」
と、さらに三匹を完食させてしまった。どうしよう? こいつの食費で破産する未来が見えたよ!
「前もそんなに食べていたのか?」
やっと満腹になり、汚れた手を舐めて猫のように顔を洗っている。小さかったら可愛いと思えるんだろうな~。
「イヤ、ニヒキモタベタラシバラクタベナクテモスム」
それはよかった。食費で苦しむ未来はなくなったよ。
「イマハチカラガタリナイ。ハラガオチツイタラマタカル」
胃袋には限界があるんだ。そう規格外の生き物ってわけではないんだな。
「スコシネル」
と、グルグルと喉を慣らして眠ってしまった。
「エリーダはリュムと一緒にいて。鹿を狩って来るよ。なにかあれば力の限りテレパシーを飛ばして」
そう遠くには行かない。一キロくらいなら余裕で届くはずだ。
「わかった。気を付けてね」
うんと頷いてテレキボードを飛ばした。
鹿はすぐに見つかるが、一生懸命逃げていた。リュムの気配を感じ取ったのだろうか? それはそれでありがたいが、リュムの胃を満足させるためには逃がしてはならぬ。全速力で飛ばしてテレキで脚を折ってやった。
一匹五、六十キロはありそうなので、一匹一匹運ぶことに。九匹でギブアップになった。
「今日はここで野宿しようか」
帰るのも億劫だ。リュムがいれば危険な獣は寄って来ないだろうよ。
ルームからハンバーガーを買って来て、エリーダと食べる。久しぶりに食うと美味いものだ。前世じゃ胃に溜まるから食わなくなったがな。若いって最高だ。
焚き火を起こし、リュムをクッションにしてのんびりする。
「マリーダ。なにかお話して」
「じゃあ、前の世界のことを話すか」
短い年月だったが、それでも濃密な二年と半年だった。まあ、ほぼ危機から危機の毎日だったがな。英雄譚にもならないものだ。
それでもエリーダは楽しそうに聞いている。もしかして、冒険とかに憧れているのかな? オレはそれを認めていいのだろうか?
なんか親みたいな思考になってしまったが、エリーダが望むなら好きにやらせたらいいだけだ。人生は一度だけ──と言えないところが痛いところ。転生って負い目でしかないな。
「ん? なんだ眠っちゃったか」
まあ、まだ幼い子供だ。体力はそんなに多くない。早々に電池が切れるのも仕方がないか。
「リュム。なんかあったら起こしてな」
オレも疲れた。今日はさっさと寝るとしよう。
「アア、ワカッタ」
リュムを枕にお休み三秒で夢の中に飛び込んだ。スヤスヤ~。




