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10話

 夜が明けきらない中、支度を済ませていき、ミラ嬢の後に続いて薄暗い森の中を歩いていく。


 太陽が昇ってからでは駄目なのかと尋ねると、朝露の輝く時間に採取するのが一番鮮度がいいのだという。


 森の中を迷いなく進んでいくミラ嬢。はっきりと言って、自分は今森のどの位置にいるのかすら分からない。


 だけれどミラ嬢は迷うことなく進んでいく。おそらく頭の中に地図が入っており、明確に自分の位置を把握しているのだ。


 その記憶力と方向感覚に脱帽する。


 また、この森でミラ嬢に会えたのは奇跡だなとも思った。


 ミラ嬢が採取するのを見つめながら、昨日の話を思い出しまた怒りが沸々と湧き上がってくる。


 令嬢として生まれた日常のほとんどを縛り付けておきながら、罪をかぶせ、顔を焼いて追放するなど人間の所業ではない。


 しかもそれが公になっていないということは、その罪を公開できるほどの証拠もなかったのだろう。


 それはおそらくミラ嬢も気づいている。だから、口ごもったのだ。


 国民からも愛され慕われていた次期王子妃。そんな彼女の追放など国民が望んでいるわけはなく、それを知らしめた時、国民が揺らぐ。それも考慮した上で、逝去と伝えられたのだろう。


 国民が揺らぐであろう程に彼女は国民からの信頼を得ていた素晴らしい女性だったのだ。


 ルーダ王国では聖女となっているが、おそらく違う。

 

 婚約式に出席すると言う名目ではあるものの、ルーダ王国に現れた聖女の実態について調査するのも今回の出席の理由だった。


 結局のところそれを調査する前にウサギになってしまいここにいるのだが。


 採取が終わると、ミラ嬢は別の採取場へと歩き、そして手際よく採取を終えると言った。


「よし、これで全部だわ。帰りましょうか」


「あぁ」


 二人で薄暗い森の中を歩きながら、私はミラ嬢に尋ねた。


「……もし、私に獣人化の呪いをかけたのがヴィクター殿だとして、何の為だろうか。アレクリード王国は大国だ。私がいなくなったとなればルーダ王国を不審に思い、下手をすれば戦争にだって発展というのも考えられる」


 ミラ嬢は少し考えこむように上を見上げると、小さな声で尋ねた。


「そうね……貴方が行方不明になったことは問題にはなるでしょう。だけれど、それ以上に、貴方を獣化させなければいけない、何かがあった……のかしらね?」


「おいおい。それは一体なんだよ」


「何かしらね?……でも……私が知るヴィクター様は、頭の悪い人ではない。いつも分厚い丸眼鏡をかけていて……そう……ずっと何か引っかかっていたのよね。でもそれが分からないのよ」


「なるほど。……まぁ、後は獣人化の呪いを解いてからだな」


「そうね。家に帰ったらさっそく薬を作り始めるわ」


「ありがたい」


 そう答え、私はミラ嬢のことを見つめながらふとオリビア嬢とヴィクター殿のことを思い出す。


 オリビア嬢と実際に会ったのは王子の婚約の祝いの席でだけである。


 その時どんな様子だったのだろうかと頭の中で思い出そうとする。


 ただ、婚約式自体にはたくさんの来賓がいたからこそ、簡単な挨拶しか出来ていない。しかも、オリビア嬢はベールを顔にかけており、その表情すらよくわからなかった。


 公式の席なのに、表情を隠す理由はなんだろうかと後々に調査したところ、どうやら何者かが聖女にベールで表情を隠すことで高貴さを演出できるなどということを教唆したことが理由であった。


 一体誰が?


 何の目的のために?


 あの時には分からなかったが、あれは何かの理由があったのだと今ならばそう思う。


 そしてヴィクター殿に呪われた原因。一体なんだろうかと考えてみても心当たりがない。


 大きくため息をつくと、横を歩くミラ嬢を見上げる。


 焼かれた顔半分は、未だに痛むことがあるらしく、たまに顔を歪めておさえている時がある。


 アレクリード王国の王宮魔法使いならばきっと治療が可能だろう。獣人化の呪いが解けた暁には国に連れて帰り治療をさせてもらおうと思っている。


 ただ、アレクリード王国は大国であり土地が広大である。


 ルーダ王国を出ることは出来たが、アレクリード王国の王城まではかなりの距離がある。とにかく早く人間の姿にと思っていると、ふとミラ嬢と目が合った。


「どうしたの? ずっとこっちをちらちら見てくるけれど」


「いや……その、獣人化の呪いが解けたあとのことを考えていた」


「そう……」


 その言葉に、ミラ嬢は視線を逸らす。


 はっきり言って、ミラ嬢は本人が思っている以上に感情が表情によく出る。きっと一人で暮らすようになって隠す必要もなくなったからこそなのだろう。


一緒に過ごすようになればなるほどに、仕草のその一つ一つに目が向く。


 心根の優しい女性だ。そして、少し不器用で、可愛らしい人。


 女性に対してこんなにも心が動かされるのは初めてで、優しくしてもらえて嬉しくて、それを返そうとすれば驚かれる。


 彼女は、どれだけ大切にされてこなかったのだろうかと、苦しくなった。


 素晴らしい人なのに、きっとこれまで彼女は、それを認められもせず、感謝されもせずにいたのだろう。


 私ならばそんな思いはさせない。


 一緒に過ごせば過ごすほどに、その思いが強くなっていく。


「ミラ嬢……人間に……もし戻っても……嫌わないでほしい」


 人を信じられないのだろう。だからきっと人を遠ざけている。


 だから人間の姿に戻るのが最近怖い。


 ミラ嬢に嫌われたらどうしようかと、それが怖いと思う自分がいるのだ。


 するとミラ嬢は驚いたような顔をこちらへと向ける。


「何よ……人間になっても……貴方は、貴方でしょう?」


 心の中が晴れ渡っていくような心地がした。


 足取りが軽やかになる。


「そうか! そうか!」


 ぴょんぴょんと飛んで歩けば、ミラ嬢は眉間にしわを寄せる。


「可愛いけれど……なんだか腹立たしいわ」


「何故!?」


「さぁ?」


 くすくすとミラ嬢が笑ってくれるのが、嬉しく、そして可愛らしいなと思ったことは彼女は知らないと思う。




毎日、お昼何食べようか悩みます。

簡単に栄養取れて美味しいご飯があればいいのにって思うのですが。

自分で作るごはんの中で最強は目玉焼きとウインナー。簡単速い美味しい(●´ω`●)

料理上手な人が本当にうらやましいです。


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