第38話 武道家
獣害なだけあって鹿はあちらこちらに見て取れた。
「寄生虫を排除したら食えるかな?」
それだとありがいな。食糧に困ることもないだろうよ。
干し肉にした大量に出来るかな? あ、生け捕りして家畜にしてもいいかも。って、鹿って家畜化出来たっけ? エリーダに精神支配させたら行けるか?
「まあ、まずは間引きだ」
ジャッグコマンダー・トリダガーナイフ──ファンネルナイフを飛ばして鹿の後ろ脚を奪ってやった。
獣は脚一本失ったくらいではなかなか死なない。生き残るヤツもいるだろう。あとはサーグや村人たちに任せたらいいだろうよ。
さすがの鹿も上空からの攻撃は予見も察知も出来ずに後ろ脚を失っていく。鹿にしたら悪夢だろうよ。
残念ながらゴブリンを殺してきたオレに慈悲はない。可哀想とかの感情も湧いて来ない。命は軽いって学んできたからだ。
「さすがに二百匹は疲れるな」
戦闘らしい戦闘をしてないからか、精神疲労が激しい。ゴブリンを駆除したときはこのくらい余裕だったのによ。
「てか、まだいるんだ」
ざっと見ただけでも二百はいる。こりゃ、しくじったか?
「てか、これだけいれば肉食獣が出て来ても不思議じゃないんだがな?」
前の世界とは違うとは言え、狼はいた。なのに、その狼が一匹も現れない? この世界の草食獣は鳥獣保護法でも受けてんのか? 定期的に間引けよな!
さらにがんばって百匹の脚を奪ってやったが、精神疲労が限界すぎてルームに飛び込み、気絶するように眠りに付いた。
目覚めは最悪で、頭が痛い。超能力を使いすぎた証拠だ。
「やっぱ、鈍ってるわ」
半年くらい温い超能力しか使ってない。てか、使う機会がそれほどない。使わなくても生活出来たからさらに使わない。鈍るのは仕方がないってものだ。
「ダメだとはわかっていても平和に負けて使わないんだよな~」
普通に生きてりゃ超能力なんてなくても困らない。逆に超能力を使うほうが面倒ってこともあるのだ。
「まったく、平和とは厄介だよ」
死ぬまで平和ならそれでいいんだが、そうじゃないのがこの世の中だ。世界が変わっても争いはなくやらない。きっと力を求めるときが来るものなのだ。
「とは言え、敵か獲物がいないと張り合いが出ないんだよな~」
ただ強くなる、なんて曖昧な目標だけでは真の強さは得られない。強い思いがなければダラけるだけだ。
この害獣騒ぎはありがたいが、一方的に痛めつけるだけでは緊張感は生まれない。生きるか死ぬかが強さを身に付けさせるのだ。
「銃でも使ってみるか?」
いや、銃は金が掛かるか? それなら弓でもいっか。武道としてやるのもいいかもしれないな。
「ん? 誰かいる」
山の中に人が動いているのが見えた。狩人か?
テレキボードを降下させると、ボサボサ髪の……男? 剣を差して、手には槍を持っていた。落武者?
「……この世の者ですか……?」
ゆっくりと降下して、落武者(仮)の前に出た。
「いや、それはこちらが訊きたいことだ。空から現れおって」
確かにそうだ。オレのほうが怪しいわな。
「アタシはマリーダ。スピリッツって組織の一人だよ。今は大量に現れた鹿を駆除しているところ」
「わしは、コウノ・タロウ。武道家だ」
「コウノ・タロウ? 異界人?」
完全に日本人の名前じゃん。
「いや、その孫だ。コウノ・ジョウタロウ。剣の達人だった」
剣を使うヤツも駆除員にしてたんかい、あのクソ女は。てか、剣の達人でも生き残れなかったのかよ。最初から無理ゲーなんじゃねーの?
「すまぬが、食い物があったら分けてくれぬか? まともなものを食っておらぬのだ」
「武道家も空腹には勝てないか」
「それが人間よ」
まったくだ。
「乗って。村に連れて行くよ。今なら鹿肉食べ放題だよ」
タロウさんの前に移動した。
「すまぬ」
テレキボードに座ったら浮かび上がり、村へと向かった。




