第15話:海を割る男
「……海、見たくね?」
俺はソファで寝転がりながら、ふと思いついた。
「また唐突ですね……」
リナリアが呆れた声を出す。
「だってさ」
体を起こす。
「この世界来てから、森とか城とかばっかじゃん?」
「まあ、そうですね」
「たまには自然っぽいとこ行きたい」
「十分自然に囲まれていますが……」
細かいことはいい。
「よし、行こう」
俺は立ち上がる。
「今から?」
「今から」
ノリが大事だ。
◇
数時間後。
「おお……」
目の前に広がるのは、青い海。
水平線まで続く水の世界。
「これこれ」
俺は満足げにうなずく。
「いいな、これ」
「気に入っていただけて何よりです……」
リナリアが小さく息を吐く。
「わざわざ隣国まで来た甲斐がありましたね」
「だな」
波の音が心地いい。
風もいい感じだ。
「……で」
しばらく眺めたあと。
「どうします?」
リナリアが聞いてくる。
「泳ぐ?」
「いや」
即答する。
「俺、泳げない」
「え?」
リナリアが固まる。
「マジで?」
「マジで」
昔から苦手なんだよな。
「じゃあなんで海に……」
「見るだけでもいいじゃん」
それはそれで楽しいし。
「……」
リナリアが何か言いたげだが、飲み込む。
「でもさ」
俺は海に近づく。
「ちょっとくらい入りたい気もするんだよな」
「泳げないのでは?」
「だから困ってる」
うーん。
「……どうしたものか」
波打ち際でしゃがむ。
水に手を伸ばす。
「冷たっ」
「当たり前です」
「だよな」
しばらく考える。
「……あ」
いいこと思いついた。
「どうしました?」
「道作ればよくね?」
「道?」
「うん」
俺は海を見つめる。
「ちょっとだけでいいから、空いてくれれば歩けるし」
「……は?」
リナリアが固まる。
「まあ、やってみるか」
俺は軽く手を海面に触れる。
「頼むわ」
その瞬間――
――ゴォォォォォォォ……。
「……え?」
海が、震えた。
水面が揺れ、うねり、そして――
左右に、割れた。
「……は?」
リナリアの声が震える。
目の前で、海が二つに分かれていく。
まるで、見えない壁ができたみたいに。
「おお」
俺は素直に感心する。
「できた」
「できた、ではありません!!」
リナリアが叫ぶ。
「海が割れています!!」
「いや見れば分かる」
問題はそこじゃない。
「これで歩けるな」
俺は割れた海の間に足を踏み入れる。
地面が見える。
砂と岩の道。
「すげえ」
普通に歩ける。
「ちょっとした裏技だな」
「裏技ではありません!!」
リナリアのツッコミが遠くで聞こえる。
◇
海の中を進む。
左右には、水の壁。
魚が泳いでるのが見える。
「なんか不思議な感じだな」
手を伸ばすと、水の壁に触れる。
ぷにっとしてる。
「……夢みたいです」
後ろからリナリアがついてくる。
「夢じゃないけどな」
現実だ。
「……これ、どこまで続くんですか」
「さあ?」
適当にやったしな。
「まあ飽きるまで」
「適当すぎます!!」
また怒られた。
しばらく歩くと――
「ん?」
前方に、何かが見えた。
「なんだあれ」
近づく。
巨大な石の建造物。
崩れた塔。
広場のような空間。
「……遺跡?」
リナリアが呟く。
「海の中に?」
「みたいだな」
完全に埋もれてたっぽい。
「おお」
俺はちょっとテンション上がる。
「隠れスポット発見じゃん」
「隠れスポットの規模ではありません!!」
リナリアが叫ぶ。
「これは……」
周囲を見渡す。
「古代文明の遺跡です……!」
「そうなの?」
すごそうだな。
「……まさか」
リナリアが息を呑む。
「アトランティス……」
「なんそれ」
「伝説の海底都市です!」
「へー」
聞いたことあるようなないような。
「完全に失われたはずの文明が……」
リナリアが震える。
「露出しています……!」
「ラッキーじゃん」
見つけられて。
「ラッキーで済ませないでください!!」
今日も元気だな。
◇
その頃――海岸。
「な、なんだあれ!?」
漁師たちが騒いでいた。
「海が割れてるぞ!?」
「ありえねえ!」
「しかも中に……街が見える!?」
「伝説だ……!」
「神の奇跡だ……!」
◇
「……なんか騒がしくなりそうだな」
俺は遺跡の中を歩きながら呟く。
「確実に大騒ぎです!!」
リナリアが断言する。
「歴史がひっくり返ります!!」
「大げさだなあ」
ただの遺跡だろ?
「ただではありません!!」
まただよ。
「……まあ、いっか!」
俺は肩をすくめる。
「面白いもん見れたし」
「面白いで済ませる規模ではありません……」
リナリアが頭を抱える。
「……ほんと、この世界って騒ぎすぎだよな」
「原因はあなたです!!」
いつもの流れだ。
「さて」
俺は振り返る。
「戻るか」
「どうやってですか?」
「そのまま歩けばいいだろ」
「……海、戻りますよ?」
「マジで?」
それは困る。
「じゃあ急ぐか」
「そういう問題ではありません!!」
リナリアの叫びが響く中。
俺は軽い足取りで、海底の道を戻り始めた。
――このとき俺は、まだ気づいていなかった。
自分が「海を割り、失われた超古代文明を発見した存在」として、歴史に刻まれることになるということに。




