28話
「ご無事でございますかレイス様! くっ。この国の奴らどこかにレイス様をやはり隠していたのですね! 言語道断! 成敗いたします! 騎士達よ! つどえぇぇえ!」
雄たけびのようなその声に呼応するかのように、他の黒い甲冑姿の騎士達が次々に現れ、ルーダ王国の騎士達と向い合い始める。
一触即発という場面に、オリビアがローゼウス殿下に腕を絡めながら現れた。
「まぁまぁ大変! 皆様どういたしましたの!? その女は罪人! 捕らえなさい! どうかアレクリード王国の騎士様達も協力してくださいな」
国王陛下も、ローゼウス殿下も、オリビアの言葉に従うようにうなずく。
これで解決とばかりの雰囲気のオリビアであったけれど、黒い甲冑姿の騎士が声を上げた。
「……我らを愚弄するか……王子! ルーダ王国の者へ剣を向けてもかまいませんか!」
他の騎士達も向かい合ったまま、レイス様の許可を待っている様子である。
私は一体どうなるのだろうかと、体を強張らせていると、レイス様がにっと笑った。
「殺すな! 戦闘不能にすることを許可する!」
「「「「「「了解!」」」」」」
次の瞬間甲冑姿の騎士達はルーダ王国の騎士達と剣を重ね合わせ始めるが、その剣の重さにルーダ王国の騎士達は一瞬で押され始めた。
「ど、どうして? どうして私の言うことを聞かないの?」
「オリビア! もう一度命令をしてくれ。君の命令ならば皆が聞くはずだ!」
「え? えぇ! 私の命令を聞きなさい! 戦うのをやめなさい!」
その時であった。
ガランという剣を落とす音が響き渡り、その場にいたルーダ王国の騎士達のほとんどが動きを止めた。
ただし、動き続けているルーダ王国の騎士達もいる。
洗脳されているか、されていないのか、それが顕著に見えて、私は声を上げた。
「現在聖女と呼ばれているオリビアによって、多くの者が洗脳状態にあります! オリビアの目を見てはいけません!」
ルーダ王国の騎士達が私の方へと視線を向けるのが分かった。
私はハッキリと告げた。
「アレクリード王国の騎士達は敵ではありません! どうか剣を下ろしてください! 現在ルーダ王国は危機に瀕しています! このままでは、王国はオリビアに乗っ取られることになるでしょう!」
「ミラ様だ……」
「ミラ様の声が聞こえたか」
「あぁ! 私はミラ様に従うぞ!」
ルーダ王国の騎士達は、私を見て剣を下ろし始めた。その様子に、オリビアが声を上げる。
「ダメよ! 剣を下ろさないで! 私の命令に従い、戦いなさい! そして罪人ミラを捕らえるのです!」
動きを止めていた騎士達は動き出し、攻撃をまた仕掛け始める。
そんな操られている騎士達を、ルーダ王国の仲間の騎士達が止め始める。
「おい! やめろ!」
「オリビア様の命令だ!」
「嘘だろ。本当に……洗脳されているのかよ」
「オリビア様の命令に逆らうなど、反逆罪だぞ!」
騎士達はぞっとした表情で、どうにか仲間の騎士達を止めようとしていく。
アレクリード王国の騎士達はといえば、容赦なく攻撃をしてきた者達を気絶させ地面へと倒していっている。
状況としては、どんどんとルーダ王国の騎士達は倒れていっている。
ここで第二陣、三陣の騎士達が到着すれば形勢は変わってしまうだろう。
私はその前にどうにかしなければと、声を上げた。
「オリビア! こんなこと間違っているわ! 話し合いましょう!」
「なによ! さっきのはまさか演技だったの!? 私のことを、バカにしていたのね! もうお姉様なんて大っ嫌い! 捕らえなさい! 罪人を罰するのです!」
次の瞬間、私の方へと騎士達が押し寄せめる。
レイス様は私のことを背中にかばいながら剣で応戦していく。
大きな背中に守られながら、私は邪魔にしかなっていないとそう思った時であった。
「あ……」
「ミラ嬢!」
王城の一角から弓を射る騎士の姿が見えた。そしてその矢はこちらへと飛んでくる。
瞼をぎゅっと閉じたけれど、痛みが訪れることはなく、ゆっくりと瞼を開けた。
「あ……あぁ……まさか、レイス様!」
私を庇ってレイス様の肩に弓矢が刺さっている。
「大丈夫だ。気にするな!」
「だって、だって!」
その時、他の洗脳され操られている騎士達も襲ってくると同時に、応援に駆け付けた他の騎士達もどんどんと現れる。
「お姉様を捕らえなさい! 罪人よ!」
その声に、操られる騎士達が押し寄せてくる。
それでも、レイス様は私を庇うことをやめない。
ローゼウス殿下が叫ぶ。
「聖女であるオリビアの言うことを聞くのだ! 罪人ミラを捕らえよ! アレクリード王国の騎士達も敵だ!」
どうして、どうしてこうなってしまったのだろう。
私の考えが甘すぎたのだ。
レイス様は止めた方がいいと言ってくれたのに……。
「ミラ嬢!」
名前を呼ばれ顔をあげると、レイス様がにっと笑った。
「顔を上げろ。君がうつむく必要はない! 胸を張れ! 罪人などではないと見せてやれ!」
「レイス……様」
そう言われ、私は顔をあげた。
戦っている騎士達がいる。そして操っているオリビアとローゼウス殿下や、国王陛下の姿も見られる。
私は操られて傷つく騎士様達、そしてレイス様へともう一度視線を向ける。
騎士達の争う姿に、そしてレイス様が腕から血を流す姿に、私の口は自然と開いた。
「もう、やめて」
二年前、罪人の烙印として顔を焼かれた時、もう二度と人など信じるものかとそう思った。
だけれど、レイス様に出会って、レイス様に心をほだされた。
レイス様を守りたいと言う気持ちと共に、無意味な血など流させたくないと言う思いが強くなる。
「やめなさい」
私の声が、響き渡った。
大きな声で叫んだわけでもないのに、それと同時に騎士達が動きを止めたのが分かる。
不思議な感覚だった。
まるで世界が鮮明になったかのように、私には、視界に光が溢れて見える。
だがしかしオリビアの周りの光だけが濁っていた。
それを見た瞬間、私は自分がすべきことが何なのかを理解する。
「オリビア。やめなさい」
オリビアは私の言葉に声を荒げた。
「やめないわ! お姉様。いい加減にして。私は聖女なのよ」
私は首を横に振った。
「違うわ」
「神官様がそう言ったのよ!」
なんと残酷なことなのだろうかと、私は静かに思う。
オリビアもそのような力を持って生まれなければ普通の令嬢としての人生を歩めたのだろうか。
力を持ちそして、誤った使い方をしてしまったがための罪。
「オリビア。聖女は貴方ではないわ」
「っは! 負け犬の遠吠えよ! 私じゃないと言うなら誰だっていうのよ!」
私は微笑みを浮かべた。
昔の私は、ローゼウス殿下を助けなければ自分には価値がないと、認めてほしいと思い治療に当たっていた。
人の為ではなく、それは自分の為だった。
だけれど、今は違う。
私は今、自分の為ではなく、レイス様や、無用な血を流している騎士達の為に、声を上げている。
きっと、だから私の中にあった力は目覚めてくれたのだろう。
「オリビア。聖女とはきっと、人の為を思う気持ちを持たなければならないのよ」
今ならば私にはそれが分かる。
「はぁ?」
「だから、きっと、今の私の声が、皆に届くのだわ」
私は深呼吸をすると、声を上げた。
「目を覚まして」
そう、一言告げた。
オリビアは怪訝そうにしたけれど、すぐに周囲の異変に気がついた。
カランと、いう音が響き、呆然とした様子の騎士達は剣を落としていく。そして、その様子を見たレイス様が、声を上げた。
「アレクリード王国の騎士達よ! 剣を収めよ!」
その言葉を聞き、国王陛下もまた声を上げる。
「ルーダ王国の騎士達もだ! 剣を収めよ!」
周囲の様子にオリビアは驚いたような顔を向け、声を上げた。
「なに? なんで……罪人を捕らえなさい! 罪人を捕えるのよ!」
私は、オリビアに告げた。
「貴方の能力は、聖女の能力ではないわ。人から意思を奪い、洗脳し、操る能力なのよ」
「え?」
オリビアが私のことを見て、驚いた表情で固まる。
「嘘よ……私は、だって……神官様が聖女だって言ったわ」
「いいえ。違うわ。貴方が聖女になりたくて、神官様にそう言わせただけ」
「は? う、嘘よ。嘘よ! 騎士達! お姉様を捕まえなさい!」
その言葉に、騎士達は目をつむると声を上げた。
「うわぁ! もう、もう操らないで下さい! 自分が自分でなくなるなんて! こりごりだ!」
「やめてくれ! もう操らないでくれ!」
ルーダ王国の騎士達はそう叫び、その様子を見たオリビアは顔を青ざめさせた。
「う……嘘……ローゼウス様!? ローゼウス様! 違いますよね? だって、だってローゼウス様は私が治療したから病気が……そうよ! 病気が治ったでしょう?」
ローゼウス殿下は両手で顔を覆い、そして嗚咽をこぼした。
「あぁ……あぁぁぁぁっ。なんで……なんで……」
「ローゼウス様? ……」
ローゼウス様は顔をあげると、泣きながら呟いた。
「そなたが……本物の聖女だと、そういうことなのか……」
オリビアが、私のことを見て、そして固まった。
明日で完結予定です(*´▽`*)
さぁ、ラストまで突き進みます!






