第31話 スピリッツ
町の宿屋に拠点を作ろうと思ったが、テネリーが部屋を貸してくれると言ってくれたので、ここを拠点にすることにした。
「離れも使っていいぞ。マルティーカのクソ野郎どもに嫌がらせを受けて、職人たちが逃げてしまったからな」
昔は五十人くらいいたらしく、今は二十人もいないそうだ。本当に万死に値するヤツらだよ。
「じゃあ、仲間を呼んでもいい? 元兵士だから用心棒になるよ」
「それはありがたいが、マルティーカ一家と敵対することになるぞ」
「全然構わないよ。そいつら、潰すから」
オレの未来を奪うヤツなんてゴブリンと同等かそれ以下。そんなヤツらが死んだところで痛む心もない。クズはクズらしく死んでおけ、だ。
「異界人は恐れなしだな」
「他はよく知らないけど、前の世界で二年生きたヤツはナメないほうがいいよ。一年も生きられた者はなにか特別な力を持っているから」
逆に持っていないと生き残れない世界。普通のヤツには地獄でしかないだろうよ。
「テネリーたちはウイスキー造りに集中してよ。敷地内にクズは進入させないから。あと、買い物も護衛をつけさせるよ」
「助かる。家族に危害はかけたくないからな」
「任せてよ」
サーグたちを呼びに行き、テネリーのことを説明した。
「ウイスキーってここで造られていたんですね。貴族の間では人気の酒でしたよ」
「帝国では造ってないの?」
「どうでしょう? カルペラスト王国産のウイスキーしか知りませんね。わたしたちではなかなか飲めないものですから」
高級品ってことか。まあ、元の世界でもいいウイスキーは一万二万平気でする。こんな時代なら庶民はなかなか買えないかもな。
「そうそう。この中で一家の頭になりたい人、いる? マルティーカ一家を潰すから代わりにサンベルクを牛耳ってよ」
「……また、唐突ですね……」
驚きつつも慌てた様子はない。それなりに修羅場を経験したヤツは違うね。
「ウイスキーがある町だよ。頭の悪い一家に仕切られたらウイスキーが育たないよ。クズの味が混ざる」
そんなウイスキー、オレは飲みたくないね。
「あの、おれ、なりたいです!」
手を挙げたのはブロイだ。見た目は三十歳くらいで、体格のいい男だ。
「他にいないならブロイでいいね?」
「ありません。ブロイ、今日からお前が……名前、なにします?」
「じゃあ、ブロイ。今日からブロイ・グレンと名乗るといい。グレン一家の頭だ」
「はい。ブロイ・グレン、マリーダ様に恥じぬ一家となります」
なに、そんなことしないだろうよ。オレがクズ嫌いってことはバレてそうだからな。
「よろしく。んじゃ、縄張りを奪いに行こうか」
ヤクザの力は縄張りがどれだけあるか。なら、奪わせてもらいます、だ。
「テネリー。ウイスキーを卸していた酒場を教えて」
酒場は人が集まる。きっとマルティーカの者もいるはず。そいつらを追い出してタヌマ蒸留所の酒を置くとする。そこから奪っていく。
「部下の一人もいないのもなんだから、次の町で一家を築く者も連れて行こうか。誰か立候補する人、いる? あ、サーグも来てよ。宿屋もついでに奪っちゃおうか」
「お、おれ、いいですか? 一家を築いてみたいです……」
おずおずと手を挙げたのはミック。ブロイが武闘派ならミックはインテリアヤクザって感じだ。
「いいよいいよ。いっそのこと、巨大組織を創っちゃおうか。サーグが纏め役で、一人一都市を仕切る。七つも支配したら相当な組織になるんじゃない?」
そこまでなればオレの暮らしも楽になる。長い人生を快適に過ごせそうだ。
「わたしが、ですか?」
「まあ、纏め役だからがんばってよ。皆もいいでしょう?」
「マリーダ様が決めたなら我らは従います」
「はい。マリーダ様あっての組織になるでしょうから」
反対する者はなし。サーグが纏め役であり、トップと決まりました~。
「組織の名前はどうします? ないのも困るでしょうし」
「そうだね。あまり名を轟かせても困るし、簡単なものにしようか」
秘密にすることは不可能でも、大々的に名を知らしめるのも世間からバッシングを受けてしまう。なにがいい?
「スピリッツにしようか。蒸溜所で決めたしね」
「どんな意味なんです?」
「うーん。混合酒な感じだよ。皆が集まって美味い酒になる。どうかな?」
「賛成です」
「おれも」
「いいと思います」
オレに配慮したって感じもなく、気に入ってくれたようだ。
「じゃあ、アタシたちはスピリッツの一員。不味いお酒にしないようにしてこうか」
酒は美味いほうがいい。オレはまだ飲めないけど。
「結成に乾杯でもしようか。ちょっと待ってて」
ルームに入り、いくつか有名なウイスキーをいくつかを買い、氷と炭酸水、つまみを取り揃えて外に出た。
「テネリーも呼ぼうか」
「おれが呼んで来ます」
ザッジが気を利かせてくれてテネリーを呼んで来てくれ、ついでだからテネリーもスピリッツの一員として結成式に参加してもらった。
「スピリッツの今後を祝して乾杯!」
あ、オレはジンジャーエールを注ぎました。
グラスを掲げ、皆で乾杯をした。




