第36話 故郷
ブロイが挨拶から帰って来た。
「どうもマリーダ様が倒した中に、マルティーカ一家の跡取り息子がいたようで、それでボスが萎えたみたいですね。そこでバルドが取り纏めてスピリッツと手打ちにした、ってことのようです」
そんなヤツがいたんだ。まったく記憶にないけどよ。
「じゃあ、ボスは病死にしてバルドに継がせるか。それなら無駄に張り合う必要もなくなるしね」
「そうですな。バルドと相談します」
「よろしく。ミックは大工と話し合って来てよ。争いがなくなったなら店を新しくしようか」
「わかりました」
なんか拍子抜けだが、まあ、別に戦いがしたかったわけじゃない。結果オーライってことで店を新しくしようじゃないか。
ミックがすぐに大工と若いのを集めてくれ、店のものを一旦、タヌマ蒸溜所に運んだ。
「仕方がないとは言え、長年暮らした家がなくなるのは悲しいもんだね」
「新しくしたら百年二百年は続くものになるから諦めてよ」
これはリナイヤのためじゃない。長く生きることになるオレのため。これはオレの故郷を作るための建て直しなのだ。
前世の記憶があるとは言え、もうこの世界で生きて行くしかない。なら、故郷があったほうがこの世界に愛着が持てるってものだ。
イエティがいる湖の小屋も故郷ではあるが、あそこもオレの心の故郷。ここは人の中で生きるための故郷だ。
何年、何百年生きるかわからんが、なるべく長く保てるような造りにしよう。思い出はプライスレスだ。
とまあ、オレがどうこう出来るわけでもなし。店を取り壊し、新しいのが建つまでは長いことかかる。空いている店を借りてオープンさせることにした。
縄張り争いもなくなり、サンベルクの町は平和そのもの。スピリッツに加入するのも増えてきた。
オレが守る必要もなくなってきたので、エリーダの修行を行うとする。
修行と言ったら山。なんて単純な発想から山へレッツゴー──とはさすがにならないよ。てか、エリーダの超能力はテレパシー。人の精神に繋がる力だ。これは人の中で鍛えるしかないのだ。
毎日町の中を歩いて人の波長に慣れるようにする。慣れれば雑音になり、集中すれば聞こえなくなる。そればエリーダの精神力を鍛えると同義なのだ。
と言えるかはわからんが、オレの経験ではそうするしかないんだよ。テレパシー能力、そんなに強くねーし。
「大丈夫?」
「うん。禅のお陰かも。雑音が気にならなくなってきたよ」
思い付きだったが、そう間違ったことではなかったようだ。オレもやってみるか。
歩くことも体を鍛えることになるので、毎日十キロは歩いていると、サンベルクの町の細道まで理解してし、どこになにがあるかまで頭の中に入ってしまった。
リナイヤのところの食材も買っているので市場でも顔を覚えられ、おばちゃんおじちゃんとも顔見知りになってしまったよ。
「冬がやって来たか」
サンベルクに来てもう八ヶ月になるだろうか? 時が過ぎるのは早いものだ。エリーダも年相応になり、オレの背に追い付くのもそう遠くないだろうよ。
てか、まったく成長しねーな、オレ! 十二、三にしか見えねーよ。
「今年は温かく過ごせるよ」
よく生きていたものだ。雪が降る地域だってのにな。
「雪が積もったら橇で遊ぼうか。かまくら作って、お雑煮食べて、甘酒を飲むとしよう」
コッテコテだが、超能力があるとかまくらを作るのも簡単。前の世界じゃそんな余裕も雪も降らなかった。積もるくらいの雪ならまた冬を楽しむとしよう。雪中キャンプ。あれはあれで楽しいものだ。
「うん、やりたい! かまくらを見てみたいよ!」
もう冬のトラウマはないようで、かまくらに興味津々だ。立派なものを作ってやるとしよう。
「雪、たくさん降るといいね!」
「そうだね」
この時代だと冬は大変だろうが、オレらはまったく大変じゃない。食糧品はアイテムバッグに入れたし、タヌマ蒸溜所の空いている倉庫を借りて薪も貯めてある。快適な冬となるだろうよ。




