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宿直の夜  作者: 楠羽毛
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岩につきささった剣の話

 おれが、南方できいた話をしよう。

 南方で鬼とのいくさが始まってすぐの頃、おれたちの軍はセルナイ山というところに布陣して、あたりを支配していた。

 というのも、そのあたりは高地のせいか立木にとぼしく、山の上に陣取ればあたりの動きが丸見えだったからだ。


 さて、その山頂に、一本の古い剣があった。

 

 山頂にすえられた大岩に、柄に装飾の入った鉄剣が、刀身のなかばまで垂直に突き刺さっていたのだ。大岩は、あきらかに人の手で四角く削られていて、その足元には、古いふるい文字が刻んであった。

 いわく、


 ──○○の年、人の世に危機あり。この剣を抜くものが現れるであろう。


 とか。

 さて、守備隊がさいしょにそこを占領したとき、たまたま古文字を学んだものがいて、これを読んだ。

 その年については、古い暦のもので、わからなかったが、守備隊の隊長は報告をきいて、「さては、今がそのときにちがいない。」と、色めきたった。

 隊長の命令で、守備隊の面々が、次々に剣に挑戦した。しかし、誰一人として、剣を岩から抜くことはできなかった。

 そのうちに、鬼の軍もセルナイのあたりに達して、たびたび攻撃をしかけて来るようになった。しかし、山頂からは鬼の動きがよく見えたので、守備隊は周囲の砦と、のろしで連絡をとりあって、たくみに鬼の軍の背後をついたり、はさみ撃ちにしたりして、進撃を防いでいた。

 さて、そのころ守備隊に新たに配属された兵士で、石工出身の男がいた。

 男も、例にもれず剣を抜くことはできなかったが、ひとつ変わったことを思いついて、隊長に進言した。

「そんなに素晴らしい剣なら、石を削って、掘り出してしまえばいいではありませんか。」

 と、いうのである。

 隊長は、これを許した。だめでもともと、どうせ誰にも抜けぬものならと。

 男は、野戦築城のための大工道具を流用して、石を削りはじめた。もともと、仕事に熱中するたちであり、一度削りはじめると、夜も昼もなくのみを撃ち続けた。隊長のはからいで、その間は、見張りや日課の作業は免除されていた。

 岩はやけに硬く、なかなか削れなかった。それでも、3日も寝ずに続けると、もう少しで剣に達するところまできた。

 いま少し。

 そう思ったとき、ふと眠気が襲ってきて、男は倒れるように寝てしまった。


 起きると、あたりがなんだか騒がしい。


 仲間たちが、あわただしく弓矢をもってやぐらのうえに上がり、大盾をかまえ、火をたいている。

 ときの声もきこえる。


 男が、あわてて立ち上がろうとしたとき、石の台座が目に入った。

 それは、つい先程までのみを撃っていたことがうそのように、元の姿に戻っていた。きれいなま四角で、削った痕すらなかった。

 なぜ、と男がつぶやきかけたとき、やぐらの門が破れて、鬼たちがどっと流れこんで来た。


 その後、今に至るまで、セルナイの周辺は鬼の領土となっている。この話は、生き残りの兵士が伝えたものだが、岩の足元にきざまれた年をあとで調べたところ、もう100年以上も前に過ぎ去っていたという。

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