11話
無事に家に帰りつき、私はすぐに準備を始めると新鮮なうちに薬草などの下処理を行っていく。
昔王城の医務室では魔法石を使って下処理をすることが多かったけれど、私は薬草などの状態によっては魔法石が適さないと考えており、全てを手作業で終えていく。
「ミラ嬢、その……疲れているのに、すまない」
「いいのよ。これは鮮度がいいうちにしないといけないから。ここまで終われば寝るわ。先に寝ていていいわよ」
「いやいや、ミラ嬢が頑張ってくれているのに、眠りはしないさ。ふっ。この体にも慣れて最近お茶も淹れられるようになってきた。今準備してくる」
「有能なウサギね」
くすくすと私は笑いながら、根についていた泥を洗い流して、葉が出来るだけ傷つかないように優しく汚れを落としていった。
それからそれを一つ一つタオルに包んで水分をふき取り、今度は綺麗な水を入れた瓶に根の所だけを浸しておく。
それをしていると、紅茶の香りがしてきた。そればかりか、美味しそうな香りまで漂ってきている。
「よし、終わり」
そう言って振り返ると、机の上に紅茶と、チーズを載せて焼いたパンが用意されていた。
「有能なウサギだろう?」
そうふふんと笑いながらレイス様がいうものだから、私もつられて笑う。
「本当に。ありがとう」
「ちなみに自分の分の果物と野菜も準備した。ので、一緒にいただきます」
「えぇ。いただきます……早くて明後日には、人間のご飯が食べれるわよ」
「今は食べたいという気持ちがないが、だが、恐らく人間に戻ったら真っ先に私は森に狩に行くと思う」
「狩り……え、王子様でしょう?」
「……だから、その、ミラ嬢の思う王子の容姿と違ったらすまない……それと、その、ずっと言えなかったんだが、ここに来て一度だけ、赤い満月の夜に……人間に戻ったことがある」
突然のその言葉に、私は驚きながらもなるほどとうなずいた。
「赤い満月には不思議な魔力があるというわ。だからもしかしたら獣化の呪いが一瞬和らぎ人間に戻ったのかもしれないわね。それ以降はないのよね?」
「あぁ」
それにしてもなんで言わなかったのだろうかと思いながら、レイス様を見て、あぁなるほどと思った。
私が人間嫌いなのが伝わったのだろう。だから、人間の姿を見られて追い出されるかもと心配したのかもしれないなと結論付ける。
ただ……レイス様なら、大丈夫だと思う。
そう確信めいた思いがあった。
「教えてくれてありがとう。薬の調合も、月の満ち欠けに合わせて作るわ。ちょっと待って……一つだけ確認してもいい?」
「なんだ?」
私はおずおずと、聞きにくいけれど尋ねた。
「人間に戻ったら……全裸?」
「違うぞ! いや、その、不思議だが、ちゃんと洋服は着ていた!」
その言葉に私はほっと胸を撫で下ろす。
さすがに全裸の男性と二人きりは怖すぎるだろう。
私達は片付けを済ませると、着替え、一緒に布団へと入った。
もふもふがもうすぐ終わりかもしれないと思うと寂しくて、私がレイス様にお願いをしたのである。
温かなもふもふを抱きしめながら眠るというのは、なんとも心地の良いものなのだなと思い瞼を閉じると、レイス様の小さな呟きが聞こえた。
「……っく……同衾……だめだろ……だが、だが……うぅぅ」
可愛らしい人だなと心の中で思う。
今まで出会ってきた誰よりも可愛らしく、そして私のことを気遣ってくれる人。
こんな人に出会ったのは初めてで、心の中がくすぐったくなる。
「ふふふ。同衾しちゃったわね」
意地悪な心が働いて、そう呟くと、レイス様が固まったのが分かった。
そんなレイス様をぎゅっと抱きしめて、私は呟く。
「可愛い」
「うぅぅ……」
レイス様の唸り声が聞こえたけれど、私は聞こえないふりをして夢の中へと落ちて行ったのであった。
読んで下さりありがとうございます(●´ω`●)
心の声が聞こえる悪役令嬢は今日も子犬殿下に翻弄される4巻が発売されました!
同時発売としてコミカライズの2巻も発売しております(´∀`*)ウフフ
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