縁の苦悩
縁君が梨桜に思い入れるその訳・・・
【縁】
道兼が、今日は彼女の家で晩ご飯を食べると言うので、僕は久しぶりに梨桜さん宅にお世話になる事になった。
「これからたまにあっちで食べるみたいだ。
悪い、またお世話になって。」
「ううん、平気平気。2人分も3人分も変わらないから。
それより、なんか今日、凄く盛り上がってたね。
なに?ダンクって?」
「あぁ、ボールを手で持って入れるんだ。
投げないから絶対入るだろ?」
「えぇ~~!、あんなとこまで飛んだの?!」
「運動神経は悪くないんだ。昔から。」
「でも珍しいね、今まで目立たないようにして来たんじゃないっけ?」
「うん。なんかね、テスト結果が良かったからなのか、みんなが僕にボールを回すもんだから、あいつらが妙に絡んできてね、凄くうざくてさ、ちょっと頭に来てやっちゃった。」
「よく絡まれるの?」
「まぁ、トイレ前とかでもね。
ただ、大丈夫。
ケンカにはならないようにしてるし。」
「それって、この間剣崎さんに連れていかれた時に?」
「・・・うん。あの時の事はこってり絞られた。」
「ごめんね、いい人なんだけど、元警察官だから。厳しくて。」
「いや、いいんだ。僕の考えが浅かったんだから。
・・・それより、まだ歌わないのか?」
「あ。なんかこの間お父さんが言ってた。
もうすぐ出来るとかなんとか。
あのアヤシイ口ぶりからすると、何か企んでる。(笑)」
「企んでる?(笑)」
「あ、笑った!
いつもそうやってればいいのに。(笑)」
「今日みたいにみんなが寄ってきてくれるのは凄くうれしんだ。
ただ、どうも対人関係が苦手で。」
「今みたいにしてればいいと思うけど?」
「梨桜さんは、話しやすいな。
ていうか、そっちこそ他の皆とあまりしゃべらないじゃないか!」
「私はあんまり女子受けが良くないみたいだからね、
無理に会話に入らないようにしているのです。」
「嫉妬は嫌だな、男子も女子も。」
「嫉妬されてるんじゃないと思うよ。
・・・
あ、そだ、家、カラオケできるよ、来る?」
「お父さんいない間に上がり込むのはどうなんだろう?」
「大丈夫。良いって言ってくれてるから。」
「それじゃ、お言葉に甘えて。
ただ、今日も後付けて来てる生徒がいるから、一旦家に帰ってから出直すよ。」
「(クスっ)凄い、よく解るね。」
「2組の生徒だな。川東、だったと思う。
電車まで乗ればさすがにばれるだろうに、よほど僕と君の仲が気になるんだろう。」
「川東君?・・・
小学校で1回だけクラスが一緒だった男子だ。
・・・てか、彼・・・」
「ん?」
「今日入れて2回ぶつかろうとしてきた。(笑)
前のはそんなでもなかったけど、今日のはわざとらしくて。」
「それはさすがに、先生に言ったほうが良いんじゃないか?」
「う~~ん・・・あの感じなら平気かな。
それに『来る』と分かってればよけられる!(笑)」
そんな話をしながら、自宅マンションの前につく。
僕は5階へ、彼女は17階へ。
部屋の窓から、彼が駅へと戻るのを確認して、軽くシャワーを浴びる。
部屋着に着替えて、17階へ。
ほぼ一月ぶりくらいだ。
「いらっしゃい。」
「おじゃまします。」
彼女の髪はまだ湿ったままだった。
艶のある髪がLEDライトに照らされてキラキラ揺れる。
「彼は帰った?」
「うん。僕の部屋を確認して引き返して行った。」
「ま、彼の事はいっか。
さ、待望の私の歌を聴かせて進ぜましょう!(笑)」
「(笑)」
・・・
・・・
「いいな、やっぱり生で聞く君の歌は。」
およそ半月ぶりに聞く彼女の歌は、さらに深みを増したように感じた。
「えへへ。ありがとう。
・・・
さて、ところで縁君さん。」
「ん?(笑)」
その言い方がおかしくて思わず笑ってしまう。
「何か隠してますよね?主に私の事で。」
「・・・時期が来たら言うと思う。まだ待って欲しい。
ただ、僕は君の歌がとても大好きだってことだけなんだけど。」
「今は言えなくて、後でなら言えるって言うのが謎だね(笑)
なら、その日まで待つとしますか~。」
「それより、さっきの会話の続きが聞きたい。」
「さっきの会話の続き?」
「君が女子受けが悪い理由・・・」
「あ~~、サラっと流したのに、変なとこで鋭いね。(笑)
・・・
そう言う視線に気付いたのが~、
・・・小学校3年くらいからかな?
だから、『嫉妬』ではない訳ですよ。
きっとね、最初の理由は凄く単純なんだと思う。
『なんとなく気に入らないから』みたいな。
でも私はこういう人間でしょ?
他人のことが凄く気になってしまうのです。
母子家庭なのを隠してたのもあるし。
でもそうすると、『人の顔色を窺ってる子』みたいになっちゃって・・・
悪いループ。
そんな感じなんだと思うな。」
「なるほどね。
僕の見解とは少し違う。
女子は基本、自分以外の綺麗な子、かわいい子が嫌いな生き物なんだと思うよ。
父さんの仕事柄、いろんな学校を回ってるけど、そう言う子は必ず裏で悪口を言われてた。ところが表面上はその子と仲良くしてるんだ。軽く女性不審になるよ。(苦笑)」
「女性不審なのに歌が好きっていう理由だけで、私は平気なんだ。(笑)」
「命の恩人だからね。」
・・・そう言ってから『しまった!』と思ったがもう遅い。
「むっ!
はい、そこまで言ったのなら話しましょうね~」
そう小悪魔のように微笑んでいる。
・・・こういう顔も出来るんだな。(笑)
・・・そうだった。Youtubeで歌う彼女も、こういう表情をしていた。
あの視線だけで、どれだけの人が虜になったことだろう。
「決して楽しい話じゃない。それでもいい?」
「うん。もちろんだよ。
聞かせて。」
・・・
【一年前】
あの日、それは突然訪れた・・・。
5月も中ごろ、勉強も順調に進み3教科ほどは【高校】での履修内容も勉強し終え、一息ついたところで、僕はあることを考えた。
こうして学ぶべきことを学び、学ぶべきものを探し、それさえ見つからなくなったら人はどうするのか?
知識欲があるから人は生きていける。
ではすべてを知り尽くし、仮にすべてを手に入れたとして、人はその後どこへ向かうのか?
それでなくとも、人それぞれに欲求の範囲というものがあるだろう。それを満たしたら、または満たせないと判断したら、生きていけるのだろうか?
それとも、純粋な生の欲求に従いだらだらと生きていくのか。
と、そこまでかんがえて、自嘲する。
・・・くだらないな。
それこそ慢心とでも呼ぶ心理だ。
人の手はすべての真理に届くほどに長くない。
それにそんなに単純な生き物じゃない。
欲しいものを手に入れたら、次を探すだろう。
ちっぽけな人間が宇宙のすべての真理にたどり着くことなど未来永劫ありえない。
・・・自分の小ささを改めて感じ、再び笑った。
その時、急に頭がざわざわとして落ち着かなくなってきた。
生まれて初めて僕はその『感覚』にうろたえた。
何も考えないようにしても、上手くはいかない。
何かを考えようとすると、余計に心がざわついた。
だんだん大きくなるその心の揺らぎは、自分ではどうしようもなくなっていった。
『鬱』、『ノイローゼ』、その言葉は直ぐに浮かび、何とか気持ちを落ち着けようとする。
だが、その『心のざわつき』は、『大きなイライラ』となり、全身から汗が噴き出してきて、いよいよこれはヤバい!と、風呂場へ駆け込んだ。
頭から熱いシャワーを浴びる。
・・・だが、なんの効果もない。
今度は冷水だけにして、頭を冷やす。
・・・
やがて、膝がガクガクするくらいまで体が冷えると、多少は楽になったような気がした。
そのまま体を拭いて、ベッドに横になる。
すると、また頭をもたげてくる『イライラ』を気力で抑え込んだ。
・・・
・・・
それからの半年は地獄のような日々だった。
ふとした瞬間に突然くる『イライラ』との勝負。
負けるわけにはいかない。
そして知られるわけにはいかない。
ただ、どうしても、どうしてもだめな時はこの身は自分で始末する。
そう決意した。
大事にしてくれた親には申し訳ないが、自分に敗北した自分をあの人たちに見せることなど、僕にはできない。
8月から9月にかけての暑い時期は特に堪えた。
部屋では冷房を目いっぱい利かせて体を冷やすと幾分楽にはなった。
長い長い・・・僕にすればそれは永遠ともいえる長い戦いに、気力は疲弊しきった。
『神様、もしあなたがいるなら助けてくれ。
それができないなら殺してくれ。』
そう祈った日もあった。
慢心した自分への怒りかと考え、
先祖に手を合わせた日だってあった。
そしてあの日。
10月17日。
パソコンの画面に表示された、『最近の人気動画』
そこに映る『金髪の少女』
なんとなくその天使のような容貌に惹かれてそれを再生した。
アコースティックギターの音色とともに、澄んだ歌声が響く。
あぁ・・・なんて綺麗な声だ・・・。
・・・その日、ほぼ半年ぶりに僕は『安らかな眠り』につく事が出来た。
【縁(現在)】
「・・・とまぁ、そんな話さ。
言いたくなかったのは、今の僕らみたいなデリケートな時期に聞かせる話じゃないと思ったんだ。」
「(グスッ、ッ、スッ)・・・反応に困るね(スッ)
でも、そっか~~、そんな風に思ってくれる人がいるなら、やっぱりまた歌いたいな。
・・・あ。そろそろ、ご飯の支度しなくちゃね。」
「手伝うよ。・・・皮くらいなら剥けるし。」
・・・とその時、彼女のスマホが何かの着信を告げた。
「あれ?剣崎さんだ?なにかな・・・
・・・
あちゃ~~。」
彼女が見せてくれたその画面をのぞき込み、
『しまった!』そう思った。
お越しいただき、ありがとうございます。
少し軽めの表現にさせていただきました。
あまり、重々しいと・・・あれですし。
思春期にたぶん多くの人が通過する、『感情の暴走』




