11話
ぽつりぽつりと雨が降り始め、庭の雑草抜きをしていた私は慌てて屋敷の中へと入った。
窓の外を見れば、先ほどまでは小ぶりだった雨が、次第に強くなり、大地を濡らしていく。
「はぁ……今日は、もう、作業は無理ね」
やっと庭の手入れが後少しというところだったので少し残念だ。
手入れが終わったら野菜を植えよう。
保存庫に入っている野菜は確かに美味しいのだけれど、やはり自分で育てて摘んだ野菜は格別なのだ。
タオルで少し濡れた体を拭いていた時、ふと、窓の外に何かが見えて、私は視線をそちらへと向ける。
「?」
なんだろうか。
今、何かがこちらを見ていたような気がする。
窓から雨の中を、目を細めてじっと見つめていくと黒い影が目に留まる。
「え?」
その陰は、ゆっくりと地面に倒れる。
最初は何かが倒れただけかと思ったが、よくよく目を凝らしてみれば微かに動いており、生き物だと分かる。
私は気になり、雨の中ではあったが外に出て黒い影に近寄る。
「……何? 動物?」
「みゃぁ……(クソ……腹減った……)」
「え?」
今、鳴き声と同時に頭に響くように声が聞こえた。まだ、幼い少年のような声であり、私は雨の中じっとその動物を見つめる。
「みゃん……(ほっとけよ。近寄るな)」
やはり、この動物から聞こえる。
びしょ濡れでなんの動物か分からなかったけれど、よくよく見て見れば、黒猫のようだった。
私は手に持っていたタオルで黒猫の体をくるんで持ち上げた。
「シャー! ……(やめろ! 離せ……くそ……力が出ない)」
「はいはい。じっとして。すぐに乾かしてあげるわ」
「みゃー! (やめろ。俺はなれ合うつもりはない)」
おかしなことだが、猫の声が人間の声として聞こえてくる。
うさぎの王子様のレイス様に続いて、今度は猫か。
どういうことかは分からないけれど、だいぶ弱っているその様子に放っておくわけにもいかない。
それに声からしてまだ子どものようだ。
私は桶の中にお湯の準備をすると黒猫の体をゆっくりと洗い流していく。
黒猫はかなり疲れているのか、嫌がることもない。むしろ、喜んでいるようだった。
「みゃ……(風呂……ずっと入れなかったからな……)」
「泥を洗い流したら、すぐに乾かしてあげるからね」
まんざらでもない様子の黒猫に、私は笑いそうになるのをぐっとこらえた。
汚れを洗い流し終わった後、私はタオルでしっかりと拭き、髪の毛を乾かす魔法具で黒猫を優しく乾かしていく。
この屋敷はなんでもある。
最初に見た時は感動した者だが、人の慣れとは怖いもので、今では当たり前のように魔法具を使いこなしている。
私は櫛を持ってくると、黒猫を乾かしてから櫛で解いていく。
するとべちゃっとしていた黒い毛が、ふわふわ変わっていく。
うさぎとはまた違ったふわふわ感である。
「……可愛いわね。さぁ、おいで」
黒猫を抱き上げようとした瞬間、お腹が、びよーんと伸びて、私は驚いて抱き上げるのを辞めた。
「え? え? 何……」
「みゃん(え? こいつ猫も触ったことないのかよ)」
だいぶ口の悪い黒猫のようだ。私はもう一度黒猫を抱き上げると、食堂へと連れていく。
先ほどお腹がすいていたと言っていたので、何かを食べさせてあげたい。
おそらくこの黒猫は元は人間なのだろう。
呪われたのか、はたまた何かあったのか……。レイス様以外にこのような姿になっている人に出会うとは思ってもみなかった。
私は野菜を猫が食べやすいように細かく切る。
魚をおろし、骨を取って食べやすい大きさにするとまとめて鍋の中にいれ、水を足して煮込む。そして水が少なくなってきたら火をとめた。
猫の舌なので味付けはせずに、素材そのものの味となるが、美味しいと思う。
私はそれを皿に盛り付けて熱さをさましてから、黒猫の前へとコトリと置いた。
「どうぞ召し上がれ。お腹すいているでしょう」
「み(情けなんて……くそ。腹が……限界だ)」
黒猫ははぐはぐと食べ始める。
「(うまい、うまい、うまい)」
その姿がとても可愛らしてく、私はじっと見守る。
レイス様も、もちろん可愛らしいが、黒猫はまた違った可愛らしさがある。
「可愛い……」
レイス様が、仕事で屋敷をあけていてよかった。
きっと可愛いと言ったらむすっとしただろな。
「さてさて、貴方は誰なのでしょうね」
私はごはんを食べる姿を見つめながらそう呟いたのであった。
黒猫ちゃん登場です!






