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リリーフ・オブ・ザ・ライフ~inTS  作者: タカハシあん


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第32話 リナイヤの店

 次の日、オレ、ブロイ、ミック、テネリーで町に出た。


「ここが昔、うちが卸していた酒場だ。まだやっていたんだな……」


 潰れたかと思うくらいボロボロだ。店を開けているのかも怪しいが、看板は上がっていた。


「リナイヤ。まだ生きているか?」


 中もボロボロ。壊れたテーブルが半分を占め、一部破壊されたカウンターに四十くらいのくたびれた女がいた。


「生きているよ。あんたこそまだ生きてたんだね」


「ああ。運がいいことにな。今日は酒を卸しに来た」


 ブロイが担いでいた箱から瓶に詰められたウイスキーを出した。あと、食料と水も。


「あんたも折れないねぇ。またマルティーカとやり合おうってのかい?」


「当たり前だ。あんなヤツらに屈してられるか。逆に潰してやるよ」


 テネリーのそいいう負けん気、嫌いじゃないよ。クズに屈するなど最大の恥辱だ。クソ女みたいなクズは死ね、だ。


「その強気は、後ろの男たちがいるからかい?」


「それもあるが、一番はそこの子だ」


 ブロイの後ろにいたからちょいと脇にズレた。


「い、異界人かい!?」


「ああ。見た目に騙されないことだ。かなりの死線を潜り抜けて来たような目をしているからな」


 ウイスキー造りの職人なのに、そんなことまで感じ取ってしまうんだ。駆除員の血か? 


「どうも。アタシはマリーダ。テネリーの言ったとおり、クズを殺すのに一切の躊躇もしないし、後悔も罪悪感もない。クズは死んで大地の栄養となれだ」


「なるほど。中身はかなり歳が行ってそうだ」


「そうだね。それで品位が高まったってこともなければ老成されたってわけでもないけどね」


 あの頃のまま。なんも過変わってないと思う。オレは子供のままさ。


「ふ~ん。確かに肝は座ってそうだね」


「一度死ねば肝も座るってものさ。人を殺す罪悪感もかなり減ったような気がするよ」 

 

 クズを殺してもなんら感じないけどな。クズは人間ではないし。


「なので、マルティーカ一家は潰す。そして、アタシらスピリッツがこの町を仕切らせてもらう。リナイヤも一枚噛んでおく? 悪いようにはしないよ」


「断る権利はあるのかい?」


「ない。強制。アタシたちの仲間になってもらいます」


 オレたちがここに来た時点でスピリッツのメンバーになることは決定したのさ。


「なので、スピリッツはリナイヤを守る義務が生じ、害する者はスピリッツの敵となる。敵は殺せ、さ」


「なかなか過激なことを言うじゃない」


「先に過激なことをしてきたのはマルティーカのほう。アタシは敵のやり方でケンカを買っただけ。嫌なら正当で誠意のあるやり方をすればよかっただけさ」


 まあ、オレは正々堂々とか習ってこなかったからルールは簡単に破らせてもらいますけどねっ。


「さあ、まずは店の掃除をしようか。これじゃお客が来れないからね」


 壊されたテーブルや椅子は外に出し、床を掃除する。


 店自体がボロいのでいずれは建て替えしなくちゃならんが、それはマルティーカ一家を潰してから。それからで充分だ。


 大工道具も持って来たので、直せるところは直し、棚にはタヌマ蒸溜所の酒瓶を並べた。


「テネリー。ワインとかエールなんかも手に入れられる?」


「マルティーカ一家に握られて手に入れるのは無理だ」


 なら、いなくなれば手に入れられるってことだ。なら、それもあとで構わないな。


「ワインはアタシが用意するよ」


 棚は半分くらいウイスキーが並び、ワインを買って来て棚を埋めた。


 カウンターの後ろにクーラーボックスやカセットコンロ、ウォータージャグなんかを並べた。


「休憩しようか」


 さすがに酒は飲めないので、皆にコーヒーを淹れてやった。


「やはりコーヒーはいいな。昔、飲んだ記憶が蘇るよ」


「コーヒー、あるんだ」


「帝国にもありました。いつか帝国から手に入れたいものです」


 インテリアなだけに知識はあるミック。


「ここより大きな町なら手に入れられるんじゃないかい? 昔はここにも流れて来たんだからね」


「そこはサーグたちに任せようか。いろいろ仕入れてもらいたいからね」


 休憩が終われば酒場の奥の掃除に取り掛かった。


「この世界のトイレ、最悪やな」


 どこぞの国のように窓からポイってことじゃないだけマシだが、ぼったん便所よりは最悪だ。リナイヤに尋ねたら、専門の業者と契約して外から回収してもらうそうだ。


「ほんと、異世界ってクソだぜ」

 

 トイレだけに、とか笑えんわ。生コンと便座を買って来てトイレを改造してやった。トイレットペーパーも付けて、蓋付きのバケツを置いた。


「消臭剤も置いておくか」


「マリーダ様。暗くなってきました」


「ほーい」


 三人には帰ってもらい、また朝から作業をしてもらう。


「あんたは帰らないのかい?」


「アタシはリナイヤの護衛だよ。もう仲間だからね」


 酒場がまともに営業出来るまではオレが寝泊まりしてリナイヤを守るとする。帰ってから襲われたんじゃ堪らんからな。


「そう言えば、リナイヤ一人なの?」


「昔は手伝いに来てた子もいたが、今は一人さ」


「子供は?」


「死んじまったよ」


 理由は尋ねなかった。こんな時代だもんな、まともに生きるのも大変だろうよ。


「夕食にしようか。終わったら服を洗濯するよ。あと、湯浴みだ。客商売するなら綺麗にしないとね」

 

 水浴びしたのも遥か昔って感じだ。四十過ぎても元はよさそうだ。綺麗にしたら男どもが寄って来るだろうよ。

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