第6話:世界最強の「筋トレ」
「……なんかさ」
森の中で寝転びながら、空を見上げる。
葉の隙間から差し込む光が、やけにまぶしい。
「俺、やっぱ弱いよな」
ぽつりと呟く。
「急にどうしたんですか……」
隣でリナリアが呆れた声を出す。
「だってさ」
起き上がる。
拳を握ってみる。
「戦うたびに思うんだけど、全然コントロールできてないんだよな」
この前の幹部もそうだ。
軽くやるつもりだったのに、あの吹っ飛び方。
「強いっていうより……雑なんだよ」
「……」
リナリアが何か言いかけて、やめる。
「もっとこう……ちゃんと強くなりたいっていうか」
俺は立ち上がる。
「筋トレするわ」
「筋トレ」
「うん」
シンプルでいいだろ。
強くなるにはまず体だ。
「では、訓練場を――」
「いや、外でいい」
森の奥を指さす。
「広いし」
「……嫌な予感しかしません」
リナリアが遠い目をする。
◇
しばらく歩いて、開けた場所に出た。
その先には――大きな山があった。
「おお」
思わず声が出る。
「いいじゃん」
ちょうどいいサイズ。
まあまあ高いし、負荷もかかりそうだ。
「……まさか」
リナリアが青ざめる。
「え、あの山で筋トレする気ですか?」
「うん」
何を今さら。
「だって重そうじゃん」
「重そう、で済ませていい対象ではありません!!」
全力で止められる。
「いやでも、ほら」
山を見上げる。
「持ち上げたり、押したりすれば鍛えられそうじゃん?」
「山は持ち上げるものではありません!」
「え、そうなの?」
初耳だ。
「常識です!!」
怒られた。
「……まあいいや」
とりあえずやってみるか。
「無理なら無理で諦めるし」
俺は山に近づく。
「よっと」
軽く地面に手を当てる。
「んー……」
力を込める。
「おりゃ!」
――ゴゴゴゴゴゴ……。
「……ん?」
地面が揺れる。
山が、わずかに浮いた。
「お」
ちょっと手応えある。
「いけるいける」
さらに力を入れる。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
山が、持ち上がった。
「……は?」
後ろでリナリアが崩れ落ちる音がした。
「おお!」
俺はちょっとテンションが上がる。
「結構軽いじゃん!」
「軽いわけがありません!!」
かすれた声が聞こえる。
「よし」
そのまま山を持ったまま、軽くスクワットしてみる。
「いーち」
「やめてください!!」
「にー」
「地形が変わります!!」
「さーん」
悪くない。
ちょうどいい負荷だ。
「……ちょっと物足りないかも」
「物足りないの基準がおかしいです!!」
リナリアのツッコミが追いつかない。
「じゃあ次」
俺は山を持ったまま、少し移動する。
「え、ちょっとどこに――」
「ここでいいか」
適当な場所で、山を置く。
――ズドォォォン!!!
地面が揺れる。
衝撃が広がる。
「……よし」
汗をぬぐう。
「次は押すか」
「まだやるんですか!?」
「せっかくだし」
俺は山の側面に手を当てる。
「ふんっ」
押す。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
山が、横にずれた。
「おお」
面白いように動く。
「これ、結構いい運動だな」
「国が滅びます!!」
リナリアが叫ぶ。
「え、なんで?」
「山を動かす行為自体が災害なんです!!」
そうなのか。
でもまあ、ここ人いないし大丈夫だろ。
「よし」
最後に一発。
「仕上げな」
俺は拳を握る。
「軽く叩いてみるか」
「やめてくださいってば!!」
リナリアの制止を背に――
俺は山に向かって拳を振るった。
――ドゴォォォォォォォン!!!
「……」
静寂。
さっきまでそこにあった山は――消えていた。
いや、正確には。
粉々になって、地面に広がっていた。
「……え?」
俺は瞬きをする。
「……なくなった?」
さすがに予想外だ。
「……あの」
後ろから、震える声。
「はい」
「山が……」
「うん」
「消滅しました……」
「だな」
認めるしかない。
「……」
しばらく沈黙。
「……やりすぎた?」
一応聞いてみる。
「やりすぎという概念を超えています!!」
やっぱり怒られた。
「でもいい運動になったぞ?」
体を伸ばす。
確かに、ちょっと疲れた気がする。
「今日は良い汗かいたわー」
満足感がある。
「良い汗では済みません!!」
リナリアの声が裏返る。
◇
――その頃。
近隣諸国の王城では、緊急会議が開かれていた。
「報告します!」
兵士が叫ぶ。
「リナリア領付近にて、大規模な地形変動を確認!」
「規模は!?」
「山が一つ、消滅しました!」
「なに!?」
場がざわつく。
「原因は不明ですが、中心には謎の人物が……」
「……まさか」
王の顔が青ざめる。
「新たな兵器か……?」
「いえ、それが……」
兵士が言葉を詰まらせる。
「目撃証言によると……」
「ただの“筋トレ”だったと……」
「……は?」
空気が凍る。
「……ありえん」
誰かがつぶやく。
「山を消し飛ばす筋トレなど……」
「しかし事実です!」
再びざわめきが広がる。
「……核兵器並みの脅威だ」
重い声が響く。
「直ちに警戒態勢を強化せよ!」
「はっ!」
――世界は、確実にざわつき始めていた。
◇
「次は何しようかな」
俺は軽く伸びをする。
「腕立てとかもやるか?」
「これ以上何を壊す気ですか……」
リナリアが頭を抱える。
「壊さないって」
たぶん。
「……ほんと、この世界って脆いよな」
「違います!!」
今日も、ツッコミは絶好調だった。
――このとき俺は、まだ気づいていなかった。
自分の「筋トレ」が、国家レベルの脅威として認識され始めていることに。




