最終話 30話
レイス様は、私の方へと歩み寄ると、私のことじっと見つめた。
それから、静かに私の手を引いて歩き出す。
「レイス様?」
「部屋に行って二人きりで話したい」
レイス様は歩き、私は一緒になって、部屋へと向かって歩く。
何と言われるのだろうか。
そんなことを思いながら私は歩いていくと、部屋に入りそれから扉がパタンと閉められた。
令嬢の時には、男性と部屋の中で二人きりになるなんてはしたないと言われていたけれど、今ではもう関係ないなと密かに思う。
視線をレイス様へと向けると、私の目の前にレイス様が跪くのが見えた。
「え?」
「ミラ嬢」
そう言って私は手を取られ、それからじっと見つめられる。
突然のことに心臓がバクバクと大きく音を立て始め、一体全体どういうことなのだろうかと戸惑っていると、レイス様が熱のこもった瞳で私のことを見つめてくる。
「真剣に、考えてほしい。私との未来を」
「え?」
「私は君が愛おしく、ミラ嬢と共に、今後の人生を歩んでいきたい。だが、それは、君を我が王家に縛り付けておきたいと言う意味ではないからな」
「縛り付ける?」
「あぁ。私が君と結婚し共にいたいと願うのは、君が聖女だからという理由ではない」
なるほど。レイス様は私が聖女だから結婚してほしいと願っているのではないのだと、すぐに勘違いしそうな私の為に言ってくれているのだろう。
レイス様はおずおずという。
「私は、王族故に王都の一角に私の住む王宮区画がある。もし王族の暮らしが嫌だと言うならば、その中に、ミラ嬢の家とそっくりな家も建てる。森も作る。川も温泉も……ミラ嬢が過ごしやすいように整える……だから、私と一緒に、来てくれないか」
「え?」
「結婚してほしい」
「へ?」
正直な所私は、良くて愛人、悪くてさようならだと思っていた。
罪人の烙印として顔を焼かれ、聖女というあまりにも曖昧な存在の私が、レイス様と結婚できるわけがないと思っていた。
だからこそ、今の言葉が理解できなかった。
「え? だ、だって、私……顔もこんなだし」
「私は気にならないが、痛みがあったり気になるならば、我が王国の治療を受けてほしい。きっときれいに治る」
「えっと、地位も」
「地位などは関係ないが、君がもし地位が必要だというのであれば、私の親戚の家へと一度養子へと入ってから結婚すればいい」
「で、でも……国が違うし」
「隣国だろうと何だろうと、私は、君がいい」
真っすぐに告げられる言葉一つ一つに、私の心臓はどんどんと煩くなっていく。
「私で、いいの?」
そう尋ねると笑顔でうなずかれた。
「君がいいんだ」
真っすぐな瞳がそこにはあった。
私は両手で顔を覆うとうつむく。
ずっと、ずっと何度も何度もレイス様は私とはずっと一緒にはいられないのだからと自分の気持ちを押し殺してきた。
だから、いつさよならしても傷つかないようにと予防線を張ってきたのだ。
レイス様は少し自信のない声で呟く。
「私は、君を愛しているんだ。どうか、傍に居てくれないか」
一国の王子が、なんていう声を出すのかと私は顔をあげると、そこにはこちらの様子を窺うレイス様がいて、私は思わず笑った。
「ふふふ。レイス様ならば、どんな女性でも選り取り見取りでしょうに」
そう告げると、レイス様は言った。
「私が愛を乞うのは君だけだ」
こんなにも真正面から感情をぶつけられたことのない私は、あぁ、こんなにも幸せな気持ちになることがあるのだなと、笑みを浮かべる。
「私も……貴方を愛しているわ」
だから、正直にそう告げられた。
本当は自分の気持ちなんて認めたくなかった。
人を愛して信じるなんて、そんなバカなこと、もうしたくないと思っていたから。
でも、レイス様ならば。
私のことをレイス様は優しくそっと抱きしめると、大きく安堵したかのように息を吐く。
「良かった……緊張した」
「あら、一国の王子が?」
「相手が君だからなぁ。まぁでも、もし王子だからという理由でフラれた時は、最悪廃嫡してもらって君と森で暮らすのもいいかなぁとは思っていた」
「まぁ」
冗談なのかそうでないのかは分からなかったけれど、そう言ってくれたのが嬉しくて私は笑い声を立てた。
そんな私に釣られるようにレイス様も笑う。
お互いに緊張していたのだろう。
「本当に、私の家、作ってくれるの?」
そう尋ねると、レイス様がうなずいた。
「君が望むのならば、そりゃあなんでも。それに、森に置いてきたリュコスの家も作らないとだなぁ。怒っていないといいが」
「ふふふ。そうねぇ」
私達は笑い合い、それから、共に生きていく未来を思い浮かべたのであった。
それから、私はレイス様とリュコスと共に、アレクリード王国へと一緒に向かった。
レイス様は約束通り敷地内の庭に可愛らしい家と温泉にリュコスの家も用意してくれた。
私の怪我も現在治療してもらい、大分よくなってきている。
基本的には屋敷で生活しているけれど、私とレイス様はたまに二人でのんびりと可愛らしい家で二人きりの時間を過ごす。
「ミラ嬢……」
ただ問題は、たまにレイス様がウサギ姿になってしまうと言うこと。
「ふふふ。なんでかしらね?」
ルーダ王国は現在、世継ぎが居なくなったことにより少しばかりバタバタとしているらしい。
ただ、私にはもうかかわりのないことだ。
「また、ヴィクター殿に文献を送ってもらいましょう。きっと不完全な呪いだったからうまく治らないのだと思うわ」
「そうか……」
可愛らしいからずっとそのままでいてくれたらいいのにな、なんてことを思っているのは、内緒である。
アレクリード王国は、とても平和である。
聖女である私を受け入れてくれ、現在はレイス様との結婚式の準備が進められている。
こんなにもとんとん拍子に進むなんて驚いたのだけれど、今まで女性と浮名のなかったレイス様だったからこそ、アレクリード王国の国王陛下も王妃殿下も大層喜んで、私のことも実の娘のように接してくださっている。
それが、とても心地よくて、私は両親とはこんなにも温かいものなのだなと初めて知った。
「レイス様、ありがとう」
「ん? こちらこそ」
私は、もう一人ではない。
春風が私の頬を撫でて吹き抜けていく。
あぁ幸福とはこういうことを言うのだなと、私は晴れ渡る空を見上げそう思ったのであった。
最後まで読んでくださった皆様に感謝をお伝えいたします(●´ω`●)
ありがとうございました。書くの楽しかったです。
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ちょっと豪快に焼肉とか行きたいなぁ……焼肉に行く……行くまでが腰が重いですねぇ。
私の代わりに誰か美味しく食べてきてください(/ω\)