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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の2 中学3年生編 (援助交際疑惑)
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G.W.鷺の沢(その4)

キャンプ2日目は、山登りをすることになったようです。


そこで・・・

  【山が私たちを呼んでいるっ!】


「お父さん、今日は山登りだっけ?」


「うん。みんな準備ができたら、出発するよー。」


 キャンプ2日目の今日は、ここから軽くトレッキングコースに入って山登りすることになっている。スマホで見たら片道2時間くらいのコースのようだ。


「山登りなんて、いつ以来だろうな。」

「2時間も歩くのはなかったよね。」

「僕はキャンプ自体初めてで、とても楽しいよ。」


「高低差は300m位だから、キツくもないだろうし、ちょうどいいかなって思ってね。直樹君はスポーツ何かやってるんだっけ?」


「今はほとんど何もやってないですね、なんで実は昨日のでもう筋肉痛になってます。(笑)」

「僕も筋肉痛が。(笑)」


「コース的に危ないところはないと思うが、それでも注意していこう。筋肉痛も少し歩いて温まればとれるはずだしね。」


・・・

   ・・・


 私たちは、軽く会話をしながら、林の中を歩いていく。


「そういえば、昨日クマの話が出てましたが、最近多いですよね。」


「うん。かなり人間の生活エリアに入り込んでいるからね。もともとそんなに好戦的な動物じゃないはずなんだけど、農作業中の人を襲うとか、その原因が心配だ。」


「ええ、そうですね、道端でばったり遭ってなら、びっくりしてというのも理解できるんですが。」


「ってー、熊の話をしてると、出るよー、クマー、クマー、(笑)」

紗奏がそう茶化した・・・


その時・・・、


前を歩くお父さんの足が止まる。


視線の先には・・・


「熊・・・」


何と林の中から熊さんがこちらを見ている。

(仲間になりたそうに・・・ではない。たぶん。)


「大丈夫だからね、みんな、緊張しないでやり過ごそう。」


私たちは頷いて、熊さんから目線をそらさずに立ち止まってじっと待つ。


すると・・・熊さんが・・・


「本間さん、寄って来たんですが。」


「大丈夫、緊張しないで、あっちに伝わるから、大丈夫だからね。」


熊さんはもうすぐそこ・・・。


「ほら、こっちは人のエリアだよ。

 なんにもないからね。」


お父さんは熊さんに話しかける。


さらに熊さんはこちらに・・・お父さんに近づく・・・


「深呼吸、深呼吸。」


私は静かにみんなに促してみる。

・・・でも、さすがに緊張は解けそうもない。

そりゃそうだよね。


  森の熊さん、『超』目の前です。



でも・・・

あれ・・・?


熊さんがお父さんに鼻先をつけてる?


「よしよし、どうした? 何か用事かい?」


お父さんは静かに話しかける。


そして熊さんは、お父さんに噛みつき・・・

いえ、袖に噛みついて引っ張るようなしぐさをする。


「ん?どうした?」


熊さんは袖を放し、振り返りながら森の方へと歩いていく。


「呼んでるのかな?」


「そうみたいだね。みんなゆっくり行ってみようか。」


そう言って熊さんに続くお父さん。


「俺たちも、一緒に行った方が?」


「うん。離れないでね。大丈夫だから。」


お父さんはそう言い、私たちは熊さんの後をつけることにした。


やがて唸るような鳴き声が聞こえて来る。


「・・・小熊だね。罠にかかったのか。」


「呼びに来たんですね。びっくりだ。」


「本当に賢い動物なんだね。」


そう言って子熊に近づくお父さん。


小熊は暴れて唸る。


親熊はその子熊に何か話すように唸る。


「大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫だから。」


お父さんは罠の様子を見る。


「外れないタイプだね。切るしかないか。」


そう言って目は熊へ向けたままリュックから小さなノコギリを取り出す。


お父さんが小熊の足元に手をやろうとすると、小熊はまた唸り声をあげ、親熊はそれを制するように唸る。


「よいしょ。よいしょ。」


なんと、お父さんはその罠を小さなノコギリで切りだした・・・。

数分で『カチリ』と音がして罠が切り離される。


ほら、もう大丈夫だから・・・


罠が外れると小熊は慌てて駆け出し、親熊もその後を追っていった。


「・・・ふぅ。」


「行っちゃいましたね。」


「うん。俺たちもルートに戻ろうか。」


・・・


みんなまだ緊張冷めやらず無言だ。


「く~まさん、く~まさん♪

 こ~どもがやばいのよ、

 そ~よ、かあさんが、呼~んだのよ~♪」


「ちょっ、梨桜っ、(笑)」


「前も思ったんだけどさ、梨桜ってなんでそんなに落ち着いて居られんだ。」


「ほら、私はファザコンだからね~、お父さんがいれば安心なのですよ~。」


「ぷっ」


「しかし、一時はどうなるかと思いましたが、ほっとしましたよ。」


「俺もびっくりしたな。

 熊は賢いとは聞いていたが、まさか罠にかかった子熊のために、人を呼びに来るとはね。


 心底驚いたよ。

 たぶん、生まれてこの方、一番驚いた出来事だ。」


「小さな罠でしたよね。」


「あぁ。こんな人里離れた畑もないところに、害獣取りでもないだろうし、サイズ的に猟の為なのかもしれないが、昔、食べるものに事欠く時代ならともかく、今の時代にこの方式の罠はない。」


「助けてよかったんですかね?」


「誰かに問い詰められたら、熊に脅されてやむなく、って言っとこう。(笑)」


「昨日冗談で言ってた、本間さんと熊の対決が現実化するかと思いました。」

紗奏もようやく落ち着いてきたようで、そんな冗談を言う。


「熊はともかく、最近はイノシシも多いらしいからね、一応備えはある。」


そういって、リュックのポケットから取り出したもの・・・

え?それ包丁ですよね?・・・鞘に入ってますが?


「それ刀ですか?」


「いや、昨日使ってた柳刃だよ。まさか抜き身じゃ運べないし、かといって布巾でくるんでちゃいざという時役立たないから、頼んで拵えて貰ったんだ。」


「何というか、びっくりしました。」


「決してこれで戦おうなんて思ってないからね。あくまでも身を守る最終手段。備えあれば憂いなし。」


「包丁好きすぎて手放せないだけだったりして~~(笑)」


「っ!、どんだけだよ!(笑)」


「 「あははっ」 」


「いや、しかし、本当にあなたのような人っているんだなー。」


「おいおい、俺ってそんなにおかしい奴かね?」


「おかしくはないです。何というか、梨桜ちゃんが落ち着き払っているのはあなたのおかげなんだなと、つくづく実感しただけで。」


「暴行未遂の時も、梨桜が冷静に男二人を伸してたからね。

 血は争えないってことかな。」


「美沙ちゃん!(笑)」


「あの時だけは、本当に肝を冷やした。

 生きた心地がしないってのはああいうことを言うんだな。」


「でも、ボディーガードはやりすぎだと思いますよ、本間さん。(笑)」


「いやいや、もう全力で守るよ、俺は。(笑)

 あ、そうそう、せっかくだから男性陣に、俺が教えられた言葉を伝えとこうかな。」


「え?なんです?」


「何かを守りたいときは、『守りたい』とか『相手をやっつけてやる』とかそういう意識を持つより、『傷つけさせない』って意識するほうが力が出るんだそうだ。


「なんです?それ?」


「肯定表現より、否定表現の方が意識として強いんだって言ってたよ。

 例えば試合なんかでも、『勝つぞ!』より、『負けない!』という方が気持ちとして強くあれるのだそうだよ。」


「意識の持ち方ですね。心に留めておきます。」


そして・・・

ようやく会話も戻り・・・


しばらく歩くと・・・


「 「 おーー!」 」


視界が開けた。登ってきた方と反対側が見渡せる。


「いー眺めー!」


「さて、あと1時間くらいかな。」


「おー!」


そして、私たちは山頂目指して歩きだした。



  【今日の日を振り返り】


「ふーー、今日は疲れたねぇ」


「ですね、正直寿命が縮みました。」


 私たちは無事山頂まで登り、記念撮影をし、お昼を取り、無事キャンプ場へ戻ってきてお風呂に浸かっていた。


「梨桜の熊さんの歌は笑ったよっ。

 場が和むにもほどがある。(笑)」


「ほら、みんな緊張してると転ぶかもしれないでしょ?(笑)」


「ホント、一家に一台梨桜がほしい!

 お父さん、私に梨桜をください!(笑)」


「あはははっ。君たちは本当に仲がいいね。」


「この二人はデキてますからね、一緒のテントは危ないですよ!」


「むぅ。その時は美沙ちゃんが止めてあげてね。」


「いや、この二人の寝顔は女のアタシが見てもヤバいんですって!(笑)特に、梨桜なんて寝てるときに口元くちゅくちゅするんですよ!あれ夢でも見てるんかな?」


「何か食べてる的な?(笑)

 よだれとか垂らしてないよね?(笑)」


「あたし、先に寝てそれ見てない!(笑)

 よし、今日は最後まで起きててやる!」


「あ、ていうかさ、あの熊さん。」


「うん?」


「夜になってお礼持ってきたりして~~(笑)」


「熊の恩返しか!(笑)

 梨桜はそういう発想の飛躍が面白い。」


「動物も温泉は好きみたいだから、ここへ来たりしてね。(笑)」


「本間さん、そういうこと言ってるとー、また来るよー、クマー、クマー(笑)」


「もうっ!紗奏が言うとほんとにまた来そうで怖いんですけど(笑)」


・・・

   ・・・


「さて、それじゃ上がって晩御飯にする?」


「 「 はーい。」 」


 クーラーボックスを開けると、今朝入れ替えた氷(ペットボトル簡易保冷剤)がまだ残っていた。中から昨日のヤマメの残りを取り出し、ジップロックからカット野菜を取り出し、今日の晩御飯はシチューの他はヤマメの塩焼きなど昨日と変わらないメニューです。


・・・


「それじゃ、カンパーイ!」


「 「 カンパーイ!」 」


お父さんと、直樹さんはビールにしたようだ。

たくさん歩いたし、冷や汗もかいたしね!(笑)


そうして私たちは、この二日間を振り返りながらたくさん話をして、たくさん食べて、キャンプ最終日を楽しんだのでした。


お立ち寄り頂きありがとうございました。


熊は個体によってずいぶん差があるとのことです。

山へ出かけられる際にはご注意を。

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