16話
翌朝目覚めると、私は胸の中に抱きしめる温かさに毛布をめくった。そこには丸まって寝息を立てるレイス様の姿があり、私はあまりの可愛さに一瞬見入ってしまう。
この可愛らしいウサギが、あの美丈夫になるとは到底思えない。
こんなにも、ふわふわとしていて可愛らしいのに人間の姿になれば逞しく大柄な男性になる。
そう思うとなんとも言えない気持ちが湧き上がり始めて、私は頭を振る。
「今は……ただの可愛いウサギよ」
そうだ。人間の姿を思い出すからいけないのだと思いながら、私はそっと眠っているレイス様をぎゅっと抱きしめた。
温かくてふわふわで、幸せな気持ちで満たされる。
そう思っていると、レイス様がもぞもぞと体をよじり始め、私の腕から抜け出そうとするので無理やり押さえつけると、不満げな声が上がった。
「乙女が男を不用意に抱きしめるものではないぞ!」
「今は可愛いウサギさんだもの~」
「うぅぅぅ」
「ふふふ」
以前までは、昔のことを思いだしたら翌日も憂鬱な気持ちだったと言うのに、レイス様がいるからだろうか。
今日はとても気分がいい。
「さて、朝ごはんにしましょうか」
「あぁ」
「朝一で人間の姿になる?」
一日のうち、薬の服用時間は最低でも6時間はあけなければならない。なので、今飲んで5時間人間だった場合、そこから6時間は薬が服用できない。
レイス様は少しばかり考えると、首を横に振った。
「家を荒らした人間がいつ来るか分からない以上、対応しやすいように今はこの姿でいる。ただ……片付けがしにくいが、すまない」
その言葉に私は首を横にふった。
「いいのよ。私もその方がありがたいわ。もしもの時……私戦えないから。はぁ。こんなことなら武術でも習っておけば良かったわ」
「ははは。ミラ嬢が武術か。そうだな。人間の急所の狙い方と逃げ方については今度教えようか」
「逃げ方?」
「そうだ。基本的に体重が重い者の方が戦いってのは有利だ。だからミラ嬢は勝ちを考えるのではなく、どう逃げるかを考えた方がいい」
「なるほど」
「さて、朝食にしよう」
「えぇ。そうね」
私達は起き上がると、私は朝食の準備に取り掛かり、レイス様はいつ作ったのかウサギ姿でも使いやすそうな小さな箒を使い、上手に床を片付けていく。
今日は温かな飲み物とパンだけにして、レイス様には庭で穫れたての野菜を出した。
二人で朝食を食べ終えた後は、一体何者の侵入だったのかを推察しながら掃除を進めて行く。
「可能性としては、私を探しているかミラ嬢を探しているか、はたまたただの盗賊で家を荒らされたかだが……盗賊という可能性は低いな」
「えぇ。私もそう思うわ」
「盗賊ならば金目の物を持っていきそうなものだが、薬などは無事だったしな」
「そうねぇ……それに一番はあのボタンよ。あれは……ルーダ王国の文様の入ったもの。だからこそ、ルーダ王国の人がここに来たのは間違いない。私達どちらにも無関係でここに来たってことは……ないでしょうね」
「そうだなぁ……だがミラ嬢を探しに来る理由は? 私の場合は行方不明の王子を探しているという理由なら分かるがな」
「私を探す、理由……そうね……そう……ね。もし、もしもだけれど、オリビアが聖女でなかった場合……薬が……分からないのかもしれないわ」
「薬?」
「えぇ。ローゼウス殿下には医師がついていたけれど、私はその医師とは別に薬を調合してローゼウス殿下に飲んでいただいていたの。もちろん、他の医師とも話をしてね。でも、その細かな薬の調合は……私しか知らないわ」
だがしかし、オリビアが聖女でなかった場合、どうしてローゼウス殿下は健康になったのだろうか。
私の薬を飲み、回復してきたというならば体調面は分かる。だがしかし、あの時のローゼウス殿下は性格すらも変わっていたように思える。
私の薬にはそのような効能はない。
「とにかく、一度安全な所に移動した方がいいだろう。ある程度片付けがすんだら、今日のうちに別の場所へと一時避難しよう」
そう告げられ、私は驚いた。
「え?」
「ここにいてはいつ戻ってくるかもわからないだろう?」
「で、でも……」
ここは、私の家である。やっと手に入れた我が家をそう簡単に手放すことなど出来ない。
そう思った。
けれど、レイス様は真面目な口調で言う。
「安全を優先しよう。この家がミラ嬢にとってとても大切なことは分かる。だが、今は安全が第一だ」
「でも……でもここは、やっと手に入れた私の居場所なの」
ぐっと手に持っていた箒に力を入れた時であった。
外から物音が聞こえ、狼の遠吠えが聞こえてきた。
私達はその声に顔を見合わせる。
「しまった。……主従契約を結んでいるとはいえ、ウサギの姿で会うの怖いな」
「ふふふ! たしかに食べられてしまいそうね」
私達は一度外に出ると、家の前に尻尾をブンブンと振る狼の姿があった。
その頭を私は優しく撫でる。
ウサギ姿のレイス様を見た狼は一瞬きょとんとした後に、レイス様の体にすり寄った。
「ひぃぃぃ。なんだか、この姿だと、背筋がぞわぞわするぞ」
「本能ってやつかしらね?」
「あぁ……そうだ。ミラ嬢。こいつに名前を付けてやってくれ」
「え? 私が? いいの?」
「あぁ」
生き物に名前など付けたことがない。
私は狼をじっと観察し、その灰色の体と鋭い金色の瞳をじっと見つめた。
「リュコスというのはどうかしら? 異国の言葉で狼という意味らしいわ」
「ほう。さすがは博雅姫だな。リュコス。良い名をもらったな」
「オオン!」
嬉しそうにブンブンとしっぽを振る姿に私は、大きな動物も可愛らしいなとそう思ったのであった。
読んでくださる皆様に感謝です(●´ω`●)
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ウェブだと、こうやって数字で読んでもらっているというのが分かるので、毎日ニヤニヤします。
今日は香薫焼いちゃうぞ! アイスも食べちゃおうかな……。






