第14話:異世界に「SNS」誕生
「……暇だな」
魔王城の大広間で、俺はソファに寝転がっていた。
「またですか……」
リナリアが呆れた声を出す。
「いやさ」
天井を見上げる。
「通信はできるようになったじゃん?」
「はい」
「でも使い道なくね?」
「なくはないと思いますが……」
魔界のやつらは、あの高速通信を情報伝達に使ってるらしい。
でも、なんか固いんだよな。
「もっとこう……軽く使えないのか?」
「軽く、ですか」
「うん」
俺は体を起こす。
「誰でも気軽に発信できる感じ」
「発信……」
リナリアが考え込む。
「例えば?」
「今何してるか、とか」
「……?」
「ほら」
俺は手をひらひらさせる。
「“飯なう”みたいな」
「なう?」
「今、って意味」
「なるほど……?」
伝わってるのか怪しいな。
「よし」
俺は立ち上がる。
「作るか」
「またですか!?」
リナリアが慌てる。
「何をですか!?」
「つぶやき魔法」
「つぶやき……?」
「魔法版の掲示板みたいなやつ」
これならみんな使いやすいだろ。
◇
「イメージは……」
俺は手をかざす。
「簡単に送れて」
魔力を流す。
「みんなに見えて」
空間がわずかに揺らぐ。
「リアルタイムで更新される」
ビリッ、と空気が震える。
「こんな感じか」
軽く指を弾く。
――ピンッ。
その瞬間。
空中に、小さな光の文字が浮かんだ。
『トオワ:暇だなう』
「おお」
俺はちょっと感動する。
「出た」
「な、なんですかそれ……」
リナリアが目を丸くする。
「俺のつぶやき」
「つぶやき……」
「で、これが」
俺はもう一度指を動かす。
「こうなる」
――ポン、ポン、ポン。
次々と文字が増える。
『リナリア:困惑しています』
『魔王:主の発言を記録中』
「おお、勝手に増えた」
「え!?」
リナリアが驚く。
「私、何もしていませんよ!?」
「たぶん頭の中のやつ拾ってる」
「やめてください!!」
慌てて頭を押さえる。
「まあいいや」
俺は満足げにうなずく。
「これで完成だな」
「完成なんですか!?」
「うん」
シンプルでいい。
「名前は……」
少し考える。
「つぶやき魔法でいいか」
「そのままですね……」
◇
数分後。
異変は、すぐに広がった。
――世界各地。
「なんだこれ!?」
冒険者が空中の文字を見る。
『ドラゴンなう』
「え?」
別の場所。
『ゴブリン倒したなう』
「なうって何だ!?」
さらに別の場所。
『依頼サボりなう』
「おいそれまずいだろ!?」
◇
ギルド本部。
「報告します!」
職員が叫ぶ。
「謎の通信により、冒険者たちが自由に情報を発信しています!」
「何だと!?」
ギルド長が立ち上がる。
「制御は!?」
「不可能です!」
「なぜだ!?」
「発信元が特定できません!」
「……!」
場がざわつく。
「さらに問題が!」
「何だ!」
「リアルタイムで情報が共有されるため、依頼の独占が不可能になっています!」
「は!?」
「ドラゴンの出現情報が流れた瞬間、複数の冒険者が同時に向かっています!」
「なんだそれは!!」
「さらに……」
職員が顔を青くする。
「ギルドを通さずに、直接依頼を募集する動きも……」
「……終わりだ」
誰かが呟いた。
「ギルドの権威が……崩壊する……」
◇
「おお」
俺はつぶやき魔法を眺める。
『魔王:城の掃除なう』
「ちゃんと使ってるな」
「当然だ……!」
魔王がうなずく。
「主の作られたものだからな!」
「いや、そんな大したもんじゃないって」
ただの暇つぶしだし。
「……」
リナリアが頭を抱えている。
「どうした?」
「世界がまた変わりました……」
「いいことじゃん」
便利になったし。
「情報伝達が速すぎるんです!!」
また怒られた。
「だってその方が楽だろ?」
「楽すぎるんです!!」
難しいなあ。
「……まあ、いっか!」
俺はソファに戻る。
「これで暇つぶしできるし」
『トオワ:昼寝するなう』
「……それ、世界中に見えてますよ」
「マジで?」
まあいいか。
「別に困らんし」
◇
その日――
世界は、また一つ変わった。
誰もが情報を発信し、共有する時代。
だが、その中心にいる男は。
「……平和だなー」
ただ、のんびりしているだけだった。
――このとき俺は、まだ気づいていなかった。
自分が“情報革命”を引き起こし、世界の構造そのものを塗り替えてしまったことに。




