0話 始まり
本作はカクヨムでも投稿しております。そちらで掲載しているものを随時投稿していく予定です。
どうしても続きが気になる方はカクヨムまで!
https://kakuyomu.jp/works/2912051595705588422
Q、あなたがやり直してみたいと思うことはありますか?
もし、こんな質問をされたら君はどう返すだろうか。
ずっと後悔していることがある。
あの頃に戻りたい。
人は後悔する生き物だ。
生きている以上、やり直してみたいことの一つや二つくらい、誰しも経験したことがあるだろう。
だが、もし俺がその質問に答えるのであれば――
A、間違えたことがないので分からない、だ。
自慢ではない。
俺はただ、あらかじめ「正解」が書かれたカンニングペーパーを見ながら、人生という名のテストを解き続けているだけなのだから。
――――――――――――――――――――――――
──人は、選択を間違える。
正しいと思った道が、最悪の結末に繋がることもある。だから俺は、選ばない。
“見てから決める”。
「今日、暇?」
唐突にかけられた声に、顔を上げる。
コンビニのレジ越し、同じバイトの友達がスマホをいじりながらこちらを見ていた。特に意味のない雑談だろう。断っても、別に困ることはない。
――いや、どうだ?
断った場合、この後の流れはこうだ。
気まずい沈黙が数秒続いて、男は「あー、そっか」とだけ言って話を切る。その後、特に会話は続かない。
受けた場合は違う。
バイト後、適当にファミレスに入って、他愛もない話をして、時間を潰す。時折、少々腹の割った話をして、この友達とはより親しくなるだろう。
どちらでもいい。本当に、どちらでも。
「ごめん、今日は予定あるんだ」
結局、俺はそう答えた。
男は「あー、そっか」と短く返し、すぐに視線をスマホへ戻す。その反応も、予測通りだ。
俺――榊レイジには、未来が見える。正確に言えば、“分岐した二つの未来”が。
どちらを選ぶかで、その先は変わる。ただそれだけの、単純な能力だ。
──これが、俺の"オリジン"。
今じゃ珍しくもない、異能力の一つ。
オリジンを所持する者達は"オリジナー"と呼ばれ、文明の発展に大きく関わってきた。
英雄として讃えられる者もいれば、歴史に刻まれる大罪を犯した者もいる。
――で、そんな中俺はというと。
コンビニで呑気にレジ打ちをしている。
理由は単純だ。
二択の未来が見えたところで、人生は大して変わらない。
見えるのは、せいぜい数十秒先の二択となった未来だけ。日を跨ぐような長い未来は読めない。状況が複雑になれば、結果はすぐに曖昧になる。
おまけに、連続で使えばクールタイムが発生する。株やギャンブルで一攫千金、なんて都合のいい話もない。
要するに、便利ではあるが、人生を変えるほどの力じゃないということだ。
それでも、選択を間違えないという一点において、これほど都合のいい力はなかった。
――その時。
「これ、よろしくー」
声と共にこちらへ投げつけられた数個の飲食物。もちろん、この店の商品だ。
だが、それらは俺の目の前で急激に速度を落とすと、音も立てずに机の上に着地した。
「……便利なオリジンですこと」
横で友人が小さく呟く。確かに、こんな有用な能力なら人生はさぞ楽しいことだろう。
俺のオリジンなんて霞んで見えるくらいに。
――これが、この世界の当たり前。
その客はお礼も言わずに店を出て行った。
店内の空気はこの上ないほどに静かだ。客はまばらで、やることも少ない。レジの奥で立ち尽くしながら、ただ時計の針が動くのを待つ。
その時だ。ふと、ポケットの中にあるスマホが揺れた。特に考えることもなく、慣れた手つきで画面を開く。
そこには、見慣れないリンクが一つ。
差出人は不明。本文もない。貼りつけられたURLだけが、画面の中で静かに鎮座していた。
スパムか何かだろう。普通なら無視をする。
――だが。
脳内にうっすらと浮かんだのは、そのリンクを開いた未来と、開かなかった未来。
開かない場合。
このままバイトを終え、家に帰り、何も変わらない明日を迎える。
開いた場合。
そこから先が、妙に霞んでいる。まるで霧がかかったように、未来が上手く見えない。見ようとすればするほど、像がぼやけていくようなそんな感覚。
――初めてのことだった。
未来視という能力を自覚してから十数年。今まで、こんな風に未来がぼやけたことなんて一度もない。
それならば、答えは一つしかない。
逃げる。その一択だ。
そのはずなのに――
脳が鳴らす警告灯を無視して、指先が勝手に動く。
まるで、意思を持った別の生き物であるかのように。抵抗の余地なく、指がリンクへと吸い寄せられていく。
画面が一瞬、深く暗転した。
――その時。
暗い液晶に映り込んだ自分の顔が、ひどく冷めた目で笑っていた気がした。
『オリジナー限定募集』
『警察直属、特殊部隊候補』
『選抜試験参加者募集』
『生存者には、相応の報酬を保証する』
どの文面も、警告じみた赤文字で表示され、画面いっぱいにこれでもかと主張している。
「なんだ……これ」
怪しいにも程がある。自分から応募した覚えなど微塵もない。ただ、送られてきたリンクを指がなぞっただけだ。
提示されている報酬金も馬鹿げている。
七桁じゃない。八桁でもない。自分の目を疑い、もう一度ゆっくり確認するも、その数は変わらない。
「……金か」
俺は思わず、口にしてしまった。
その額があれば、圧倒的にできることが増える。それどころか、一生働かなくて済むレベルだ。
ただ、その額の大きさが故に、胡散臭さが増しているのもまた事実。
でも、それ以上に――。
心の内では、抑えきれない衝動に駆られていた。
初めて見えなかった未来。
想像もできない大金。
今の人生を変えられるかもしれない、千載一遇のチャンス。
別に、俺の今までの人生に失敗はなかった。
後悔も、不満も、特に感じたことはない。そして、それはこの先もずっと変わらない。
――だが、その未来には"成功"もない。
そんな俺の前に舞い込んできた、一つの招待状。
きっと、俺は心のどこかで――この間違えることのない未来を、派手に壊してくれる"何か"を求めていたのだと思う。
――ここで、再び未来を覗く。
相変わらず視界には薄い霧がかかり、細部までは掴めない。それでも、先刻よりはほんのわずかに、輪郭が鮮明になっていた。
まずは、参加した場合。
血の匂いがした。
誰かの叫び声が聞こえた。焼けつくような熱と、骨まで届く冷気。眩しいほどの炎と、凍てついた闇。
幾つもの影が交差して、重なって、その一つひとつが消えていく。
もう一つの未来なんて、見るまでもなかった。
――この選択が何人の未来を終わらせることになるのか。その時の俺は、まだ知らない。
──いや。
知っていたとしても、きっと同じ答えを選んでいた。
【設定資料】
⚪︎榊レイジ――未来視のオリジンを持つ、どこにでもいるような高校二年生。
だが、幼少期は特殊な過去があり......?
バイトの先の友人とは仲が良いというわけではない。ご飯のお誘いも社交辞令的なもの。
《能力評価》(A〜E)
身体能力 C 判断力 A
知略 A 実践経験 C
オリジン B
この度は、星の数ほどある作品の中から、私の作品に目を通して頂きありがとうございます。
この作品は、6話で物語が大きく動きます。ですので、もしお時間を頂けるのであれば、そこまでお付き合いして下さればと思います。
それでは、よきデスゲームライフを!




