表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/15

第6話:世界最強の「筋トレ」

「……なんかさ」


森の中で寝転びながら、空を見上げる。


葉の隙間から差し込む光が、やけにまぶしい。


「俺、やっぱ弱いよな」


ぽつりと呟く。


「急にどうしたんですか……」


隣でリナリアが呆れた声を出す。


「だってさ」


起き上がる。


拳を握ってみる。


「戦うたびに思うんだけど、全然コントロールできてないんだよな」


この前の幹部もそうだ。


軽くやるつもりだったのに、あの吹っ飛び方。


「強いっていうより……雑なんだよ」


「……」


リナリアが何か言いかけて、やめる。


「もっとこう……ちゃんと強くなりたいっていうか」


俺は立ち上がる。


「筋トレするわ」


「筋トレ」


「うん」


シンプルでいいだろ。


強くなるにはまず体だ。


「では、訓練場を――」


「いや、外でいい」


森の奥を指さす。


「広いし」


「……嫌な予感しかしません」


リナリアが遠い目をする。



しばらく歩いて、開けた場所に出た。


その先には――大きな山があった。


「おお」


思わず声が出る。


「いいじゃん」


ちょうどいいサイズ。


まあまあ高いし、負荷もかかりそうだ。


「……まさか」


リナリアが青ざめる。


「え、あの山で筋トレする気ですか?」


「うん」


何を今さら。


「だって重そうじゃん」


「重そう、で済ませていい対象ではありません!!」


全力で止められる。


「いやでも、ほら」


山を見上げる。


「持ち上げたり、押したりすれば鍛えられそうじゃん?」


「山は持ち上げるものではありません!」


「え、そうなの?」


初耳だ。


「常識です!!」


怒られた。


「……まあいいや」


とりあえずやってみるか。


「無理なら無理で諦めるし」


俺は山に近づく。


「よっと」


軽く地面に手を当てる。


「んー……」


力を込める。


「おりゃ!」


――ゴゴゴゴゴゴ……。


「……ん?」


地面が揺れる。


山が、わずかに浮いた。


「お」


ちょっと手応えある。


「いけるいける」


さらに力を入れる。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


山が、持ち上がった。


「……は?」


後ろでリナリアが崩れ落ちる音がした。


「おお!」


俺はちょっとテンションが上がる。


「結構軽いじゃん!」


「軽いわけがありません!!」


かすれた声が聞こえる。


「よし」


そのまま山を持ったまま、軽くスクワットしてみる。


「いーち」


「やめてください!!」


「にー」


「地形が変わります!!」


「さーん」


悪くない。


ちょうどいい負荷だ。


「……ちょっと物足りないかも」


「物足りないの基準がおかしいです!!」


リナリアのツッコミが追いつかない。


「じゃあ次」


俺は山を持ったまま、少し移動する。


「え、ちょっとどこに――」


「ここでいいか」


適当な場所で、山を置く。


――ズドォォォン!!!


地面が揺れる。


衝撃が広がる。


「……よし」


汗をぬぐう。


「次は押すか」


「まだやるんですか!?」


「せっかくだし」


俺は山の側面に手を当てる。


「ふんっ」


押す。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


山が、横にずれた。


「おお」


面白いように動く。


「これ、結構いい運動だな」


「国が滅びます!!」


リナリアが叫ぶ。


「え、なんで?」


「山を動かす行為自体が災害なんです!!」


そうなのか。


でもまあ、ここ人いないし大丈夫だろ。


「よし」


最後に一発。


「仕上げな」


俺は拳を握る。


「軽く叩いてみるか」


「やめてくださいってば!!」


リナリアの制止を背に――


俺は山に向かって拳を振るった。


――ドゴォォォォォォォン!!!


「……」


静寂。


さっきまでそこにあった山は――消えていた。


いや、正確には。


粉々になって、地面に広がっていた。


「……え?」


俺は瞬きをする。


「……なくなった?」


さすがに予想外だ。


「……あの」


後ろから、震える声。


「はい」


「山が……」


「うん」


「消滅しました……」


「だな」


認めるしかない。


「……」


しばらく沈黙。


「……やりすぎた?」


一応聞いてみる。


「やりすぎという概念を超えています!!」


やっぱり怒られた。


「でもいい運動になったぞ?」


体を伸ばす。


確かに、ちょっと疲れた気がする。


「今日は良い汗かいたわー」


満足感がある。


「良い汗では済みません!!」


リナリアの声が裏返る。



――その頃。


近隣諸国の王城では、緊急会議が開かれていた。


「報告します!」


兵士が叫ぶ。


「リナリア領付近にて、大規模な地形変動を確認!」


「規模は!?」


「山が一つ、消滅しました!」


「なに!?」


場がざわつく。


「原因は不明ですが、中心には謎の人物が……」


「……まさか」


王の顔が青ざめる。


「新たな兵器か……?」


「いえ、それが……」


兵士が言葉を詰まらせる。


「目撃証言によると……」


「ただの“筋トレ”だったと……」


「……は?」


空気が凍る。


「……ありえん」


誰かがつぶやく。


「山を消し飛ばす筋トレなど……」


「しかし事実です!」


再びざわめきが広がる。


「……核兵器並みの脅威だ」


重い声が響く。


「直ちに警戒態勢を強化せよ!」


「はっ!」


――世界は、確実にざわつき始めていた。



「次は何しようかな」


俺は軽く伸びをする。


「腕立てとかもやるか?」


「これ以上何を壊す気ですか……」


リナリアが頭を抱える。


「壊さないって」


たぶん。


「……ほんと、この世界って脆いよな」


「違います!!」


今日も、ツッコミは絶好調だった。


――このとき俺は、まだ気づいていなかった。


自分の「筋トレ」が、国家レベルの脅威として認識され始めていることに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ