初恋はいつ?
お父さんの初恋はいつ?
そんな風に娘に聞かれたら・・・?
《突然ですが、娘ができました。2 三年生編》
【初恋】
「ねぇ、お父さん。」
横から梨桜が話しかけてくる。
今でもたまにこうして、こっちで寝ている。
私たち父娘にはまだまだこうして話す時間が必要なのだろう。
共に過ごしてきた時間が圧倒的に少ないのだから。
「ん?」
「お父さんの初恋の話が聞きたいな~」
「初恋か。」
初恋、おそらくあれがそうだったのだろう。
深く心に刻まれたままの遠い記憶。
小さいころ濃く短い時間を一緒に遊んだゆうちゃん。
すぐ向かいのアパートに住んでおり、わずかの期間ですぐに引っ越して
行ってしまった彼女。
「小さいころだな・・・
小学校に入る前だ・・・
近所に住んでいた同い年の、『ゆうちゃん』
多分それがお父さんの初恋だ。」
「ふ~ん。
どうなったの?」
「すぐに引っ越して行ったんだ。広島に。
必ずまた会うと約束したのにな。
結局一度も会わなかった。」
そう、行く手立ては全くないわけではなかったはずだ。
親にねだれば1度くらいは連れて行ってくれたかもしれない。
だが、結局私はそれをしなかった。
「そっか~。
泣いたでしょ、お父さん。(笑)」
「泣いたな。」
「『ゆう』ちゃんじゃなく『ゆい』ちゃんなら良かったのに。(笑)
あ。ねぇ、ゆうちゃんの名前は、『ゆう』っていうの?」
ゆうちゃんの名前、・・・名前は何だったんだろう。
ずっと『ゆう』ちゃんだと思っていたはずだ。だが、どこかで父親が
彼女の名前を呼んだ時、それが本名だったんだと思った記憶がある。
だがそれは『ゆい』だったのだろうか?
なんとなくだが違う気がする。
それから、ゆうちゃんの名字は「さがわ」だった。
それは覚えている。
「『ゆう』じゃなかったな。
だけど本名は・・・思い出せない。
ただ名字は『佐川』だったから、残念だけどお母さんじゃないぞ。」
「そ~う?
お母さんのお父さんとお母さんは亡くなってるから、ひょっと
したら苗字も変わってるかもしれないよっ?
前が、『さがわ』だったりして~。」
そう、唯の父は若くして亡くなり、
女手一つで育てていた母親も亡くなり、
彼女は母親の実家に引き取られたのだと、梨桜が前に語ってくれた。
その祖父母も梨桜が生まれた頃には既に高齢で、直接会わないうちに他
界していたそうだ。だから唯の病気が重くなるに従い、本当に生きてい
く術がわからなかったと、この子はそう言っていた。
実家に引き取られ、名字が母親の元の姓に戻ったとしたら?
それが『八月朔日』だったとしたら・・・?
それ以前の名字が『佐川』だったとしたら・・・?
確かにその可能性は完全には否定できない。
限りなく『ゼロ』には近いが。
しかし・・・
「もし、『ゆう』ちゃんがお母さんならそれはもう確実に運命だな。
ていうかな、梨桜。
だったら俺はあの当時の俺をぶちのめしに行くぞ。(笑)」
「初恋の人を忘れちゃってたなんて、自分を許せない?」
「許さない。(笑)」
「アハッ。」
「そういえば、梨桜。突然そんな話をしてくるってことは、
好きな子でもできたのか?」
「ううん、ぜんぜん。
あっ!、去年一回だけ告られたんだよ!
でも、・・・私はまだまだ恋愛は早いかな~。」
「そっか。」
「ほっとした?」
「ほっとした。」
「ぷっ。
じゃぁ、そろそろ寝るね。
おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
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