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第7話:経済を壊す男

「……金、必要だな」


森の中で、俺はしみじみと呟いた。


腹は満たせる。


安全もある。


でも――現金がない。


「突然どうしたんですか?」


リナリアが首をかしげる。


「いや、やっぱさ」


腕を組む。


「服とか、道具とか、色々いるじゃん」


ずっと同じ格好だし。


ちょっとくらい買い物したい。


「確かに……」


リナリアもうなずく。


「では、街へ向かいましょうか」


「お、いいな」


ちょうどいい。


「なんか売れるものも探すか」


そう言いながら、森の中を歩く。


すると――


「ん?」


足元に、キラッと光るものが見えた。


「なんだこれ」


拾い上げる。


拳くらいの大きさの石。


中で光が揺れている。


「綺麗だな」


「……それ」


リナリアの声が一瞬止まる。


「どうした?」


「い、いえ……」


リナリアが視線を逸らす。


「(見間違い……? いえ、でもあれは……)」


「?」


よく分からんけど、まあいいか。


「売れそうだな」


ポケットに入れる。


「他にもないかな」


周囲を見渡すと、同じような石がちらほら落ちていた。


「お、いっぱいあるじゃん」


次々拾う。


袋に詰める。


「これでしばらく食っていけるだろ」


「……それを売るんですか?」


リナリアの声が微妙に震えている。


「うん」


「……」


何か言いたそうだが、結局黙った。



街に到着。


「よし、売るぞー」


適当に商店を探す。


すると、それっぽい店があった。


「魔石専門店」


「お、ちょうどいいじゃん」


看板を見てうなずく。


「いらっしゃいませ」


店の奥から、商人風の男が出てくる。


「何かお売りですか?」


「うん」


俺は袋をドンと置く。


「これ」


ガサッ。


中身を広げると、光る石がゴロゴロ転がった。


「……は?」


商人が固まる。


「え、何?」


「こ、これは……」


商人の手が震えている。


「どうした?」


「どこでこれを……!?」


「そこらへんで拾った」


「拾った!?」


声が裏返る。


「うん、森にいっぱいあった」


「……」


商人が頭を抱える。


「(ありえない……こんな高純度の魔石が、自然に……?)」


「で、いくら?」


俺は単刀直入に聞く。


「え」


「売りたいんだけど」


「……し、少々お待ちください」


商人が奥に引っ込む。


「なんか大げさだな」


「……」


リナリアが無言で額を押さえている。


「どうした?」


「……いえ」


「顔色悪いぞ?」


「気のせいです……」


そうか?


しばらくして、商人が戻ってきた。


顔色がさっきより悪い。


「……あの」


「ん?」


「こちらの魔石、一つで……」


ごくり、と唾を飲み込む。


「金貨百枚の価値があります」


「へー」


結構するな。


「で、全部でいくら?」


「……」


商人が言葉を失う。


「……金貨、一万枚以上になります」


「おお!」


思わず声が出る。


「大金じゃん!」


「だ、大金どころではありません!!」


商人が叫ぶ。


「これだけの量が市場に出回れば……!」


「出回れば?」


「価格が崩壊します!!」


「え?」


よく分からん。


「そんなに珍しいのか?」


「超希少です!!」


「へー」


でもいっぱい落ちてたしな。


「じゃあさ」


俺は軽く考える。


「ちょっとだけ売るか」


「ちょっとだけ……」


商人が震える。


「じゃあこれ、十個でいいや」


袋から適当に取り出す。


「え」


「これでお小遣いになるかな?」


「……」


商人の顔が引きつる。


「……十個で、金貨千枚です」


「マジで?」


十分すぎる。


「じゃあそれで」


「か、かしこまりました……」


商人がふらふらしながら金貨を用意する。



その日の夕方。


市場は、大混乱に陥っていた。


「なんだこの量は!?」


「高純度魔石が急に流れてきたぞ!」


「価格が下がってる!?」


「いや、暴落してる!!」


商人たちが叫ぶ。


「これでは在庫が紙切れ同然だ!」


「魔導具の価格も見直しだ!」


「革命だ……!」


街全体がざわつく。



「おおー」


俺は金貨を眺めながら、にやける。


「めっちゃ増えたな」


「……」


隣でリナリアが無言で立っている。


「どうした?」


「……いえ」


「元気ないぞ?」


「世界が変わりました」


「大げさだなあ」


俺は笑う。


「石売っただけだぞ?」


「その“石”が問題なんです!!」


やっぱりツッコまれた。


「……まあ、いっか!」


とりあえず金は手に入った。


「これで色々買えるな!」


「はあ……」


リナリアが深いため息をつく。


「次は何をするつもりですか……」


「んー」


少し考える。


「とりあえず服買う!」


「……そうですね」


それが一番平和かもしれない。


――このとき俺は、まだ気づいていなかった。


自分の何気ない売却が、世界の経済構造を根本から揺るがしていることに。

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