第20話 帰宅
七日後、イーダたちがやって来た。
「悪いな、呼び出したりして」
「構わない。若いのに外を見せてやりたかったからな」
四年目の子たちを連れて来たようだ。若いのには長距離だったことだろうよ。
「まあ、まずは旅の疲れを癒すといい」
イエティら風呂に入ったりしないので狼の丸焼きを出してやった。
死体を食べてよく肥えた狼だ。食いごたえはあるだろうよ。オレは遠慮させてもらうがな。自然界で生きたヤツらはなにを食ったかなんて気にしないからたくさん食ってきださいませ。
死体も片付け終わったので臭いも薄れ、地面に広がった血痕も三日前に降った雨で消えてしまった。イエティの鼻でも不快にはならんだろうよ。
たらふく食べて一日休んだらイエティたちが使えそうなものを探してもらった。
人間とイエティの体格差があるので服は使えないが、ここ数年で指先が器用になった。繕うことも覚えたので布は喜ばれ、使えそうなものはすべて持って行くそうだ。
「そうなると馬車がたくさんいるな。馬、足りるかな?」
補給基地には五頭しかいなかったんだよな。
「おれらで引いて行く」
なるほど。イエティの体格なら馬車はリヤカーみたいなものか。それなら八台分は持って行けるな。
「マリーダ様。少しよろしいでしょうか?」
イーダと話していたらサーグが話しかけてきた。どうした?
「治療していた者が回復しました」
「それはなにより。回復薬凄いね」
なんでも魔法戦士に支給された中に回復薬ってものがあって、とんなもんかと生きているか死んでいるかわからないヤツに飲ませてみたのだ。
さすがに飲んだら即回復ってわけにはいかなかったが、七日で回復したのならイッツファンタジーってなもんだろうよ。
「サーグたちも飲んでおけ。異界人の力で創られたものなら効果はあるだろうからな」
「よろしいのですか? 残り十粒もありませんが」
「いいよ。そっちで好きにしてよ」
健康には注意しているが、死んだら死んだで本望だ。天寿をまっとう出来たってことなんだからな。
「せっかく生き残ったんだから健康でいるといいさ」
薬の使い方はサーグに任せ、オレはリヤカー作りを始めた。
荷物の選別も順調に進み、人数分のリヤカーが完成。たくさん積める荷車台も二台作れた。
荷物を積んだらリヤカーから補給基地を出発させ、最後にパイロで火をつけた。再利用されたら癪だからな。跡形もなく燃やしておくとしよう。
「サーグ。出発してくれ」
「わかりました!」
最後尾の馬車が出発。オレは馬車の屋根に上がってテレキで轍を消して行く。また来たヤツらに情報を渡さないようにな。
村まではやはり二日くらいで到着。まったく疲れないイーダたちは先を進むそうだ。
「荷物は倉庫に入れて」
がんばってくれたので、サーグたちにはワインと肉料理を出してやろう。たくさん食うといい。
「今年はここで過ごして体力を養うといい。食料はワタシが届けてあげるから。来年、サーグたちを帝国とは関係ない国に連れてってあげるよ」
少し遠くはなるようだが、帝国と対峙する国に行けば見つかることはないだろうってさ。
オレもこの世界のことを知っておきたいので、サーグたちを送るついでに見聞を広げさせてもらうとしよう。
「は、はい。ありがとうございます」
「ん? どこか他のほうがよかった?」
あまり乗り気じゃない感じだ。帝国に帰りたいとか?
「いえ、そうではありません。本当に生かして帰えそうとしているので……」
「ワタシは無闇やたらに殺したりはしないよ。素直に従うなら生かすし、解放もするさ」
別に人殺しを趣味にしているわけじゃない。敵対しないなら好きに生きろ、って考えでしかない。もちろん、仲間を殺した復讐だ! とかなら全然殺すけどね。でも、サーグたちに憎しみや不満はなかった。なら、殺す必要もない。それどころか働いてくれたのだから報酬を渡して解放するよ。
「すぐに逃げたいってんならそれでも構わないよ。追ったりしないから」
オレはどちらでも構わない。サーグたちを見張るつもりはない。来年まで死なないよう食料を送ってやるだけだ。
「いえ、帝国ではないところのほうがいいので来年を待ちます。マリーダ様がいないと途中で死んでしまいそうでもあるので」
「それならそれで構わないよ。やることがないなら畑を耕しててよ。芋なら今からでも植えられるしね。あと、馬の世話もお願い。死なせるとどこからか連れて来ないといけないからね」
増やすつもりはないが、馬も生き物。子孫を残したい行動にも出るだろう。産まれたら産まれたで構わない。育てて売るとしよう。
「ワタシは帰るからまた来るときまで生きててね」
「あ、ここには危険な生き物がいたりするんでしょうか?」
「んー。狼くらいかな? それ以外は見てないよ。ただ、森に入るときは気をつけなよ。バカデカい狼がいるから」
今では住み分けができているが、人間相手にはできていない。入らないことをお勧めするよ。
「まあ、定期的に来るから、なにかあればそのときに言ってよ」
「は、はい。可能な限り、来てもらえると助かります……」
「わかったよ。じゃあ、二日か三日後には来るよ」
空を飛べばそう時間もかからない。二、三日に一回なら苦ではないさ。
「じゃあ、またね~」
テレキボードをルームから出して湖の小屋に向かって飛び立った。




