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リリーフ・オブ・ザ・ライフ~inTS  作者: タカハシあん


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第30話 蒸溜所

 おにーさんの名前は、テネリーて言うようだ。


 どこぞの米の国にある州みたいな名前だこと。そこから取った名前か?


「あんた、異界人か?」


 黒目を見たようで、いきなり確信を突いてきた。


「そうだよ。今はこんな姿だけどね。おにーさん、異界人の子孫なの? 名前が聞いたことあるような名前だけど」


「爺様が異界人だった。タヌマ・リョウジという名だ」


 オレより前の駆除員か? どんな能力を持っていたんだか。一時期は能力を与えていたとクソ女が言っていた記憶がある。


「魔法が使えたりするの? ちなみにオレは使えないけどね」


「結界って魔法が使えたそうだ。親父やおれには受け継がれなかったがな」


 弱かったのかな? 魔法は使ってなんぼの力だ。受け継がれるほど強くなかったのならあちらで生きた日数は短ったんだろうな~。


「異界人の子供は黒目になったりするの?」


 おにーさんは茶色いが。


「どうだろうな? うちにはいなかったよ」


 必ずしも黒目にはならないってことか。子孫と見抜ければ楽だったのにな~。残念。


「送るよ。同胞がどんな暮らしをしていたか見てみたいしね」


 瓦礫はそのままにテネリーの家に向かった。


 町の外に出て一キロくらい歩くと、なかなか立派な屋敷が現れた。


「お金持ち?」


「爺様ががんばってくれたお陰だな」


「なら、町で売る必要はないんじゃないの? 商人に卸すとか」


「マルティーカ一家に邪魔されて卸せなくなった。あいつらもウイスキーを造っているからな」


「狭量だね。ウイスキーの町として有名になれば発展するのに」


 ウイスキーなんて歴史があってこそ強みになるってものだろうに。潰してどうするんだか。


「おれもそう思うが、あいつらは儲けることしか考えてないんだよ」


 ウイスキーを愛しているんだな、このおにーさんは。


「それならアタシたちに売ってよ。今なら高く買わせてもらうよ」


 酒は需要がある。樽に入っているなら運ぶのもそう難しくないだろうよ。この世界は魔物がいないからか、道は悪くないのだ。


「それが本当ならありがたい限りだ。職人たちに払う金が尽きるところだったからな」


 かなり追い込まれていたようだ。


 敷地内には煉瓦の倉が五つくらい見えた。ちょっとどこか、この時代ならかなり大きな蒸溜所だろうよ。異界人は知識があったのか?


「なんて蒸溜所?」


「タヌマ蒸溜所だ。爺様はタヌマウイスキーって名を世に広めたかったそうだ」


 タヌマって名を残したかったのかな? 自分が生きた証を残したくて……。


 オレは元の世界に未練はない。いい思い出もなかったしな。だが、未練がある者は名を残して、自分がいたことを伝えたかったのかもしれない。


 クソ女に異世界に連れて来られ、死んだらまた別の異世界に転生させられる。さぞや悔しかっただろう。絶望しただろう。なんの繋がりもないが、タヌマウイスキーの名を残すのに協力させてもらうよ。


「何年熟成させているの?」


「最低でも八年。通常は十年。長くて十五年だ。瓶詰めは十年物だ」


 オレはウイスキーはそんなに飲まなかったが、グレンフィディック十二年だけは好きだった。今は子供舌なので飲めないが、大人舌になったら飲みいよ。


「帝国貨幣でもいいかな? それならすぐに渡せるけど」


「構わない。親父の代では帝国にも出していたからな。町には換金所もあるぞ」


 へー。あったんだ。いくらか換金しておくか。


 屋敷にお邪魔してもらい、部屋を貸してもらった。


「エリーダ。ちょっとルームに入って来るから。無理矢理部屋に入って来るヤツがいたら精神攻撃して構わないから」


 テレパシーにも攻撃手段はある。一人なら超感覚波長で脳を破壊することも出来るのだ。


「うん、わかった」


 訓練が精神力を鍛えているようで、一人になっても不安になることは少なくなっている。まあ、一時間が限界だけどね。


 帝国貨幣を詰めた袋と、グレンフィディック十二年を一本買って外に出た。


 すぐにテネリーのところに向かい、帝国貨幣が詰まった袋を渡した。


「……どんだけだよ……」


 多かったか? あっても二千万円くらいだろう? 違うのか?


「それに見合うウイスキーを売ってくれたらいいよ。あと、これを飲んでみて。前世のアタシが好きだったウイスキーなんだ」


「異界のウイスキーか!?」


「そう。十二年物だね」


 ここではスクリューキャップはないが、タヌマさんから聞いていたのか迷わず開けた。


「なんて香りがいいんだ。おれらの先の先を行っている」


「まあ、設備が違うしね。仕方がないよ」


「の、飲んでいいのか?」


「どうぞどうぞ。必要ならもっと持ってくるよ」


 ここでウイスキーが発展してくれるなら買う必要もなくなる。ウイスキーって地味に高いからな。長い目で見たら十本や二十本、安いものさ。


 震えながらグラスに注ぎ、毒でも飲むかのように手が震えていた。どんな感情?


 やっとこさ口に含むと、テネリーの時が停止した。なんなの君は? 


「──美味い! こんなに美味かったのかよ! まだまだじゃないか!」


 感情の起伏が激しいな~。


「作れる?」


「今は無理だ。これは樽から考え直さないとダメだ。いや、蒸溜もだ。新しい釜を造らないといけないかもしれん」


「足りなければもっと出すから、これに近いのを作ってよ」


 帝国貨幣は湖の小屋にまだある。オレのじゃないから惜しみなく渡せるよ。


「任せろ! 必ずこれに勝るウイスキーを造ってやるさ!」

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