第12話 長命種
三年目の春が来た。
「オレの成長はどうなってんだ? まったく成長しないぞ」
よく食べてよく眠っているから健康的な体にはなったが、あまり背は伸びてない。百四十五センチ。小学生低学年みたいだ。
「まさかエルフみたいな種族じゃないよな?」
耳が尖っているわけじゃないし、背中に羽が生えているわけでもない。どう見ても人間にしか見えない。それとも人間に似た別の種か?
「あんま長生きすると六億円じゃ足りないぞ」
百年ならまだしも二百年とかになったら困るぞ。ルームがあるからこうしておもしろおかしく生きてんだからよ。
「寿命がわからんってのも困るよな」
オレは苦労してまで長生きしたいとは思わない。快適に生きられるなら長生きはしたいがよ。
「人生設計を考えなおさないといかんかもな」
あと五年して姿が変わらなかったら考えよう。まだ成長が遅いだけかもしらんからな。
「節約もするか」
そう金遣いが荒いってわけじゃないが、ルームの維持にも金はかかる。地球で暮らしていたときのように毎月六万円はかかるのだ。
百年生きたとして……いくらだ? まあ、一億円にはならんだろうが、とんでもない金額になるのは間違いない。ましてや生活必需品やら食材、服なんかも買わなくちゃならないのだ。二百年とかなったら計算するのも怖いわ。
「現地調達出来るものは可能な限り、現地で揃えるとしよう」
そうなると外界の人間と接触しなくてはならない。コミュ症とか言ってらんないのかもしれんな……。
憂鬱ではあるが、こうしてイーダたちとコミュニケーションはとれてんだ、人間だって大丈夫に決まっているさ。たぶん……。
「そ、そのためにも周辺を探るか」
人間の村はまだあるはず。コミュニケーションがとれそうな村を探すところから始めるとしよう。
山小屋を起点として周辺を調べて行くとする。
前にイーダは村が少ないと言っていたが、確かに少ない。五十人もいない小規模の集落が点在するだけで、百人以上の村はなかった。
一年二年と調べるが、百キロ内にはなかった。そして、オレの背もそこまで変化はなかった。
「……こりゃ、長命種な説が現実を帯びてきたな……」
なんなんだ? 本当に長命種なのか? まだ耳は尖ってないぞ。あ、もしかしてハーフとかか? 体質だけエルフみたいな血を継いだとか?
「あの女、ほんとクソだよな」
この体を選んだのも適当だったしな。クソとしか言いようがないわ。
「マリーダ。狩りに行こう」
オレがここに来て最初に生まれたヤツらがやって来た。
イエティは成長が早いから五年も過ぎたら三メートルまで育ている。他の大人たちと区別がつかなくなっているほど。もう大人として扱っている。
「あいよ」
知育の成果か、他よりは知能が高くなっており、道具や武器の使い方も様になっている。
革のベストを羽織り、腰にはベルトを巻いている。石器時代は確実に抜けただろうよ。
体格と手が大きいので人間のように細かな動きは不得意だが、力は人間の五、六倍はあるので槍での狩りとなる。
その他にも投球を教えたので石を投げて狩ることもある。コントロールのいいヤツは鹿の頭を吹き飛ばすくらいの威力をもっているよ。
厳しい地ではあるが、なかなか生命に溢れた地でもあるので鹿や狼、ブーダ、熊と狼を足したようやロックと呼ばれる獣と、小動物や巨大虫なんかもいる。
まあ、狩る獲物は決まっているので、襲われない限り無視しているよ。襲って来たらトラウマになるくらいボコッてやって、誰が頂点かを教えてやっているよ。
弱肉強食な世界で生きている生き物は学びが早い。オレたちの姿を見ると逃げ出しているよ。
襲って来るのは生まれて一年くらいの若い個体だ。今も若いロックが現れたよ。
「モックス。お前が相手してやれ。殺してもいいぞ」
今年から狩りに参加したモックスは四年目の子にしては体格がよく、槍や剣を使えた。鍛えればいい狩人になると一年早めたのだ。
「わかった」
やる気満々のようで、槍を地面に刺して剣を抜いた。
残りの者たちはお手並み拝見とばかりに木にもたれかかったり、燻製肉を食ったりしていた。
ロックはまだ若いから体長二メートルってところだろうか? 体格差を見たら逃げる相手だと思うのに、無鉄砲な性格をしているようだ。そんなんじゃ厳しい自然界では生きて行けないぞ。
狩りの訓練として剣や槍の扱いも訓練している。本人も五年目のヤツらに相手してもらっているから難なく倒してしまった。
「皮を剥いで肉は狼にくれてやろうか」
ロックの肉は硬い。よく処理をしたら食えはするが、そこまでして食べる必要もない。狼に譲ってやるとしよう。
「よくやった」
戻って来たロックを褒めてやる。さすがに撫でてやることはできんがな。
「さあ、ロックを解体しようか」
二メートルほどなのですぐに終わり、剥いだ皮はオレのテレキボードに積んでおく。
「前方に鹿の群れを発見。数は三十以上」
索敵役のマーニの言葉に全員が物陰に隠れた。いい動きだ。
「狩るのは十頭。母体は狙うな。指揮はニッグがやれ」
誰でも指揮が出来るよう順番で指揮官をやらせているのだ。連携は大切だからだ。
「了解。やるぞ」
オレはフォローするためにテレキボードを上昇させた。




