野人の群れについての話
西方の森には、野人というものがいるらしい。
けむくじゃらの、背の低い痩せた人間、いや猿のようなものたちで、森のなかに群れをなして住んでいるという。
野人は、みな女のようであるという。女しか生まれないのだとも、また、男でも女のように見えるのだともいう。
人を襲うことはないが、好奇心が強いらしく、人のすがたを見ると近くに寄ってじっと見張っているようなことがある。ときには村へ入りこんでものを取っていくこともあるという。
近くの村のものは、もう慣れっこで、野人が寄ってきても手を振って追い払うくらいで、たいして驚きもしないという。
さて、そんな森のはたにある村に、若い兄妹が住んでいた。
両親は早いうちに亡くなり、畑仕事やつくろいものをして、ふたりで力を合わせて生活していた。妹はそこそこに美人であったが、巡り合わせが悪いのか、嫁にいく先は見つからず、兄もまた、良縁に恵まれなかった。
あるとき、兄が畑を耕していると、一匹の野人が、畑のはたに座りこんでいた。さして気にもとめず、追い払おうとしたが、野人は動こうとしない。
仕方なく、そのまま畑仕事をおえて、家に帰ったが、なんとはなしに野人のことが気になって、眠れなかった。
次の日、畑にゆくと、野人が二匹いる。
その次の日は、四匹。
さらにその次は……というふうに、日をまたぐごとに、畑に来る野人の数は増えていった。
このとき、兄がどう思っていたのか、さだかではない。
主に家で働いている妹が、この有様を知ったのは、7日目のことであった。たまたま、かまど番に生地を預けた帰りに、畑に寄ったのである。
その頃には、畑のまわりはもう野人でいっぱいで、兄の姿がほとんど見えぬくらいになっていた。
妹は仰天して、兄を畑から連れ出した。野人は追ってくるでもなく、ただ、去っていく彼らの後ろ姿を、しゃがみこんでじいっと見つめていた。
さて、その日の夕餉の頃、兄から話をきいた妹は、大声をあげて、兄を説得した。もう畑にはゆくな、と。
が、兄はぐるりと丸い目をして、こちらを見つめるばかりだった。
その日の夜半すぎ、兄は家からいなくなった。
妹は夢うつつに、兄がでてゆく音をきいた。ふと目があうと、兄は小さく、「野人に気に入られたゆえ、森で暮らす。すまぬな」と、いった。
妹はふたたび眠気におそわれ、また寝てしまった。次の日、兄がどこにもいないのに気づき、夢ではなかったと知った。
1日待っても、2日待っても、兄は帰って来ぬ。
妹は思いあまって、森のなかに兄を探しにいった。木々のあいだに入ったとたん、野人たちが集まってきた。何をするでもないが、少しはなれたところからこっちを見ている。無視してずんずん進むと、野人はどんどん増えてゆく。
妹は、野人の多いほう、多いほうへと進んでいった。道のないところへ、さらに、これまで踏み入ったこともない、森の奥へ。
そこには、野人がつくったとおぼしき、粗末な小屋のようなものが一軒、建っていた。梁はなく、石積みの壁のうえに板を渡して干し草でふいただけのものであった。
その小屋のそばに、兄がいた。
兄は、倒れた木のうえに腰掛けて、なにかを喰っていた。そのまわりには、野人が大勢とりかこんで、ささやくように鳴いていた。兄に、なにかを差し出しているものもいた。
いつになくやさしげに笑う兄の顔をみて、妹は声をかけるのをやめた。
それから、妹はひとりで暮らしたが、やがて良縁をみつけてどこかに嫁いでいったということだ。




