不思議な女性 ハル
狼男が去った後、頭の痛みに耐えながら宿へと帰宅する。回避主体の戦いをしていたため傷跡は無いが、疲労に関しては結構ある。先程から体が怠く部屋にまで行くのも億劫に感じるため、食堂のカウンター席に腰を掛けた
「疲れた」
「兄ちゃん、席に座ったならせめて何か頼んでくれ」
「あーごめん、じゃあ体力回復に良さげな料理1つ」
「なんかやけに疲れてるみたいだな、見ない顔だから観光で疲れでもしたか?」
「そんな感じ」
料理人風な格好をしたおっさんと適当な会話をする。心配してくれてるように聞こえるが、今の俺は会話するのも少し面倒に思ってるためか対応が塩になっている。そんな俺の態度に別段気を立てるわけでもなくおっさんは料理を手際よく作り始めている
(八つ当たりも甚だしいな、この人に当たるのはお間違いだろう。何やってんだか俺・・・)
「すまん、あたるつもりは無かったんだ」
「冒険者の相手を何年してきたと思ってんだ、そんなもん慣れっこよ」
「そう言ってくれると助かるよ」
「ほれ、とりあえず疲れたならこれでも食っときな。他にも何か作っとくか?」
「いやいい、ありがとな」
手元に置かれたのは何かの肉料理。手早くリクエストの物を作ってくれたことに感謝し、早速美味しそうな匂いを放つ肉料理を口に運ぶ。
「美味いな、これ」
何度か咀嚼しての感想は、癖の少ない肉と甘辛いソースが絶妙にマッチして手が止まらないぐらい病みつきになる味。そんなところか
基本的にグルメ漫画のように食レポが付けれるような語彙力は持ち合わせていないので、ただただ美味いという感想しか出てこない。しかし、その言葉におっさんは満足したのか、ご機嫌な表情をしている
「しかし随分と疲れた顔してるな、何か大物でも狩ってきたのか?」
「厄介な狼とは戦ってきたよ、結果は散々だけどな」
「ハッハッハ!そりゃあ残念だったな!まぁ何事も必ずしも成功するとは限らんさ。こうして生きて帰って美味い飯食えれば、それだけで立派さ」
おっさんからの励ましも受けながら適当な話で数分潰した後、ある程度体力も回復し自室へと戻ろうと席を立とうとした瞬間、後ろから声わわ掛けられた
「隣、いいですか?」
声の主は女性だった。栗色の髪を肩で綺麗に切り揃えて、少し幼さの残る顔立ちはしているが、見た目とは裏腹に纏う雰囲気には大人びた何かがある。用件としては単純な事だが何故隣?と思って周りを見るがテーブル席は埋まっており、カウンター席しか空いていない。しかし、カウンターにも空きはあるはずだが・・・
「ごめんなさいね、せっかく人が居るならお話しながら食べたいなって思っただけなんです。時間があるなら付き合ってくれませんか?」
「はぁ、いいですけど・・・」
「ありがとうございます」
断る理由も無く了承はしたが、果たして俺はこの人と話せるのだろうか。そこまで会話のネタもない分会話を拡げられるかが心配だ。あ、胃が痛くなってきた・・・
「お名前伺ってもいいですか?私はハルと言います」
「ケータです。俺そんなに話が出来るほどネタを持ってませんが大丈夫ですかね」
「ふふっ、気にし過ぎですよ。ケータさんは最近この王都に来たんですか?」
「ええ、今日来たばっかですよ」
「あら、そうなんですか?ならこの王都について色々と教えてあげますよ」
ハルさんから王都について、ガイドブックを元に様々な事を教えてくれた。特産品や歴史、隠れた名店など、どれも聞いてて有益なものだった。後から観光する上では不自由しなさそうだ。
ッ・・・
ハルさんと話してる途中で人とは違う何かに気配察知が反応した。ハルさんとの会話は止めないようにしながら、チラリと、一瞬だけ視線をそちらへ向ける。
(小人がこちらを観察している。前に出会った精霊と似ているから精霊だろうが、また監視されてるのか)
すぐに害は無いと考え、ハルさんとの会話に集中することにした。監視されてるとはいえ、こちらに危害を加える様子が無いなら放置に限る。それに無闇に反応するのもダメかもしれない。あの精霊が俺以外に見えてる様子が無いのも問題なのだ
「・・・、どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないですよ」
今の視線の動きが見えたのか?この人ただのお喋り好きな人だと思っていたが、案外俺のことをよく見ているな。これ以上怪しまれるのも誤魔化すのが面倒だ。うん、精霊は無視しよう。
「さて、そろそろお暇しますね。付き合ってくれてありがとうね」
「あ、はい。ご達者で?」
「あはは、何それ。また会おうねケータ君」
手を振りながらハルさんはこの場を去っていった。不思議な人だったな・・・、しかしなぜだろう。あの人は俺の事を知っているような気がする。いや、気のせいか。おっさんに礼を言い、俺は自室へと戻ることにした。




