第40話 武器屋(ブラックマーケット)
風呂に入れ、髭を剃らせたら案外若かった。
「三十歳?」
「いや、四十歳だ。そんなに若く見えるか? まあ、うちの家系は若く見られるがな」
転生したのなら日本人でもなかろうに、この世界でも若く見える民族がいるんだな。
「体型もそんなにがっちりしてないね。技で戦うの?」
「そうだな。力任せの剣術ではないな。だが、これでも力はあるぞ」
確かに体は引き締まっている。贅肉がまるでない。ってか、食ってないから痩せているだけか。
「明日の朝に出発ね」
オレはルームに入り、早めに眠っておく。精神力を回復させるにはぐっすり眠るしかないんでな。
次の日になってテレキボードで町に向かった。
「魔法か?」
「似たようなものかな? この体に生まれて威力は落ちたけどね」
てか、この世界で超能力って言ってもわかるものなのか? エリーダみたいなのがいるから超能力使いはいると思うんだが。
「魔法は厄介よな。なにもないところから炎を出したり地面に穴を空けたりと、初見殺しにもほどがある。まったく戦いたくない相手だ」
その口振りから戦ったことありそうだ。生きているんだから勝ったんだろうな~。
オレも何度となく死線を乗り越えて来た。だからわかる。先生から発せられる強者の気配。最後に戦ったゴブリンでも対等に戦えたかもな。
町に近付いたら道に降りて歩いて向かうとする。
「活気のある町だ」
「町を仕切る一家が代替わりしたからね。諍いもなくなって商売が盛んになったんだよ」
「マリーダがなんかしたのか?」
「スピリッツが勝利しただけだよ」
先代のボスは心臓が弱かったのだろう。部下が起こしに行ったら死んでいたそうだよ。ご冥福をお祈りします。南無南無アーメンみそラーメン。
「服屋、どこだっけ?」
見た記憶はあるんだが、用はないから記憶が曖昧だ。人通りのあるところにあったような気がする。お、あった。
「好きなのを買っていいよ」
「うーん。服など着れたらよいからな。なにがいいのだ?」
「戦いに邪魔にならない服でいいんじゃないの?」
オレもお洒落な性格ではない。周りはお洒落させたいようだけど。
「ねぇ。この町に武器屋ってあったりする?」
てか、この町にあったっけ? 剣を差しているヤツ、極僅かしかいないが。
「武器屋ですか? それなら裏通りですね。ただ、看板はないので気を付けてください」
看板がないってことは表立って商売はしていないってこと。違法に近い店ってことだと教えてもらったよ。
さすがに裏通りは歩いたことがなかったな。なにもないと思ってさ。
とりあえず、店のおねーさんが教えてくれた裏通りへ。それっぽいのはなさそうだけど?
「どこだろう?」
店の裏口があるような道であり、店と思えるものはない。どこよ?
「そこだな」
先生が指を差した。え、どこ?
「ここだ。武器屋ってのは大体地下にある」
よく見たら地下に続く階段があった。暗くてわからんかったよ。
「客、来るの?」
「武器屋は副業みたいなものだ。こんな辺境の町で、武器だけ売って食ってはいけんよ」
「魔物がいない世界では武器の需要もないってことか。平和でいいね」
「これで平和か。異界は凄まじいのだな」
「先生みたいなのがゴロゴロしてたからね。もっと強いのは頭突き一発でちょっとした大岩を砕いていたよ。アタシも殺されそうになったっけ」
人類最強ってだけで、他の最強種に殺されたりもする。オレだって負ける世界なんだ、先生でも厳しいだろうよ。
「異界とはとんでもないのだな」
「とんでもなかったよ。魔王とかもいるしね」
「魔王か。強いのか?」
「アタシは魔王の配下に負けた身だからね、魔王を語れるほどじゃないよ」
配下より弱いってこともないだろうから強いとは思うよ。
「そうか」
先生が階段を下り、古びたドアを開けた。
蝋燭の明かりが漏れ、中に入ると、ダーク感漂うところだった。
「武器屋ってより、ブラックマーケットって感じだね」
剣や槍は少なく、ナイフが多いか? 革鎧やベルト、靴なんかも並んでいた。
「いらっしゃい。なにが欲しい?」
サンタクロースみたいなじーさんがカウンターで煙草を吸っていた。
「まともな服を見繕ってくれ。武器はある」
「武道家。今時珍しいな」
「珍しいんだ」
「じい様が生きていた頃は結構いたようだ。大会も各地で開かれていたよ。今は闇闘技場で開かれるくらいだ」
マジか。バトル漫画かよ?
「十年前まではこの町にもあったんだかな。マルティーカ一家が儲からんと潰してしまったよ」
へー。あの一家なら闇闘技場で稼ごうとか言い出しそうなのにな。そんなに儲からないんだ。
「それならスピリッツで興業しようかな?」
きっとやり方が悪かったのだろう。スピリッツの興業としてやるのもいいかもな。
「お嬢ちゃん、スピリッツの者かい?」
「うん。アタシ、マリーダ。よろしくね」
可愛らしく微笑んでみせた。
「……あんた、異界人かい……?」
「あれ? わかるんだ。上手く隠していると思ったんだけどな~」
疑問系だが、ちゃんと見抜いているっぽいので素直に認めておいた。
「マルティーカ一家が不思議な力を使う者に潰されたって話だ。他の連中を見たが、明らかに普通だった。なら、異質なのは誰かと言ったらお嬢ちゃんしかいない。こうして堂々としているのも異様だ」
なるほど。オレ、コ○ンより子供っぽくするのが下手なようだ。




