プロローグ:パンデミック、再び
西暦二〇三二年。世界はrotten-32と名付けられた新種のウィルスに席巻されていた。
rotten-32とは、人をゾンビへと変えてしまうウィルスである。ゾンビに噛まれた人間は、傷口からrotten-32に感染し、自身もゾンビへと変貌して他の人間を襲うようになる。まるで、一昔前に流行ったゾンビパニック映画の内容が現実になってしまったかのようだった。
最初にrotten-32が発見されたアメリカでは、瞬く間に感染が広がった。ゾンビ化した人間が他の人間を襲うことで、ゾンビたちは加速度的に数を増やしていったからだ。
気がつけばアメリカ中をゾンビが跋扈するようになっていた。ゾンビたちは北アメリカ大陸を縦断し、南アメリカ大陸へまで勢力圏を広げていった。
一方、この未曾有の状況に、十数年ほど前のパンデミックから学びを得ていた日本国政府はすべての国との国交を早々に遮断した。人間の入出国の一切を禁じることで、他国からのゾンビの流入を防ぐことが狙いだった。
早々に鎖国を選んだこともあり、島国である日本にrotten-32が入ってくることはなかった。人々はこれまでと何ら変わりのない生活を謳歌し、日々を送っていた。
世界中の製薬会社や研究機関は日夜問わず、rotten-32に対抗するためのワクチンや治療薬の開発に勤しんでいた。日本では香椎製薬のワクチンや治療薬が政府による薬事承認間近だと囁かれていた。
しかし、rotten-32の脅威から切り離されたこの国で暮らす俺たちにとっては、そんなことはネットニュースの中の出来事でしかなく、さしたる関心はなかった。大学の講義や課題、今日の昼飯、音楽やゲームのイベント、友達のSNS、好きな女の子――俺たちの日常はそういったものたちだけで回っていた。
世界中と繋がるための手段はいくらだってあるにもかかわらず、世界に対する俺たちの関心はひどく希薄だった。世の中にはゲームや映画のようなこともあるものなのだと、他人事のようにしか捉えていなかった。
しかし、ある日、俺たちはそのことをひどく後悔することになる。その日まで、俺たちは世界の脅威を目の当たりにするなど、夢にも思っていなかったのだから――




