9話
更新遅れました!
温泉に入り終わった後、私は焚火を起こし、お湯を沸かし、温かな飲み物と一緒に持ってきたパンを食べた。
レイス様は近くに生えていた新鮮な草をもさもさと食べ終えると帰ってきて私の横にちょこんと座る。
森の中は日が落ちるのが早く、外はとうの昔に暗闇に呑まれていた。
夜の森の中は、薄暗いとかそういうものではない。
黒いのだ。
そちらを覗けば、暗闇の中に何かがいるような気がして私は出来る限り夜の森は見ないようにしている。
一度恐怖に飲み込まれれば、夜眠れなくなりそうで、私は隣にいるレイス様に尋ねた。
「少しだけ、だっこしてもいい?」
それにレイス様はこちらを見上げてうなずいた。
「少しなら」
「ふふふ。ありがとう」
私はふわふわのレイス様を抱き上げると、心の中が落ち着く。
温かで、膝の上で優しくその体を撫でるだけで癒されるし不安が和らぐ。
「素敵な毛並み」
「そうか?」
「えぇ。私、ずっとこんな風に可愛らしいウサギさん撫でてみたかったのよ」
「ウサギくらい、捕まえていつでも撫でられるだろう?」
「あら、ウサギってすばしっこいのよ? それに、昔は私には自由なんてなかったから」
ぽつりとそうこぼした私は、ふと昔のことを思い出しながら呟いた。
「レイス様は王子様大変じゃないの? 私は昔は本当に大変だったわ。もう、朝から晩までやることが多いし、自分の時間なんてないし……今が本当に幸せ」
レイス様は顔をこちらに向けると言った。
「ミラ嬢は、そんなに大変だったのか?」
「そうねぇ。眠る時間があまりない程度には大変だったわ」
「……そうか。それは大変だったな」
ふわふわの毛並みを撫でながら、私達はパチパチと音を立てている焚火を見つめていた。
することもなく、まだ眠る時間にしては早く、だからだろう。
私はその揺れる炎を見つめながら口を開いた。
「……今でも、すごく不思議なの」
「何がだ?」
「ある日突然、自分の生きてきた世界が崩れ去ったのが」
あの日のことを、今も夢に見るのだ。
悪夢の中、私は一人ぼっちで皆に見捨てられる。
「……何か、あったのか……聞いてもいいのだろうか」
「ふふ。そうねぇ。聞いてくれるの? 楽しい話じゃないわよ」
「ミラ嬢がいいなら、教えてくれ」
そう言われ、私は焚火に落ちていた枝をくべながら口を開いた。
「じゃあ、時間もあるし、暇つぶし程度に聞いてちょうだい。もう二年も前のことよ。私はルーダ王国の公爵令嬢として第一王子の婚約者だったの」
「なっ!? ちょっと待ってくれ……そんな。いや、貴族のご令嬢だろうとは思っていたが、まさか……ルーダ王国の博雅姫とはミラ嬢のことだったのか……」
「博雅姫?」
「知らないのか? 諸外国にもその名は轟いている。幅広い知識だけでなく医学にまで精通している上、献身的に王子を支えているという……ちょっと待て、私が知る限りでは病で突然逝去したと……」
「逝去? 私……病で逝去したことになっているの?」
「あぁ。なんていうことだ。ここに君は生きていると言うのに! 一体、一体何があったのだ。私が力になろう。教えてくれないか」
しばらくの間、私は逝去という言葉が引っかかって考え込むと、レイス様の声にハッとして答えた。
「えっと……一つ確認してもいい? 逝去ってことは、罪人扱いされていないということよね?」
「されていない。ルーダ王国の民は、国民の為に薬学の立場でも貢献した君の死を悼み、民は自主的に追悼式を行ったと言うくらいだぞ」
「え? そんな、まさか」
一体どういうことなのか。私は頭の中が混乱して、眉間にしわを寄せた。
焼かれた顔が痛み、私は思わず手で覆いうつむくと、レイス様が心配そうに私のことを見つめた。
「君のおかげでルーダ王国内では、薬草に関する知識が深まり、平民でも薬草を使った薬が安価で手に入るようになったと聞く。私は素晴らしき女性が王子妃となるのだなと、噂を聞き思っていたのだ……だから、実際に会えるのを楽しみにしていた。しかし、君は逝去したと聞き、王子の婚約者には新たに聖女が座っていたんだ」
「そう……」
「婚約者の名前はオリビア嬢……三十年ぶりに現れた奇跡の聖女であり、王子の病を一瞬で治したと聞く」
「オリビア……」
やはり、婚約者の席にオリビアが座ったのかと思っていると、レイス様が言った。
「だが……我が国は王子を救ったのはオリビア嬢ではないないのではという見解で、二年前の一件は話がついている」
「え?」
突然のレイス様の言葉に私は首を傾げる。
「我が国でも秘密裏にミラ嬢の作っていたという薬を入手しており、解析が進められていけばいくほどにその薬は王子の病に適切なものであったという見解だ。故に、聖女の力ではなく服用していたミラ嬢の薬が効いたのではないかという話で落ち着いた」
隣国のアレクリード王国でそのような話になっているなど知りもしなかった。
「いいえ、でも、実際にオリビアの力によって、一瞬で王子が」
「王子に、異変を感じなかったか?」
「え?」
「ミラ嬢。辛いことを話させることは……申し訳ないのだが、一度ミラ嬢の経験したことを話を聞かせてほしい。それから我々の見解についても話を聞いてほしいのだ」
一体どういうことなのだろうか。
私は、そう思いながらも出来るだけ客観的に分かりやすく、レイス様に伝えて言った。
幼い頃から妃教育を頑張ったことや、王子はどんな性格だったのか、オリビアの様子、そして王子の容態が急変したことと、それを救ったオリビアのこと。
一瞬で変わった、私の周囲のこと……。
すると、次第にレイス様が体をぐっと丸めて怒りを堪えるような姿勢になり、私は大丈夫だろうかと思っていると、レイス様は地面へと飛び降りて、地面を足で、タンタンっと力強く打つ。
「すまない。我慢が……苛立ちが、我慢できない。すまない」
そういうと、しばらくの間レイス様は地面をけり続けたのであった。
レイス様曰く、ウサギの本能だからなのか止められないと呟いていた。
「すまない……だが、だが、苛立ちが。幼い頃の君を、どうして……誰も支えてやらなかったのだ。そして、どうして婚約者として頑張って来た君が、追放などと言う非道なことをされなければならないのだ!」
そんなレイス様を見て、ここまで関わってしまった以上話をするべきだろうと、とある一人の男性についてレイス様に告げる決意をした。
「黙っていたことがあるの……私の妹、オリビアには元々別に婚約者がいたわ」
「ん? ちょっと待て、そんな、だってオリビア嬢は王子の婚約者になっていたぞ」
「そのようね。でも、私が知っている時点では、王子の側近である公爵家の次男のヴィクターという方が婚約者だった」
その名前に、レイス様が驚いた表情で顔をあげる。
「ヴィクターというと……ヴィクター・ロベルト殿か? 彼は……たしか」
「はい。……ロベルト公爵家は呪いや呪術に詳しい家系で、ヴィクター様は……獣化の呪いを研究していました」
「なんだと……そういう怪しい家系だとは情報が入っていたが……獣化の呪い……まさか」
「……最初に話をしなくてごめんなさい。おそらく、貴方の獣化の呪いは、ヴィクター様の仕業かもしれない」
その言葉に、レイス様は黙り、考え込むようにうつむいた。
それからレイス様は顔を上げて呼吸を整えると言った。
「獣化の呪いについては、一度話を置いておく。それよりも、話を聞いた上で、アレクリード王国にて話し合われた見解を聞いてほしいのだ」
「えぇ」
「我がアレクリード王国では、オリビア嬢は聖女ではなく、何らかの魔力を有した能力者なのではないかという意見が出ている」
「え?」
突然のことに、私は少し考えてから尋ね返した。
「魔力を有した、能力者とはどういうこと?」
「聖女が現れる時、神々から神託が降りると言う。我が王国でもそれは同じだ。珍しいことだが、病を治療する能力や、解毒、解呪の能力がある方が聖女には多いらしい。だがそれと同時に何か問題が起こる時にも聖女が現れる時がある」
「問題?」
「あぁ。その問題を解決するために、聖女が現れ、解決へと導く。アレクリード王国ではそのような史実もあるのだ」
ルーダ王国では聞いたことのない話であった。
だけれども確かに魔力を有した能力者、については、文献で見たことがある。
「まぁ、現段階では見解でしかなく、真実は分からないがな」
話はそのように締めくくられ、私はしばらくの間、オリビアのことについて考えた。
だけれども、結局のところ考えても変わりはしない。
オリビアが聖女であろうがなかろうが、今の私には関係のないことなのだ。
「聖女……ね」
そう呟き、私は考えることをやめた。
すみません……ポンコツすぎて、更新の設定またミスってました(/ω\)
申し訳ないです!!!!
土下座!!!!!!!!!!






